不妊治療体験者の声を取材した連載、第3回目となる今回は、妊活2カ月で不妊治療を始め、その4カ月後にタイミング法で授かった女性の物語をお届けします。ケース3、小林夏美さんの(29・仮名)の場合。
27歳で13歳年上の夫と結婚。妊活に非協力な夫は、自然に任せたいから通院はしてほしくないと言う。果たして……?
妊活から2カ月、夫に反対されながらも1人で産婦人科へ
夫の理解を得ることは容易ではなかった。妊娠はそんな簡単なものじゃない。正しい情報を集めていた夏美さんは、強く反論したかった。しかしぐっと言葉を飲み込み、その場はそれきりの話し合いで終わらせた。
「反論したかったけど、これから先、夫婦関係が気まずくなってしまう方が危険だと思って。悔しかったけど引き下がりました。でもわたしが安心したかったので、1人で産婦人科へ行きました」
一歩目は踏み出しやすかった。向かったのは、生理痛で10年近く通っていたかかりつけの産婦人科クリニック。主治医は顔なじみのおばあちゃん先生だった。話しやすく、生理の状態も知ってくれていた。まずはタイミング法を試しながら、検査を進めることになった。
気絶しそうな人生最大の痛みを味わうことに
通常、不妊治療の検査は男女ともに行われる。日本生殖医学会によると、女性側は①内診・経膣超音波検査、②子宮卵管造影検査、③血液検査が一般的な検査とされている。
夏美さんの場合、第一段階として行われた検査の一つが「通水検査」だった。子宮内にカテーテルをいれて生理食塩水を注入し、卵管の通り具合を調べる検査だ。一般的に麻酔を使用しない検査で、「多少の痛みは伴います」と説明を受けて臨んだのだが、ここで人生最大の痛みを味わうことになる。
激痛どころじゃない、気絶しそうな痛みだった。
「究極の痛みで、便が漏れてしまいそうなほどでした。寒くて怖くて……。顔面蒼白になってしまいました」
カルテに書かれた「不妊症」の文字、頭が真っ白に
ここで夏美さんの“嫌な予感”は確信に変わったという。
わたしの体に何かが起きているーーー。
普通の検査でこれほど壮絶な痛みを感じるなんて、きっと体に何か原因があると直感したという。その日は何も診断が出ず、結果が出るまで1週間を待った。
翌週、結果を聞きに訪れた診察室で、予想だにしない言葉が医師の口から出た。
「片方の卵管が見えません。通りが悪すぎるから、ちゃんとしたところで調べないと」
不妊治療専門のクリニックを紹介され、卵管の造影検査をすることになった。同学会によると、子宮卵管造影検査とは、「X線による透視をしながら子宮口から造影剤を注入し、子宮の形や卵管が閉塞していないかを見る検査」のこと。
さらに子宮の形態を詳しく調べるため、総合病院で子宮のMRI検査も受けた。
1人で検査結果を聞きに行くと、医師のカルテには「不妊症」の文字。
震えた。
不妊症の原因が明らかに!思わぬ事実が発覚
説明の前から頭が真っ白になった。医師は淡々と説明した。
「普通の人は卵管が2つあって、子宮は鶏の卵くらいの大きさがあるけれど、あなたの場合は卵管が1つしかありません。子宮は半分くらいの大きさでとても小さいです。もし妊娠できたとしても、体が異物だと思って流してしまう可能性があります。
妊娠したあとも大変だから、大きな病院で診てもらってください。まずは妊娠しないと話が進まないから、不妊治療専門クリニックに紹介状を書きますね」
夏美さんの子宮は「単角単頚(たんかくたんけい)」と呼ばれる珍しい先天性の子宮奇形で、通常の半分の大きさで小さく、片側に寄っており、2つあるはずの卵管が1つしかなかった。長年悩まされた生理痛の原因でもあった。
病院の帰り道はふらふらだった。本当は誰かにしがみつき、声を出して泣きたいくらいだった。
ポケットに、飴が1粒入っていた。袋を開ける手と飴をなめる口が、小刻みに震えていた。これからどうしよう。
込み上げる涙と一緒になめた飴の甘みが、これでもかというくらい心にしみた。とりあえず夫にLINEを送った。
「家でちゃんと聞きます。
とりあえずおつかれさま」
短い文章から、夫の動揺も伝わってきた。
◇ ◇ ◇
夫に内緒で行った産婦人科。そして発覚した子宮奇形。まずは妊娠のために、不妊治療専門の病院へ通うことになった夏美さん。
次回、不妊治療の結果が明らかに!