タワマンから出てきた私を目ざとく見つけた妹。「実の妹から逃げてんじゃないわよ!」と追い掛け回され、しぶしぶ話をすることにしたのですが……?
まるで不審者
大きなサングラスをかけ、タワマンをずっと見上げていた妹。その出で立ちを遠目で見た私は、「もしかして、不審者……?」と思っていました。
なぜここにいるのか尋ねてみると、「セレブだからよ!このサングラスは30万もするんだから!」と妹。
2年前、私の婚約者を奪って結婚したのはこの妹でした。妹の夫は社長なので、妹はそれなりに贅沢な暮らしをしているようです。
「夫の会社関係の人がこの高級タワマン所有者らしいのよ」「明日ここでパーティーがあって、彼と一緒に参加するから、敵情視察に来たの」「そしたらまさかのお姉ちゃんと再会してびっくりしたわ……、あっ、もしかしてフードデリバリーのバイトで来たの?」と妹。
大きなクーラーボックスを抱えていた私は、見ようによってはたしかにフードデリバリーのようでした。しかし、私はここのタワマンの住人なのです。
「またまた、見栄張っちゃって!」「嘘ついて住民気取りって惨めすぎ!」と嘲笑ってきた相変わらずの妹を見て、私は肩を落としました。
パーティーでの狼藉
翌日――。
パーティー会場に入って来た妹は、私を見つけるやいなや会場の外に追い出しました。
「今日もどうせ料理のデリバリーで来たんでしょ!」「そのままパーティーに居座って、新しい彼でも探すつもり?お姉ちゃんって意外と図太いのね!」と妹。私が何を言っても聞く耳を持ちません。
「ここは貧乏人が来る場所じゃないのw」
「妹に婚約者奪われた負け組はさっさと帰れよw」
「ここ夫のマンションなの」
「は?嘘つけw」
実は、私の夫も会社経営者。そして、このマンションの所有者なのです。
私は妹に婚約者を略奪されて何もかも失った後、派遣会社を経営する現在の夫の秘書になりました。その後、約1年間の交際を経て結婚したのです。
それを伝えても、妹は「あんたみたいな負け組が結婚できるわけないでしょ!妄想は大概にしなさいよ!」とあざ笑うだけ。
そのとき、扉の向こうで聞き慣れた声が響きました。
追い出されるのはどっち?
「失礼なのは君の方だよ」「パーティーの主催者の妻を追い出すとは……何事かな?」と夫。どうやら妹に話しかけているようです。
「あんた誰よ!いきなり出てきてなんなのよ!」と妹。しかし、夫は淡々と「僕はこのパーティーの主催者で、君のお姉さんの夫だよ」と返していました。
「主催者って……なにかの冗談ですよね?」とパニックになった妹に、「悪いが、今すぐ帰ってくれないか」「君も君の旦那の顔も見たくない、夫婦そろって僕たちの前から消えてくれ」「今すぐ帰ってくれないのなら、警備員を呼んでつまみ出すまでだがね」と夫。その声には怒りが混じっていました。
その後――。
夫のはからいで、私はその後パーティー会場には戻らず、自室でゆっくりしていました。夫は妹夫婦を追い出した後、妹の夫の会社についていろいろな噂を聞いたようで、「うちとの取引はやめることにするよ」と言っていました。
それから間もなく、妹の夫の会社は行政処分を受けたようだと夫づてで聞きました。求人内容と実際の業務内容、そして給料が違ったようで、従業員の不満が高まっていたようです。そして倒産寸前だったようで、妹の夫は、過去に私から妹に乗り換えた事実があるにもかかわらず私にも「取引再開を旦那さんにお願いしてほしい」と泣きついてきました。もちろんお断りです。
従業員の幸せを考えず、私腹を肥やすことしか考えていない妹の夫。一方、私の夫は「うちの会社がダメージを受けなくてよかった」「大事な社員に迷惑をかけたくないからな」と言っていました。あらためて、この人と出会えて、この人と結婚できてよかったな、と思いました。