元夫の葬儀
プルルルル〜♪
ママ友からの着信を見て、ため息をつく私。
放っておくと延々となり続けそうだったので、しぶしぶ電話をとりました。
「久しぶり〜! あのね、夫のお葬式に参列してほしいのよ〜! 家族葬なんだけど、彼はあなたの元夫でもあるから呼んであげようと思って」
スマホから聞こえるのは、夫が亡くなったとは思えない明るい声。
遺産が手に入ることがうれしくて仕方がない様子が、手にとるようにわかります。
私とママ友が知り合ったのは3年前のこと。
当時シングルマザーだったママ友は、娘の授業参観で夫に出会いました。
夫はママ友の好みのイケメンで、どストライクだったよう。
私のことは気にもせず、猛アタックし始めたのでした。
遺産が1円ももらえないなんてかわいそう
葬儀場に到着すると、うれしそうに遺影を抱えるママ友の姿が。
「夫を奪われて離婚……生活も大変なのに、彼の遺産は1円も入ってこないなんて、かわいそう」
見下したようにニヤついています。
これ以上相手にできない!
「やだぁ〜! 私、離婚してませんけど〜。彼は私の夫です」
そろそろタネあかしの時間がやってきます。
そのとき、葬儀場の入り口に夫の姿が!
遺影に写る顔が目の前に現れたものだから、弔問客も驚きを隠せません。
「どういうこと?!」
ママ友も信じられない! という顔で立ち尽くしていました。
入れ替わり作戦を決行!
遡ること3年前。ママ友の猛アタックに困っていた夫は、義兄に相談を持ちかけました。
しかしママ友の写真を見た義兄は
「俺、メッチャタイプ! その気の強さも最高だなぁ〜。俺が代わっていい!?」
と、誰も思い付かないような提案をしたのです。
実は義兄と夫は双子。知り合って間もない人たちからは、見分けがつかないと言われるほどにそっくりなのでした。
最初は大反対していた夫でしたが、ガンを患い余命1年という義兄の説得に折れ、入れ替わりを決意。そこからは3人で念入りに相談を重ねました。
もちろん、夫婦の愛情や信頼関係が芽生えたら本当のことを話そうとしていましたが、ママ友は義兄の話に聞く耳を持ちません。
義兄からお金をもらい、遊び回る日々を送っていたのです。
その間夫はというと、ちょうど良いタイミングで長期の出張の話があり、今日まで海外赴任をしていたのでした。
遺産なし!借金あり!
3年もの間、夫と義兄が入れ替わっていることに気が付かなかったママ友。
診断書や祭壇の名前で別人と気づくのでは?と思うかもしれませんが、そもそも私の夫の下の名前を伝えていなかったので、義兄のことを夫だと完全に信じ込んでいたのです。
さて、ママ友が期待していた遺産ですが、実は義兄の残したお金を使い切ってしまい、残りはゼロ! それどころか、義兄は夫に借金までしていたのでした。借金は義兄と結婚していたママ友が払わなければなりません。
顔も名前もそっくりな双子でしたが、金遣いだけは似ていなかったのですね!
余命1年といわれていた義兄も、寿命を2年延ばし充実した結婚生活を送っていたよう。
義兄は幸せな余生を、夫は平穏な家庭を、しっかり手に入れたのでした。
◇ ◇ ◇
ママ友はイケメン社長という表面的な魅力に惹かれ、相手のことをよく知ろうともせずに思い込みで突き進んでしまった結果、痛い目にあいました。本当の幸せとは、外見やお金ではなく、相手の人となりを知り、信頼関係を築くことにあるのかもしれませんね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。