ある日、夜勤明けでフラフラになりながら家に帰ると、リビングから聞き慣れた笑い声が聞こえてきました。
そっとのぞくと、そこにはくつろぎながらお菓子をつまんでいる義母と義妹の姿が。テーブルの上にはまとめ買いしていたスナック菓子の袋がいくつも広がり、床にはこぼれた食べかす。キッチンのシンクには大切にしていたマグカップが置かれていました。
「ただいま……」と声をかけてみると、義母は振り返ってニコニコしながら言いました。
「あら、おかえり〜! 夜勤明けだったわよね? お疲れさま〜」「新築の家、どうしても見たくてねぇ。息子が『いつでも来ていいよ』って言うから、ちょっとお邪魔しちゃった!」
夫に確認すると、たしかに「いつでもきていい」と声をかけたようです。しかし家主である夫や私の不在時、家に滞在されるのはあまり好ましくありません。
それに私は一睡もしていない夜勤明け。すぐに眠りたいところですが、義母たちが気になってそれどころではありません。
家主不在の家に義母が……
ヘトヘトになりながらも着替えをしようと寝室に目を向けると、ドアが半開きになっています。夫も私もドアはしっかり閉めるタイプです。義母か義妹が勝手に寝室のドアを開けたのかもしれません。
義母に尋ねると、まったく悪気はないと言う口ぶりで「壁紙がすっごくかわいいってお兄ちゃんから聞いたから、ちょっと見せてもらっちゃった」と笑います。
寝室はプライベートな空間です。無断で入られることには、強い抵抗感がありました。
「勝手に寝室に入られるのは、正直ちょっと……」と伝えると「家族なんだし、寝室くらいどうってことないでしょ? うちは寝室を見られても全然気にしないわよ~」と言う義母。
「“家族だから”遠慮しない」のと、「“家族だからこそ”最低限の配慮をする」のとでは、大きな差があります。その感覚のズレに、私は強い疲労感を覚えました。
嫁と元カノの比較
翌日、義母からメッセージが届きました。「昨日はお世話になりました。でも、まさか『そろそろお帰りください』だなんて……ちょっとショックだったわぁ」
昨日の私は眠気の限界。義母をおいては寝られないので「明日も仕事なので」と、おいとまをお願いしたのです。
続いて、お菓子についても苦言がありました。「看護師なのに、ああいうお菓子を選ぶなんて」と責められ、正直うんざりしました。
そして話題は、夫の元カノへ。義母は、手作りのお菓子を持参し、どんな場面でも笑顔で手伝っていた夫の元カノを引き合いに出し、疲れた表情を隠せない私と比べるような言い方をしてきたのです。
「あなたも見習ったらいいかもね」遠回しながらも、はっきりと突きつけられた評価を、笑って受け流す余裕はありませんでした。
同居は決定事項
そんなある日、夫が唐突に切り出しました。「母さんたち、この家気に入ってくれたみたいでさ。それで……これから一緒に住もうって話になったから。母さんと親父、それから妹も一緒。みんなで同居だな!」
これはもう決まった話だそう。事前の相談は一切ありませんでした。
私は夜勤のある仕事をしており、家事の大半も担っています。同居するということは、家事の負担も増えるでしょう。それに、気兼ねなく体を休める環境ではなくなってしまうかもしれません。
しかし夫は「人数が増えても家事は同じ」「今まで通りでいい」と軽く受け流しました。
その言葉を聞いた瞬間、堪えていたものが切れました。せめて家事の分担や生活圏の線引きを提案してくれると思っていたのに「嫁なんだから家族の世話をするのは当然」と言い切る夫に、がっかりしてしまったのです。
夫に抱いた違和感
同居の話をきっかけに、私はあらためて夫との関係を見つめ直しました。すると、ここ数カ月の夫や義母たちの行動に、ある疑惑が浮かんできたのです。
夫の出張がやたらと増えたこと。休日出勤だと言いつつ、給料が増えていないこと。そして義母や義妹がやたらと元カノの話をすること――まるで、今でも元カノと連絡を取り合っているような距離感で話をするのです。
いくつもの違和感が重なり、このままでは自分の気持ちが保てないと感じた私は、冷静になろうと調査会社に相談しました。
数週間後、届いた調査報告書には、夫の行動が事細かに記されていました。
「出張」と言っていた週末、夫は元カノと2人で温泉旅館に宿泊。街中を仲良く歩く写真や、旅館のロビーで笑い合う姿が添付されていました。また、私が仕事でいないとき、元カノがわが家に来ていることも……。思ったとおり義母や義妹も夫の浮気の共犯者だったのです。
報告書を読み終えたとき、涙は出ませんでした。代わりに出てきたのは、深いため息と「やっぱり」という諦めにも似た感情でした。
元カノの存在
後日、夫は再び同居話を持ちかけてきました。「嫁は同居して当たり前」と主張します。そこで私はすかさず「『本当の嫁』に伝えておくね。あなたが今、本当に一緒に暮らしたいのは、私じゃなくて元カノなんでしょう?」と告げたのです。
夫は明らかに動揺した様子で、「なんで元カノの話が出てくるんだよ」と声を荒らげました。
私はそんな夫の前に、調査会社からの報告書を差し出しました。それを見た夫は「遊びだった」「義母や義妹に持ち上げられただけだ」などと言い訳は並びましたが、一度の裏切りで信頼は終わり。私はその場で離婚を決めました。
夫が本気で焦ったのは、離婚そのものより「家」と「ローン」の話になってからです。夫は義両親と私たちの家に住み続けたかったようで、散々権利を主張しました。しかし新築の家のローンは夫の収入だけでは返済が難しいことがわかり、家を出るのは夫のほうになりました。
その後、夫は元カノとやり直し、再婚を考えていたようですが、同居やお金の問題で関係はすぐに破綻したと聞いています。理想ばかり語ってきた夫にとって、現実の生活を回していくのは想像以上に厳しかったのでしょう。
私はその一方で、離婚を機に自分の生活を立て直しました。「家族だから」「嫁だから」と我慢を重ねる人生ではなく、自分で選び直した今の暮らしのほうが、ずっと穏やかです。
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「家族だから」「嫁だから」と言われると、自分の気持ちや“ここまでが限界”という感覚を押し殺してしまう人は少なくありません。けれど本来、家族とは誰か一人が我慢し続ける関係ではないはずです。
だからこそ、「仕方がない」と飲み込む前に、夫や家族と対話を重ねることが大切なのかもしれませんね。
【取材時期:2025年11月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。