「社長が甘いもの好きだって言うから、がんばっちゃいました!」と言いながら、夫を中心としたパーティーの参加者に自分の手作りお菓子を振る舞っていた彼女。帰り際になって、ようやく彼女は私に声をかけてきました。
「先輩、超うらやましいです~!」「旦那さんは社長で、家は都内の一等地にある一軒家!パーティールームまである大きなおうち!」と夫とわが家をほめたたえてくれました。
そして、「社長から『今度はチョコレートのホールケーキが良い』って言われたので、またホームパーティー開いてくださいね?」と言った彼女。私に有無を言わせないような圧がありました。
一方の夫も、彼女にかいがいしく世話を焼かれて、まんざらでもない様子。パーティー後に鼻歌を歌いつつ、お気に入りのゴルフクラブを磨きながら、夫はとんでもないことを言い出したのです……。
社長の独断による人事異動
「彼女は俺の秘書としてほしいから、来週から異動させてくれ」と夫。
しかし、異動の辞令は先月出したばかり。確かに彼女は私の部下なのですが、急にそんなことを言われても、対応できません。
さらに夫は「彼女のお菓子、そこらへんのパティスリーが作ったやつよりうまかったよなぁ」「パーティー中もいろいろ気を遣って動いてくれてたし、すごく良い人材じゃないか!」と彼女を褒めちぎります。
たしかに、パーティーでの彼女はものすごく働き者でした。普段はまわりに仕事を押し付けて、休憩ばかりなのに……。
私がいくら言っても、夫は「社長命令ならどうとでもなるだろ?」「お前から人事に言っとけ」と聞く耳を持たないのでした。
結局、彼女は翌月から秘書課へ異動することとなったのです。
トイレにいる後輩からの連絡
半年後――。
就業時間中に、「先輩、どうしよう……」と突然連絡をしてきた例の後輩。
「今、トイレにいるんですけど……」と言う彼女に、「どうしたの?体調悪い?」と聞きました。すると、彼女は「さっき、社長のおつかいの帰りに、ドラッグストア寄ったんですけど……」と話し始めました。
「そこで、妊娠検査薬買って……今検査したら……陽性だったんです!」「私、うれしくてうれしくて!」「この喜びを誰かと今すぐ共有したくて!先輩に連絡したんです!」
自宅で検査すればいいのに……とは思ったものの、おめでたいことは事実ですから、私は「おめでとう」とだけ言いました。
しかし、彼女の勢いは止まりません。「これで産休取ってそのまま辞めれます!」「先輩より先に妊娠しちゃってごめんなさ~い!」と言われて、もしかしてこれがいわゆるマウントなのでは?と思いましたが、スルーすることに。
そして「それより、あなた結婚してたかしら?」と素朴な疑問を投げかけた私。彼女は「いや、してませんよ?」と答えてきました。
「でも、子どもが生まれてくるまでに結婚するつもりです!」「彼には奥さんと別れてもらわないと」
明るい調子でそう続けた彼女に、私はびっくり。堂々と浮気をしていることを話されるとは思いませんでした。
「どんな形にせよ、その子の父親に責任は取ってもらいなさい」「正直、あなたひとりで子育てできると思えないもの……」と言うと、「ですよね!先輩もそう思いますよね!」と私に同調した彼女。すると、とんでもないことを打ち明けてきました。
「実は、おなかの子の父親は先輩の旦那さんなんです♡私が先に妊娠しちゃったw」
「なので先輩は離婚してください!社長の旦那さん奪っちゃってごめんなさ~いw」
「全然いいよ♪」
「え?」
私の反応が意外だったのか、一瞬間があった彼女。けれど、すぐに勝ち誇ったように「社長夫人ですーって顔して偉そうにしている先輩を、これでようやく追い出せます」「再婚とか再就職とか大変だと思うけど、恨むなら自分の魅力のなさを恨んでくださいね?」と言ってきました。
最近の夫の様子から、なにか私に隠し事しているのだろうということは予想していました。しかし、まさか彼女と浮気しているとは……。けれども、最近の夫の勝手な言動には辟易していた私は、すぐに離婚に対して前向きになったのです。
私は「よくわかったわ、彼と離婚するから後のことはよろしく頼んだわよ」とだけ言って彼女とのやり取りを終えました。
甘い考えの後輩の末路
1週間後――。
私はすぐさま夫と離婚。私の希望通り、財産分与はなし。慰謝料も支払ってもらえることになりました。
元夫が離婚成立を告げたのか、後輩から「離婚してくれてありがとうございます!」と連絡が。「もうすぐ社長が私を迎えに来てくれるんですよね?」「これからはあの豪邸で、私がホームパーティーを開く番だわ!先輩も招待するから来てくださいね?」と上機嫌な彼女に、私は「え、彼ならあなたの家で暮らすって言って出て行ったわよ?」と伝えました。
「あ、もしかして私のために新居を購入してくれるのかも?」「私、タワマンが良いなぁ~」と引き続き脳内お花畑の彼女。しかし、元夫にそんなお金があるわけないのです。
派手好きな元夫は給料や役員報酬が入ったら、そのたびに全部使ってしまうタイプの人。そのせいもあって、私は夫との子どもをもうけることをためらっていたのです。
そして、わが家は私の祖父名義の、祖父のもの。祖父が所有している家に住まわせてもらっていました。つまり、元夫は現時点で貯金ゼロの家無し男。私に慰謝料を払うことまで考えれば、彼女にとってはゼロどころかマイナスとも言えるかもしれません。
「一時的にならうちみたいな狭いワンルームで暮らすのも、新婚っぽくてありですよね~」「あ、社長が来たみたい!」と言って、ウキウキのまま電話を一方的に切った彼女。真実を知った彼女はどうするのだろう……と思いながら、私もスマホを置きました。
その後――。
元夫はうちに婿入りしていました。もともと私の父がこの会社の社長だったのですが、私の結婚を機に会長になり、社長の座を元夫に譲ってくれました。私が継いでもよかったのですが、当時の私はバリバリ現場で仕事をしたかったので、断ったのです。
会長である父は私の離婚を知って激怒。「愛する一人娘を傷つけた男に、大事な会社を任せてはおけん!」と言って、元夫が使った経費をすべて細かく調べてくれました。すると、勤務時間内の彼女とのデート費用を経費計上していることが発覚。経費の使い込みと勤務時間内のサボりは看過できないとし、父は元夫とその浮気相手である彼女にクビを宣告したのです。
彼女からは「お返しします!こんなただの甘党おじさんなんていりません!」と連絡がありましたが、私は無視しました。
今は、父がわが社の社長に戻っています。父の経営手腕のおかげで、業績も右肩上がり。私も会社へ貢献するために、毎日仕事をバリバリこなしています。
【取材時期:2024年12月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。