最近引っ越してきた“派手なママ”
私の夫は、アパレル会社を経営していています。
私は仕事柄、いろいろなデザインの服を着る機会がありますが、普段は動きやすくてシンプルな服が好み。
一方、いとこのA子はおしゃれが大好きで明るい性格。夫からもらったサンプル品などをよくA子に譲っていて、彼女はいつも素敵に着こなしてくれていました。
そんなある日、A子が夫の会社の新作ワンピースを着て近所を歩いていたところ、派手なファッションに身を包んだ女性・B美さんに声をかけられたそうです。
「えっ、そのワンピース……◯◯(ブランド名)の最新作よね? まだ予約受付中だったはずだけど?」
と目を丸くしたあと、
「あ! あなたって、もしかして社長夫人!? そうじゃなきゃその服はまだ手に入らないはずだもの!」
と、急にテンション高めに話しかけてきたそう。
思いがけない勘違いに戸惑ったA子は、「いえ、違います。親戚がその会社に関わっていて……」と説明しようとしましたが、B美さんはまったく聞く耳を持たず。
「うふふ、そうやって隠すのが本当のセレブって感じよね〜。大丈夫、誰にも言わないから♪」
と勝手に“社長夫人”に仕立て上げて、満足そうにその場を立ち去ってしまったそうです。
A子の着ていた未発売のワンピースに加え、ブランドロゴの入った上質なバッグ、落ち着いた雰囲気が、B美さんの思い込みに拍車をかけてしまったのでしょう。
ちなみにB美さんとは、私も以前から面識がありました。児童館で何度か顔を合わせたことがあるのですが、人の持ち物をジロジロ見たり、勝手に家庭事情を想像して話しかけてくるようなところがあって……正直、あまり得意ではないタイプでした。
貧乏な親子だと見下され…
翌週、私とA子、娘の3人でショッピングモールの水着売り場へ出かけたときのこと。ちょうどA子がトイレに立っていて、私と娘だけで商品を見ていると、B美さんに遭遇しました。
私たちを見るなり、B美さんは口元をゆがめて、「あら、水着なんて買えるのね。てっきり節約生活中かと思ってたわ」と嫌みたっぷりの発言。
さらに、「今度ママ友たちと海に行くのよ。あなたたちも一緒にどう? うちの夫の高級車で連れて行ってあげるから♡」と、こちらの都合も聞かずに自慢げに誘ってくる始末。
私が苦笑いしながら「予定があるので……」とやんわり断ると、娘がぽつりと、「うちはプライベートビーチに行くから」と言いました。
実際に夫の知人の別荘に招かれてプライベートビーチに行くことが多いのですが、B美さんは「ふふ、おもしろいこと言うのね」と鼻で笑い、あきれたような顔をしていました。
ちょうどそのとき、A子がトイレから戻ってきたのですが、A子の姿を見た瞬間、B美さんの態度が豹変。
「あら奥様! そのスカート、もしかして◯◯(ブランド名)の新作? やっぱり社長夫人はセンスが違うわね〜!」と、急に声色を変えて持ち上げ始めたのです。
そして私と娘にチラッと視線を送りながら、「こんな庶民的な親子と一緒にお買い物なんて、大変ね」と、あからさまに見下した発言。
A子が「いや、だから違うんですって……」と否定しても、「ふふ、大丈夫。私、誰にも言わないから♡」と目配せして、勝手に話を終わらせてしまいました。
真相が明らかになり顔面蒼白!
そのとき、近くのショップから出てきたB美さんの夫が、私たちのほうへ歩いてきました。
B美さんが得意げに「あなた見て、社長夫人とお買い物中なの♡ こんな庶民的な方と一緒にいるなんて、やさしいわよね」と声をかけると、彼はぎょっとしたような表情に。そして私を見て、ぺこりと頭を下げ、こう言いました。
「こちらが……社長夫人ですよね? ご主人にはいつもお世話になっております。うちの会社、○○さん(夫)のところと取引があるもので」
その瞬間、表情が凍りついたB美さん。
「……え? この人が……?」
私とA子を交互に見て、顔がみるみる青ざめていきます。
彼女の様子に気づいた夫は、苦い表情を浮かべながら改めて私に向き直り、深々と頭を下げました。
「本当に申し訳ありません。うちの妻が、勝手な思い込みで失礼なことをしてしまったようで……。○○さん(夫)にもご迷惑をおかけしていたらすみません」
するとB美さんは慌てて口を挟み、
「ち、ちがうのよ!? そんな本気にしたわけじゃないの! あはは……冗談よ、冗談……」
と声をうわずらせて弁解しはじめましたが、目は泳ぎ、明らかに動揺しているのが伝わってきました。
私は静かに一言だけ伝えました。
「……人を見かけで判断するのは、やめたほうがいいと思いますよ」
それを聞いたB美さんの夫は、再び私に頭を下げ、「本当に、うちの妻が申し訳ありませんでした」と丁寧に謝罪。
B美さんは何も言い返せず、私たちに視線も向けられないまま、小さく会釈をして、足早にその場を立ち去っていきました。夫も再び私たちに一礼すると、妻のあとを追っていったのでした。
私とA子は、なんとも言えない空気の中で顔を見合わせ、思わず小さくため息をつきました。
人を見た目や肩書きだけで判断して、勝手に決めつける——。
そんな思い込みが、思わぬ恥をかくことにつながるのだと、今回の出来事で実感しました。
私自身は、相手の本質を見極められるような大人でいたいし、
誰かを値踏みしたり、見下すような人とは、これからも適度な距離を保ちたいと思います。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。