それは、2年目の結婚記念日。
私たちは、近所にある人気のイタリアンレストランでささやかなランチを楽しんだのですが、食後に新しくできたカフェのドライブスルーでコーヒーを買って近くの海を眺めに行こうという話になりました。
どこかで聞いた声…
週末ということもあって、ドライブスルーは長蛇の列。あれこれ世間話をしながら待っていると、ついに私たちの順番がやってきました。機械越しに注文を終えると、夫はなぜか不思議そうに首をかしげています。どうしたのかと聞くと「なんか、今の声……聞き覚えがあるんだ。」と言いますが、思い出せない様子。
そのまま車を進めて商品の受け取り窓口まで来ると、夫の顔は一瞬で真っ青に……。
「みぃつけた!」
店員のその言葉に、夫は「ヤバい! 逃げるぞ!」と叫んで車を急発進させたのです……!
夫の表情から、冗談ではなく本気だとわかった私は、何も言わずにそのまま車が停まるのを待ちました。ようやく車が停まり聞かされたのは、さっきの女性店員は夫の幼馴染のミハルさんだということ。そして、ミハルさんは昔から夫に特別な感情を抱いていたようで、夫が好きになった子や夫に好意を寄せる女子に対して、嫌がらせをし続けていたのだそう。どんどんエスカレートしていく嫌がらせに恐怖を感じ、夫は逃げるように全寮制の高校に進学し、その後は地元の友だちや親戚に絶対に自分の居場所をミハルさんには教えないでほしいと言っていたみたいです。
でも、調査会社を使えば居場所なんて簡単に調べがつくはず……。追いかけてきたに違いありません。夫は、私や家族に何かあったら怖いと言って、震えていました。
今すぐ別れて!?
私は、とりあえず両親と兄に事情を話しました。3人ともびっくりしていましたが、何も心配することはないから早く帰っておいでと言ってくれて、夫もやっと安心したような表情になりました。
「これだけ家族がいれば心強いな! やっぱり、ここに来てよかった。」夫がそう言って家に入った瞬間……。想像よりも早くミハルさんがわが家に突撃してきたのです……。
「遅い! どこに行ってたの?」
「私が合格点を出した人以外と、結婚なんかしちゃダメ! 今すぐ別れて!」
「あなたに一番合うのは私。ずっと独身で待っていたんだから、責任取ってよね!」
たたみかけるように叫ぶミハルさん……。夫の言う通り、まともじゃなさそうです。
「あなたが好きなのぉぉぉ!」
そう言って、夫に抱きつこうとしたミハルさんの体を慌てて掴み、なんとか阻止した私。でも、身重の私では長時間つかんでいるのは無理かもしれない……そう思っていたところに、救世主が現れました。
ナイスタイミング!
「不法侵入の現行犯で逮捕します。」
そう言いながら警察官がやってきて、私に代わってミハルさんの体を掴んでくれました。
「よかった! ナイスタイミング!」
家の中からそう言って現れたのは、私の兄。実は私の兄は、隣町の交番に勤務する警察官。今日は勤務がないのでお休みですが、さっきの私の話を聞いて、管轄の交番にパトロールを依頼してくれていたのだそうです。
さっきまで威勢のよかったミハルさんも、ガタイのいい警察官を前に急におとなしくなりました。
「くわしい話は警察署で聞くけど、とりあえず接近禁止命令もつけさせてもらおうかな」
警察官から笑顔でそう言われ「え……!? もう会えないってこと?? む、無理……!!!」とミハルさんは顔面蒼白。そのまま、パトカーで連行されていきました。
その後、ミハルさんが警察署でしっかり絞られたと聞いた私たちは、被害届を出さない代わりに示談にして、慰謝料をたっぷり請求させてもらいました。接近禁止命令も出たので、もう二度とミハルさんの顔を見ることもないでしょう。
これで安心して子育てをスタートできそうです。
◇ ◇ ◇
一途な愛というと聞こえはいいですが、度が過ぎると犯罪になりかねません。本当に好きだからこそ、相手をしあわせにするために自分ができることは何かというのを、冷静に考えられるようになれればいいですね。
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。