あれから15年。息子の結婚が決まりました。しかし、その顔合わせの席で思わぬ再会が……。あの、私を泥棒扱いした彼女が、新婦の母として現れたのです。
その日、私たちは過去を忘れたように取り繕い、なんとか顔合わせを終えました。ぎこちなさは残りましたが、子どもたちが幸せならそれでいいと思ったのです。
あの日の誤解が再燃!?
しかし結婚式当日、事件は起こりました。私は受付を引き受けてくれた息子の友人と談笑しながら、親戚からのご祝儀を受け取っていたのです。
すると「ここで何やってるの?」と新婦の母・例のママ友から声をかけられました。
「もしかしてまたお金を……」とママ友。受付にいた新婦の友人にコソコソと耳打ちしています。その様子から、私は15年前の集金事件の話を持ち出しているのだろうと感じました。
そして、受付に立っているメンバーにだけ聞こえる声で「ご祝儀泥棒! 持って帰ったら警察呼ぶからね」と、ママ友は言ったのです。結婚式を楽しみに待っている時間だったのに、不穏な空気になってしまったことは否めませんでした。
私はただ親戚からご祝儀を受け取っただけ。盗もうなんて考えたこともありません。
式の費用を工面したのは…
受付にいた息子の友人曰く、私が去った後、ママ友は受付のメンバーに「くれぐれも新郎の母にご祝儀を渡さないように」と釘をさしたそうです。
あのとき、受付でママ友が大騒ぎをしたのには理由があったよう。詳しく話を聞いて、私たちはあきれてしまいました。何しろ、ご祝儀はすべて新婦側が受け取るお金だと勘違いしていたのですから。結納金と勘違いしたのかもしれませんが、ずうずうしいにもほどがあります。息子の友人も驚いていました。
そもそも、今回の式の費用はほぼすべてわが家で出しています。若い2人の貯金には限界があるのでしょう。子どもたちからお金の相談をされたとき、快く積み立ててきたお金をお祝いとして渡しました。
にもかかわらず、ママ友はご祝儀を全部自分の懐に入れようと思っていたわけです。ご祝儀は息子夫婦に渡してほしいのですが……。
子どもたちの幸せを願う母の心
あとから息子に聞いた話ですが、あの日、受付での一件を聞いた新婦は母親を控室に呼び、かなり強い口調で言ったそうです。
「もうやめて。お母さんのそういうところ、ずっと恥ずかしかった。何も確認せずに人を疑うのは、もう見ていられない」ママ友はあの集金事件の後も、お金に関するトラブルを何度も起こしていたよう。そのたびに『またあいつの親か……』という目で見られて、つらい思いをしたのだとか……。
これまで娘に逆らわれたことのなかったママ友は、そこで初めて言葉を失い、結婚式が終わるまでほとんど口を開かなかったといいます。
その後、ママ友は私の家に謝罪に訪れ「早とちりをして、ごめんなさい」と、少しふてくされつつも、頭を下げて謝罪してくれました。彼女なりに、勇気を出してくれたのだと思います。
私は、口では気にしていないと答えましたが、正直に言えば、あの集金事件のことも結婚式での出来事も、すっかり忘れられるわけではありません。長い時間を経ても、人から向けられた疑いの記憶は、そう簡単に消えるものではないのだと改めて感じました。
これから先も、息子と彼女が穏やかで誠実な家庭を築いていけるよう、親同士としての関わりは、必要最低限にとどめるつもりです。
◇ ◇ ◇
過去の誤解や行き違いは、時間が経っても心に残ることがあります。一度向けられた疑いは、それほど重いものなのです。
だからこそ、思い込みで決めつける前に、立ち止まって事実をたしかめることが大切。何気ないひと言や行動が、相手との関係を長く左右してしまうこともあるのだと、心に留めておきたいですね
【取材時期:2025年11月】
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。