2人の新入社員候補
面接当日、私は新入社員候補のA子さんとB男さんの資料に目を通しました。2人は同じ年齢で、同じ会社で働いていたこともあるよう。
そして、「顔見知りなのかな?」と考えながら、A子さんとB男さんの面接開始。社長である弟と人事部の上司、私に向かって「本日はよろしくお願いします!」と元気に挨拶するA子さんに対して、B男さんは緊張気味です。
また、2人はまったく違う服装でした。A子さんは誰もが一目でわかる高級ブランドに身を包んで自信満々。一方のB男さんは、シンプルでボロボロのTシャツ姿です。
対照的なA子さんとB男さん
わが社の面接は、私服での参加が義務。アパレル企業だけあって、着る物に個性が現れるという弟のポリシーです。「自分らしさにこだわった服装、思い入れのある装いでお越しください」という条件を面接の案内にも書いていました。
「今日は面接にお越しいただきありがとう。それでは服装のポイントを教えてください」と、弟が2人に質問します。
A子さんはさっそくブランド愛を語り始めました。
「私はこのブランドが大好きです! 有名なショーでモデルが着用していたコーデをそのまま身につけ、自分の価値を高めるべく毎日装いをチェックしています」
B男さんはこれまた対照的。
「これは僕にとって特別な服です。大切な人が丁寧に作ってくれたもの。僕に勇気をくれる世界でひとつの服なんです。服とは本来そういうもの。今日はそれをお伝えしたくてこれを着て来ました」
私は、どちらもこだわりのある装いで来てくれたんだとうれしくなりました。
面接に合格したのは…
「それではこれで面接を終わりにします。結果は後日……」と私が言った瞬間、先に席を立ったA子さんが、B男さんを見て小さく鼻で笑ったのがわかりました。
さらに、「久しぶりね~」とニヤニヤ。声をかけられたB男さんは、明らかに動揺しています。彼女は、こちらにも声が届いていることに気づかず、B男さんに「そんなボロ着で来るなんて、あんた絶対落ちたよ」と笑いながら面接室を出て行きました。
その後、弟と上司が話し合い、B男さんを採用することに決定。私は正直、少し気になる態度はあったもののA子さんが受かると思っていたので「え? 何で!?」と声を上げてしまいました。すると上司は、「彼が着ていた服に気づかなかったか?」とひと言。そして弟は、あの服の秘密を教えてくれたのです。これには私も納得し、A子さんには不採用の通知を、B男さんには採用の通知を送りました。
抗議をしに来たA子さん
こうしてB男さんが入社して数週間。ある日、取引先との商談に向かうため、B男さんと一緒に会社を出た瞬間、突然、A子さんが登場。私のことは完全無視してB男さんに詰め寄ったのです。
「なんであんたみたいな出来損ないが採用されたのよ!」「あんたが受かって私が受からないとかあり得ない!」と叫ぶA子さん。
するとそこに弟が現れ、今にもB男さんにつかみかかろうとしていたA子さんを制止。相手が社長だとわかったA子さんは、今度は弟に怒り始めます。
「どうして私じゃなくてこのボロ雑巾みたいなのを採用したのよ? 納得がいきません!」
すると、弟は冷静に言いました。
「君はB男さんの服がボロボロだったと言うのかい? 勉強不足だね。あれは世界的に名高いデザイナーの一点もの。わざとアンティーク感を出して意匠を凝らしているんだよ。それを自然に着こなしていた彼もステキだった。ちなみにそのデザイナーは彼のお祖父様。彼自身も今をときめく新進気鋭のデザイナーだけどね」
そう、私が面接後に聞いたのは、B男さんの服のエピソードと実績。A子さんは何も知らなかったようで、目を白黒させながら動揺していました。
B男さんのプロジェクトは大成功
実はA子さん、前の職場で一緒だったB男さんのことを見下し、嫌がらせをしていたのだとか。すっかり萎縮して前職を辞職してしまったB男さんですが、わが社に入って自信を取り戻し、つらかった過去の経験を私たちに打ち明けてくれていたのです。
「これ以上、彼に迷惑をかけるなら、僕の弁護士を通して君に過去の責任を追及するよ。彼はもうわが社の大事な一員だからね」と宣告する弟。
B男さんも、「高いブランド物のコーディネートを丸写ししながら他者のファッションをあざ笑う人には、本当に良い服など生み出せないと思います」とA子さんをバッサリ。
A子さんは歯ぎしりしながら立ち去って行ったのでした。
その後、B男さんが携わるプロジェクトは大成功。私もアパレル業界の奥深さを学びました。対照的な2人の面接を通して得た教訓は、私の成長の糧となることでしょう。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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