トリに抜擢!でも、過去のトラウマが頭をよぎる
ピアノの発表会でトリに抜擢された娘。
私と夫は、娘の演奏を記録するために、スマホにカメラまで買い替えて準備万全です。
発表会は楽しみですが、実は娘には発表会でうまく弾けなかったという苦い経験が……。
私と夫は、娘にプレッシャーを与えないように気をつけながら、本番を指折り数えていました。
トリは実力じゃないの。どれだけ先生に取り入ったか!
いよいよ発表会当日! 楽屋で準備をしていると、娘の友だちとママ友がやってきました。
「あら〜、トリを務める娘ちゃんじゃないのぉ〜」
ニヤニヤといじわるな顔で娘に話しかけるママ友。
娘がトリを務めることがよほど悔しかったのか、「いったいどんな手を使ってトリをつかんだのかしらぁ〜」と、敵意むき出しで話しかけてきました。
さらには、緊張した面持ちの娘に「娘ちゃん去年ミスしてたわよね。今年は頑張ってね」と追い打ちをかけます。
すっかり元気を失った娘。大丈夫かな……とうしろ髪をひかれながらも、私は客席に向かいます。
震える手で弾ききったハーモニー
「今年はどんな失敗を見せてくれるのかしら〜」
たくさん席が空いているのに、わざわざ隣に座ってくるママ友。
ステージの娘は、震える手を鍵盤に置いたまま固まってしまいました。
「緊張しちゃったのかな……。失敗してもいいんだよ! 」
私の声は娘には届きません。
会場がざわつきはじめたとき、ポロ〜ン♪ という美しい音色が響いたかと思うと、次の瞬間、なんと娘は全身を使ってピアノを演奏しはじめました。
演奏が終わると数秒の沈黙ののち、大きな歓声があがり、まさかのスタンディングオベーションが沸き起こりました。
表現力に満ちたハーモニーに涙する人もいたほど! 娘は前回の苦い経験を乗り越え、立派すぎるほどの演奏を披露したのです。
小細工したはずなのに!! なんで?!
なりやまない拍手の中、ステージの幕が下ろされます。
「なんなのよ!!!」
真っ赤な顔で怒るママ友は、幕が下りたステージにズカズカと入っていきます。
「うまく弾けないようにピアノに小細工したはずなのに! なんで!?」
ステージの幕は下りましたが、マイクのスイッチがオンのままであることに気が付かないママ友。声は一言一句客席に筒抜けです。
さらにざわつく会場。
なんとママ友は娘が失敗するように、私の顔写真で作ったシールを鍵盤に貼っていたのです。
しかし、ママ友の動きを不審に思った夫は鍵盤に貼られたシールに気が付き、娘の出番の前にシールを剥がしたのでした。
ところで、なぜシール? と思いますよね。心がやさしく母親思いの娘は、例えシールとはいえ、私の顔を指で思いきり押しつぶすことにちゅうちょしてしまいます。なんとこの作戦、前回の発表会でもママ友が娘の邪魔をするためにおこなっていたのでした。
観客の目の前で悪事を暴かれたことで、かわいそうなことに娘の友だちはピアノ教室を辞めることになりました。
◇ ◇ ◇
ピアノの才能がある娘の友だちに嫉妬した挙句、散々恥を晒し、幕を下ろされたママ友。
ライバルの足を引っ張ろうとした結果、自分の娘の足を引っ張るという最悪のパターンになってしまったのでした。
どんなにかわいいわが子のためであっても、人を妨害する行為はよくありません。切磋琢磨できる友だちがいることに感謝し、応援できる親でありたいですね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。