義両親との関係は良好で、いつも私に「ごめんね、ありがとう」と申し訳なさそうに頭を下げてくれます。私ひとりでの義両親のお世話は、正直、大変です。しかし、やさしい義両親のためなので、苦痛に思ったことはありません。
そんな私が、介護よりも大変で、苦痛に感じていることは、夫の態度で……。
夫の裏切りと、一通の手紙
介護が始まった当初こそ夫も協力的でしたが、次第にすべてを私に丸投げするようになりました。私が夫に手伝いを求めたり、施設に入ってもらうことを相談したりすると「施設は金がかかる。介護は妻の仕事だろ」と突っぱねるばかりで、話し合いにもなりません。
夫の態度に悩まされながら、考えてはいるものの、離婚を切り出す暇すらなく、私は必死に毎日をこなしていました。そんなある日、久しぶりに実家へ帰ると、父から衝撃的な話を聞かされたのです。
父が先日、隣町の居酒屋で、夫が若い女性と親しげにお酒を飲み、そのまま手をつないでホテルへ入っていく姿を見たというのです。頭にきて自宅に戻り、夫の部屋をこっそり調べると、案の定、プレゼントしたであろうアクセサリーのレシートや、プレゼントされたのか手作りの思い出アルバムまで……不倫の証拠が山のように出てきました。
これで離婚できる! そう考えていた矢先、私のもとに一通の手紙が届きました。差出人はA子という女性。手紙にはこう書かれていました。
『奥さんへ♡ 半年前からあなたの旦那さんと真剣に交際していまーす! 旦那さんは私が貰いまっす♡ 私のほうが彼にふさわしい! 早く離婚して出ていけ! かわいいA子より♡』
まさか不倫相手が自ら名乗り出てくるとは想像もしていませんでした。宣戦布告するかのようなこの内容……私は怒りでどうにかなりそうでしたが、なんとか感情を静めて、返事を書くことにしました。
『いいですよ? でも、後悔しないでくださいね?』
そう綴って、夫と2人では話が進まないかもしれないため、離婚の話し合いに立ち会ってほしいと日時を指定し、A子を家へ招待する内容の返事を送ったのです。
夫の不倫相手を招待して…
約束の日、時間ぴったりにやって来たA子。私がA子をリビングに招き入れると、夫は動揺し、真っ青な顔で「え? お、お友だち? は、初めまして……」とシラを切り始めました。
そんな夫に、腕を絡ませながら「もう全部バレてるのっ! 早く離婚するって奥さんに言ってよ! 私は早くあなたと2人で、この広ーい家に住みたいのっ♪」と上機嫌に話しかけるA子。夫はまだ状況を飲み込めていないのか、ポカンとしていたので、私が夫の代わりにA子に現実を告げてあげました。
「そうね、もうすぐA子さんはここに住めるわ。でも、ここは義両親の家だから、住むのは2人じゃなくて4人ね。介護もお願いね?」
その私の言葉を聞いたA子は、「ハァ!? 介護なんて聞いてないけど!?」と怒り出し、夫に詰め寄りました。A子のものすごい剣幕に押されたのか、夫はしどろもどろで、うまい言い訳もできません。
「冗談じゃない! かわいい私はいるだけでいいって、家事も仕事も何もしなくていいって言ってたよね!?」怒りが収まらずA子は夫を責め続け、夫は何も言い返せずうつむくだけ。しばらくその様子を傍観した後、私はさらに衝撃の事実を突きつけました。
「お取り込み中ごめんね。2人には慰謝料を請求します。それと、義両親はこの家を売って施設に入るそうよ。だから財産は一切あなたたちには残らないみたい」そう言って、さらに義両親の意思を2人に伝えた私。
私は義両親に、夫が不倫していることと、離婚することを事前に伝えていました。そのとき義両親は、夫と縁を切ると決断したのです。私はすべてを伝え、絶望する2人を横目に、静かにその場を後にしました。
裏切りの代償と、私の新たな人生
その後、私と夫は弁護士を通して離婚に際する取り決めを行い、正式に離婚しました。きっちり2人に慰謝料を請求し、実家に戻った私は新生活をスタート。義両親は家の売却手続きを進め、施設に入所しました。
元夫は慰謝料を支払うために借金をしたそうなので、今はその返済に追われる苦しい生活を送っていることでしょう。A子は、両親に立て替えてもらって慰謝料を支払ったものの、激怒した両親に実家を追い出され、元夫とも破局。今はどこかでパートに明け暮れ、苦しい生活をしていると風の噂で聞きました。
私は実家に戻ってからも、それまで通り在宅ワークを続け、穏やかで充実した日々を送っています。たまに施設の義両親にも会いに行き、今でも仲良くさせてもらっています。これからは、自分のために時間を使う自由な人生を楽しみたいと思います。
◇ ◇ ◇
介護を押しつけ、身勝手な理由で家族を裏切った夫と、宣戦布告するという無謀な行動に出た不倫相手に待っていたのは、明るい未来ではありませんでした。当然の結末だったのではないでしょうか。支えてくれる家族への感謝と敬意を忘れず、誠実に生きていきたいものですね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。