この良いタイミングに、私は子どもができたことを告白。しかし、夫は戸惑いを隠せない様子です。妊娠に気づくのが遅れたため、あと半年ほどで生まれると伝えると、ますます不安な顔を見せます。実感がないだけだと、夫は言いますが……。
私が子どもを生むことで、収入が無くなるかも知れないという不安もあるようです。確かに、少しは減りますが、産休中もお給料は出ます。それに、貯金もあるので、しばらくは心配ないと告げると、夫はホッとしていました。今回の個展が成功して、これから夫の仕事も増えそうなので、ここから順調に進むといいのですが……。
感性が暴走しているとは?
私が夫に妊娠を報告してから5カ月。夫はスランプになり、絵も描かずに街をぶらぶらするばかり。スランプから抜け出すためにいろいろ試しているようですが、お金が飛んでいくだけでうまく行かないようです。1カ月のお小遣いを1週間で使い切り、さらに5万円ほしいと言われました。
私のおなかはすっかり大きくなり、もうすぐ産休に入ります。私たちには頼れる親族がいないため、出産は夫婦2人で乗り越えなくてはならないのですが、夫は立ち会いにすら消極的です。
さらに、最近夫は私を避けているような気がします。家にも寄りつかず、目も合わせません。何だかおかしいと思って直接尋ねてみましたが、不満があるわけでも私のことをきらいになったわけでもないと言うのですが、その後の言葉に私は仰天しました。
なんと、私の大きなおなかを見たくないと言うのです。夫いわく、今は感性が暴走している状態だそうで、何に対しても敏感になっているのだと。おなかだけがふくらんでいる私を見ると、気持ちが悪くなるのだそうです……。
芸術家にとっては、仕方がないことなのかもしれませんが、今の状態では生まれてくる子どもを夫が愛せるのか不安です。私が、子どもに対しては、気持ちが悪いなんて思ってほしくないと言うと、生まれてしまえば多分大丈夫だと言う夫。
嘘でしょ?出産直前に大事件…
私がもうすぐ出産予定日を迎えるという大事な時期に、なんと夫は海外へ出かけていきました。私が気づいたのは、夫が空港に着いたとき。海外へ立つ資金は、私の貯金から勝手に引き出してたのです。
もうすぐ出産なので出かけないでほしいと頼みましたが、私の体から子どもが出てくるなんて気持ちが悪いと言って、1カ月の予定で出発してしまった夫。自分がいても役に立たないから、友だちを頼ってくれと……。
搭乗直前、「心の整理がついたら帰る、しばらく自分の人生を邪魔しないでくれ」と連絡が入りました。帰国したらちゃんと働くし、育児も手伝うと言っていましたが、もう夫の言葉を信じることがはできません。
そして、約束の1カ月後。
「出産ご苦労さま」
「1カ月留守にしてごめんな」
「今から会いに行くから」
夫から、何事もなかったかのような態度で連絡が来ましたが、ひとりで出産をして、子育てをしていた私は、もう夫はいないものとして考えていました。
「来なくていいよ。父親じゃないし」
私は出産して気付いたのです。子どもが産まれることに怖気づいて、ぐだぐだと言い訳をするダサい男なんて、必要ないということを……。
母は強し
実はこの1カ月間、夫の友人からいろいろと聞いていました。夫は作品のことを考えるどころか、カジノで遊びまくり、羽を伸ばした様子。その豪遊を、自慢げに友人に連絡していたのです。私が大変な思いをしているときに、ひとりで遊び倒していたとは……。
悪かったと言う夫ですが、今の私にはまったく響きません。出産前は不安で仕方なく、こんな夫でもいてほしいと思っていた私。しかし出産してひとりで子育てをしてみて、夫みたいな人なら、むしろいないほうがいいとはっきりわかりました。冷静に考えると、夫は私たち親子を不幸にする疫病神。幸せな人生の足手まといで、子どもと過ごす平穏な日々の足かせに、確実になるだろうと思うのです。
子どもが私を強くしてくれました。わが子の存在が、今まで意気地なしだった私を変えてくれたのです。命をかけて子どもを産んだ私には、もうできないことなどないと思います。私に夫は必要ないので、離婚を宣言しました。
その後、私は子どもと一緒に家を出ました。謝られても、反省してもらっても、もう私は夫を信用することはできません。なかなか離婚に同意しない夫を、あきらめさせようと説得し続け、なんとか離婚が成立。すると、夫はどうにかお金を作って、無断で使った私のお金を返済してきました。私に許しを得たいと思っての行動だったようですが、私の愛が戻ることは二度とありません。
◇ ◇ ◇
守るべき者ができると、人は強くなるとよく言いますね。これは夫にも言えたことのはずですが、怖気付いて逃げ出してしまっては、愛想を尽かされても無理はありません。結婚して以降、ずっと支えられていたことにしっかりと感謝し、作品作りに打ち込むなり、仕事を始めるなり、縁は切れているとは言え、人の親として恥ずかしくない生き方をしてもらいたいものですね。
【取材時期:2024年11月】
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。