買い物から帰ってきた私は、自宅の郵便ポストに夫宛てのハガキが届いていることに気がつきました。差出人の名前はなし。裏返して見ると「パパ、早く会いたい」という、子どもが書いたような幼い文字……。私はギョッとしてしまいました。
夫に隠し子!?
夫は初婚で、子どもなどいないはずです。何かの間違いかと思ったけれど、なんだか不安な気持ちになりました。
不審な出来事はこれだけではありません。隣の奥様から「いつ家を出て行くのか?」と聞かれ、何のことかわからない私はキョトンとしてしまいます。話を聞くと、先日夫の正妻だと名乗る女性が男の子を連れて挨拶に来たそう。私が出て行った後にこの家に引っ越してくると言っていたと話します。
わけがわからず気が遠くなる私。あの不可解なハガキは、本当に夫の子どもが送ってきたのかもしれません。あまりのショックに、そこからのことは覚えていません。気がついたら自宅のソファーに座っていました。
ドアの向こうに立っていたのは…
するとそのとき、自宅のインターフォンが鳴りました。私が玄関を開けると、そこには1人の女性と5歳くらいの男の子が立っています。
「はじめまして。ミサエと申します。あなたの夫の妻です。この子は息子のケント。あなたの夫の子どもです」
それから一方的に話すミサエ。いつまで経っても私が出ていかないので、痺れを切らして会いにきたのだそう。夫の浮気など疑ったことのなかった私は、呆然としてしまいます。何も言い返さない私にヤキモキしたミサエは「息子のためにもすぐに出ていけ」と言い残し、去っていきました。
自称夫の妻の正体
その日の遅く、仕事から帰宅した夫に私は詰め寄りました。「今日ミサエって女が来て、私に離婚しろって! どういうこと? あの男の子はあなたの子どもなの!?」夫もびっくりしていますが、嘘をついているような雰囲気ではありません。
ミサエの正体がわかったのは数日後のこと。私と夫はとある弁当屋の前にいました。そこでレジを打っていたのがミサエです。彼女は夫の会社に昼食を届けにくる弁当屋のパート従業員でした。しかし、お弁当の受け渡しくらいしか接点がなく、夫にも心当たりはないのでした。
夫の姿を見て「嬉しい!会いにきてくれたのね♡」と嬉しそうなミサエ。対する夫は「僕がいつ君と結婚して、息子さんの父親になるなんて言った? 僕はそんな約束をしたことは一度もない!」 と冷静に返します。
しかしミサエの言い分は違っていました。
「おいしくて大好きなんです」と夫は弁当を褒めたはずが、大好きなのは自分だと思い込み、息子の写真を見て「かわいいな〜僕も子どもがほしいんです」と言えば、息子のパパになってくれるものだと勘違いし、どれもこれもとんでもない解釈ばかり。
何を言ってもミサエは譲りません。挙げ句、私がいるから話を合わせているだけだと言い張るのでした。
想像と現実の区別がつかなくなった女は…
どうやらミサエは妄想が膨らみ、いつの間にか想像と現実の区別がつかなくなったようです。しかし、近所に妄想を言いふらされた私は、たまったものではありません。自宅も夫を尾行して突き止めたというからドン引きです。
私たち夫婦は、名誉毀損や精神的苦痛に対する慰謝料を請求することにしました。
幸い、すぐに異動の辞令がおりたので、私たち夫婦はこの街から引っ越すことが決まり、近所の人から向けられる好奇の目も逃れることができました。
あまりにひどい勘違い……。一度は夫を疑ってしまいましたが、今回の一件で絆が強くなったと感じています。誰にでもやさしいのは夫の良いところですが、こんなにも恐ろしい勘違いを生むこともあるのだと勉強になった出来事でした。