なかなか計画通りには進まない不妊治療。仕事をしながらの通院は、困難を極めます。治療内容によっては早退遅刻、休暇も必要になることも。仕事仲間に打ち明けられず、両立にストレスを感じる人も少なくありません。
職場には知られたくないーー。そう思って、こっそり通院した女性の物語をお届けします。ケース2、下村豊華さん(42)の場合。
31歳で結婚。子どもができたら専業主婦を望む夫、しかし正社員で総合管理職の仕事は下村さんにとって自分の価値を認めてもらえる場所だった。34歳で稽留(けいりゅう)流産し、手術のために入院したタイミングで多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と診断され、35歳で不妊治療を開始することに。
会社には言えない…仕事との両立のために選んだ職場近くのクリニック
不妊治療のことは、会社には言わないでおこうと決めていた。というより、言える雰囲気ではなかった。
「当時の私の職場は男性の方が多くて、出産しても働いている女性が1人もいなかったんです。結婚妊娠で辞めていく女性がほとんどで、有給すら使いづらい雰囲気でした」
結婚出産で退社するのは当然、お茶汲みや電話の担当は女性が当然という旧態依然とした職場が、「不妊治療は恥ずかしい」「言ったって誰も理解してくれない」という思考回路に追い込んだ。「子どもができない体と思われるのでは」という被害妄想もあった。
会社が従業員の不妊治療を把握してないケースは多い。厚生労働省が2017年に実施した調査(平成29年度『不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査』によると、半数以上の企業が「把握できていない」と答えた。さらに不妊治療に特化した制度がある企業はわずか19%だった。
治療もしたいが仕事もしたい。この2つの願いを叶えるため、クリニックは自宅ではなく会社に近いところを探した。
選んだクリニックは、会社のある渋谷駅から電車で20分以内の場所にあった。インターネットの口コミ評価が高く、望んでいた自然妊娠(タイミング法)に力を入れていた。多嚢胞性卵巣症候群でホルモン調整は必要だが、それ以外に問題はなく、夫側にも問題はなかった。
「可能なら人工授精ではなく自然妊娠したい」との思いがずっとあった。そして、自宅から1時間以上かかるこのクリニックに望みをかけることにした。
午前6時半に出発…通院と仕事との両立に疲弊
ベビーカレンダーの独自調査によると、「仕事をしながら不妊治療を行ったことがある人」のうち、「不妊治療を辞めた」理由として最も多かったのが「通院スケジュールを事前に立てることが大変だった」という結果になった。
豊華さんも通院スケジュールに悩まされていた。卵の大きさによっては「明日来てください」「明後日来てください」と急に来院日を指定された。タイミング法を選んでいた豊華さんの診察は、排卵前後になると頻回になった。2日おき、3日おきになることも。
けれどもメーカーとのアポイントもあった。仕事を休むことはできない。かといって遅刻や早退もできない。信頼を失いたくなかった。平日の診察は始業前に通院するか、残業しないで駆け込むかの二択だった。
会社の始業は9時から。クリニックの平日の診察は午前8時からだった。できるだけ早い順番を取るため、午前7時半には到着するようにした。診察のある日は午前6時半に家を出る。冬の朝はまだ薄暗く、突き刺す寒さがえらくこたえた。
朝一番の待合室では、いつも時計との睨み合いだった。午前9時までのカウントダウン。診察では超音波で卵の成長を確認する。「今回はだめだねぇ」と言われ沈む日もあった。
診察はたった5分で終わる。よし、終わった。足早にクリニックを後にする。渋谷駅に着くと何事もなかったかのように“いつもの顔”をして出社した。診察が遅れて会社に遅刻した日は、「電車に乗り遅れました」と苦しい嘘をついた。
「こんな生活、いつまで続くの」
そんな想いがふと胸を過った。
◇ ◇ ◇
仕事と不妊治療。心身ともに限界……。
次回、豊華さんに訪れた思いもよらぬ奇跡とは……?
>後編へつづく
【調査概要】出産のタイミング・不妊治療に関するアンケート
調査対象:株式会社ベビーカレンダーが企画・運営している
「ファーストプレゼント」「おぎゃー写真館」「ベビーカレンダー全員プレゼント」
のサービスを利用された方
調査期間:2021年1月28日(木)-2月3日(水) 調査件数:2,868名