彼女はどんな理由があっても締め切り後には経費を受け付けてくれません。子どもの体調不良で数日休んでいたときも、経費の処理があったので、体調の悪い子どもを母にお願いしてわざわざ出社したこともありました。
厳しすぎる経費チェック
その日も、出張帰りに会社に立ち寄った私。子どもが待っているので家に直帰したいところでしたが、経費の差し戻しがあったため仕方がありません。
疲れた顔で社内を歩いていると「お疲れ様!」と声をかけられました。声の主はわが社の社長です。社長は社内の様子を見るために頻繁に各部署をまわり、困ったことや悩んでいることがないか、聞いてくれる気さくな人です。
社長としばし会話を交わしたのち、経理部へ足を運んだのですが「宿泊費が高い! もっと節約して!」と怒られてしまいました。安いビジネスホテルを選んだはずなのですが……。
取り締まり強化!
同僚はいつも私の経費が不透明だとグチグチ言い続け、ついには「社長に報告する!」と私の手を引き社長室に向かいました。しかし、話を聞いた社長は、私の領収書を必要経費だと言い、同僚には「過度な経費削減は社員のモチベーション低下につながる」と苦言を呈してくれました。
社長の思いがけない返答によって、同僚の経費チェックが少し緩くなったものの、1週間もするとまた元通り……。むしろ、さらにエスカレートしてしまいます。そのきっかけは、ある日の朝礼で営業部長が「最近業績が低下しているからみんなで協力しよう」と言ったことでした。
同僚は「使っていないのに無駄!」と鼻息荒く、オフィスのエアコンを切ってまわります。
社長が激怒したワケ
エアコンが切られたオフィスはたちまち震えるような寒さになり、私は他の社員と協力しながら急いでプラグを差し直し、電源をつけてまわりました。
しかし、同僚は数時間起きに「節約!」と乗り込んできてはプラグを抜き、電源を消してまわります。それ以外に仕事がないのかと思うほどに目を光らせているので、イタチごっこに付き合っていると仕事になりません。
しかし翌日、意気揚々とフロアのパトロールをする彼女に向かって、社長は「君、一体何をした?!」と強い口調で言いました。普段温厚な社長の怒った顔を見たのはこれが初めてです。
どうやら、亡き奥様から贈られて大切に育てていた鉢植えの木が、社長の出張中に空調を勝手に切られたことで枯れてしまったそう。大切に水をやったり剪定したりしている姿を見ていたので、私も悲しくなってしまいます。
同僚は過度な節約の強要は絶対にしないようキツく言われ、厳しい取り締まりは終わりを迎えました。
残念すぎる結末
幸い枯れたと思っていた大切な木は、植物のプロに相談しながらお世話を続けた結果、少しずつ元気を取り戻しているようです。社長に寄り添うように、今日も社長室に置かれています。
そして、せっせと電源を切ってまわっていた同僚でしたが、わが社の設備の場合、こまめにオンオフすると余計に電気代がかかったようで、ちっとも節約になっていなかったようです。あまりに残念な結末に、苦笑いしかありませんでした。
何事も、やりすぎには注意が必要です。自分ではよかれと思ってやっていることでも、まわりに迷惑をかけていないか、冷静になって判断しなくてはなりませんね。