社会人になっても、娘の「ニセモノ」呼びが変わることはありませんでした。最初のうちは注意していた夫も、いつのころからか一緒に私を無下に扱うように……。もうこの家に私の居場所はないのかもしれないと思い始めていました。
ニセモノ扱いされる私
「お誕生日おめでとう」
誕生日の朝、まだ眠そうな娘にお祝いの言葉をかけたものの、案の定スルー。しかし、夫が同じようにお祝いの言葉をかけると、猫撫で声で返事をしています。キャッキャとはしゃぐ2人には、まるで私の姿が見えていないよう……。そのとき、娘がこんなことを言い出しました。
「今度の休みに彼を連れてこようと思うの! 私、結婚する!」
夫もビックリしていて、どうやら初耳のようです。
お相手は一流の商社に勤めるエリートサラリーマンで、その肩書を聞いただけで夫も大喜びです。そんな素敵な結婚相手が来るのなら、しっかりおもてなしをしないと! と私は張り切っていました。
しかし「ニセモノはいなくていいわ」と、娘は私を拒絶し、結婚式にも呼ぶつもりはないと宣言されてしまいます。その発言を聞いた夫も、かばうどころか娘の発言に納得している様子。こんな2人の態度は許し難いものがありました。
来るなと言われたけれど…
それから数カ月後ーー。
いよいよ娘の結婚式がやってきました。ニセモノの母親は来ないように言われていましたが、私も式場に出向いています。もちろん、娘を祝うためではありません。他の人から招待されたので、来ないわけにはいかなかっただけです。
できるだけ身を潜めていたつもりでしたが、夫と娘にあっけなく見つかってしまいました。「なんでいるの!?」と娘は声を荒らげますが、ちゃんと招待されたとしか言いようがありません。もちろん聞き入れてもらえず、娘は私を会場から引きずり出そうと躍起になっていました。
するとそこに、新郎がやってきて私に声をかけました。横で見ていた夫と娘は、事情がわからずに動揺しています。
「紹介するよ! 俺の大先輩で母親のような大切な上司なんだ! 」
実は新郎は、私が長きにわたり育てていた会社の後輩だったのです。
遅すぎる謝罪
新郎は、それまでのやりとりも見ていたようで、娘に詰め寄ります。
「さっき『ニセモノ』って呼んでたのが気になったんだ。もしかして育ててくれたお母さんに向かってそう言ったの?!」
娘が答えに詰まっていると、「俺はお前がそんな女だとは思わなかったよ!」と怒ってしまいました。
娘は結婚が白紙になってしまうと焦ったのか、慌てて私に謝罪しましたが、今さら受け入れられません。
「その場しのぎの謝罪だったらいらないよ! もうかれこれ10年以上も暴言やひどい呼び名に傷付いてきたの」と私は娘に伝え、夫と離婚し、家族を辞めることを告げました。
一度は家族だったのに…
結局、娘の結婚は破談に……。
新郎は私にとっても大切な後輩で、幸せになってほしいと願っていたけれど、結婚相手としてわが娘を自信を持って勧められない以上、フォローはできませんでした。また、わが子のようにかわいがっていた娘が悲しむ姿を見るのはつらいものがありましたが、ここまで私を拒否するのであれば割り切るしかありません。
しかし私も鬼ではありません。ここから先、別の人生を歩むことになりますが、陰ながら娘の幸せを願っています。
血の繋がりがないとわかっただけで、ここまで態度が変わってしまうのは悲しいものがありますね。一度は家族だった母娘……。娘が親になったときに、自分のおこないを後悔し、2人が和解できる日が来ることを願います。