彼は、私と娘のことをやさしく見守ってくれる存在です。娘も私の恋愛には好意的で、いつも背中を押してくれます。再婚が現実味を帯びてきた今が顔合わせにはちょうど良いと思い、2人を引き合わせました。
彼に対する娘の意外な反応
再婚は娘の承諾が必須。そういう条件だったので、彼は娘に嫌われないようにと、顔合わせに緊張を隠せない様子でした。娘は彼に会ったことはありませんでしたが、恋愛の後押しもしてくれていたので、うまくいくと思っていたのですが……。
娘は彼の顔を見た途端、目を見開いて黙ってしまい……。その日は顔合わせもそこそこに、すぐ帰宅。自分が何かしてしまったのではないかと心配する彼に、私は風邪でもひいたみたいだとごまかしました。娘の様子から何かあるのではと思いましたが、その日は何も聞かずに休ませることに。
小さな会社ですが、私は代表を務めています。会社を軌道にのせ、娘とゆっくり過ごす時間を持ちたい。そう話すと、彼は自分が一緒に暮らしたらそういう時間がすこし持てるのではないかと言ってくれました。
家事の得意な彼が、ピカピカにした家でおいしい料理を作って私の帰りを待ってくれるんですって。彼は本当に、私にはもったいないくらいのやさしい人。それなのに、今まで独身だったのはきっと私に会うためだったとも言ってくれて……。
娘の顔合わせでの反応が気にはなっていましたが、そのことを忘れそうなくらい私は彼に首ったけでした。あのことを知るまでは……。
えっ?彼は死んでいる!?
「ママあの人と結婚するの?」
「どうしたの?」
「彼と会って気になるところがあったかな?」
顔合わせの翌日、娘が尋ねてきました。胸騒ぎを覚えたのは、やはり勘違いではなかったようです。そして思いがけない娘の言葉に、私は一瞬言葉を失いました。
「ママあの人、死んでいるよ」
じつは娘、先日親友の家で亡くなったお父さんの写真を見せてもらったそうなのです。そこに写っていた人物が、彼にそっくりだと……。他人の空似とは思えないほどだと言うので、後日その写真を私も見せてもらうことに。
すこし若い感じはしましたが、目元のほくろもまったく同じでしたし、同一人物だと見るのが正しいと私も思いました。詳しく話を聞いてみると、娘の親友はお父さんの生死に関して詳しいことは何も知らされていないようです。
気になって親御さんと連絡を取ったところ、驚くべき事実が発覚。なんと父親は死んでおらず、多額の借金を残し出ていったと言うのです。
やさしい彼の正体は…!?
事実を知り、私には合点が行くことがたくさんありました。今思えば、私がやさしさに感じていたすべてが彼の作戦だったのかもしれません。
ずっと独身だったというのはうそですし、調べてみたら私と同じようにお付き合いをしていた女性が複数いたことも判明しました。その中には、お金を渡していた女性もいたようです。
別れ話を切り出すと、彼は本気だったのは私だけだと主張。そして娘の親友の母親を、うそつき呼ばわりしました。彼は反省して自分は変わったと言っていますが……。私たち母娘が彼女たちの二の舞いになる恐れも、否定できません。
別れを告げた後も彼から何度か連絡がありましたが、すべて無視しました。恋愛をする際は慎重に、そして娘との時間をより大切にしたいと思います。
◇ ◇ ◇
寂しい、心細いといった心の隙につけ込み、悪事を働く人はどこにでもいます。甘い言葉には気をつけて、子どもがいる場合はとくに慎重に事を進めたいですね。