「私はひとりでやっていくから、面倒な介護とか実家のことは全部お姉ちゃんに任せるわ」と言って、実家を飛び出し、音信不通になってしまった妹。
それからというもの、私は両親の面倒を見ながら、在宅で仕事をする日々を10年間続けてきました。母は3年前に、父はつい最近亡くなりました。すると、父の葬儀も終わりしばらくすると妹から連絡がきたのです……。
遺産のことしか頭にない妹
母の葬儀のときも、父の葬儀のときも、妹に連絡していた私。しかし、妹は返信も、折り返しの電話もしてきませんでした。だから私は、とっくに妹が連絡先を変えているか、もしくは私たち家族をブロックしていると思っていたのです。
「行こうとしたんだけど、たまたま外せない用事があって行けなかったんだよね~」と、両親の死を嘆き悲しむ様子もない妹。親の葬儀よりも大事な用事なんてないはずなのに……。
ただ、そんな妹でも、今になって連絡してくるということは何か理由があるはず。そこで、私は「こっちに一回戻ってきてくれない?」「せめてお墓に手を合わせてよ」と言いました。
すると、妹は「いや、お墓参りはいいかな!」「面倒だし、そういうの興味ないし!」と言ったのです。
「事故のせいで定年前に仕事は辞めちゃったけど、お父さんは会社の重役だったし、かなり稼いでたよね?」「それにもともとうちは裕福で、おじいちゃんたちから相続したアパートや不動産もあったはず」「私に相続する権利はあるんだから、ぶっちゃけどのくらい遺産があるのか教えてくれない?」
あ然として言葉を失った私。妹は遺産のために連絡してきたのです。「私にだって権利があるもん!」と妹。
「お父さん、相当な遺産があるでしょ?」
「お姉ちゃんは生前贈与があっただろうし、遺産は全部私が相続するんだから!」
「ありがとう!」
「は?」
さらに妹は「お父さんの葬儀中に、実家が持っていた土地や不動産の値段を調べておいてよかった!」「めちゃくちゃ高騰してるから、相続したらすぐに売り払ってやるわ」「もう一度言っておくけど、遺産は全部私のもの!いくら頼まれてもお姉ちゃんには分けてあげないから!」と言ってきたのです。
「うん、ひとつもいらないから全部もらってちょうだいな」「残りわずかな貯金も、それ以上の借金もすべてあなたに譲るわ」と言った私。
「は?借金?」と驚く妹に、私はさらに説明しました。両親は事故の後遺症をなんとか治そうと、さまざまな治療法を試していたのです。そのために父は不動産の多くを現金化しました。それでも足りず、最終的には借金をして治療費に充てていたのです。
「もともと私は相続を放棄するつもりだったの」「だから、そんなに遺産がほしいならお好きにどうぞ」
そう言うと、妹は「ふざけないでよ!そんな遺産なら私だって要らないわよ!」「でも本当に他に遺産はないの?不動産とか……少しぐらい残ってないの?」とまだ諦めきれない様子。
「気になるなら自分の目で確かめてちょうだい」私はそう告げてやり取りを終えました。
妹が相続したもの
父の葬儀から数カ月たったころ――。
ひとりの時間を満喫していたところに、再び妹から連絡が。
「いきなりお父さんたちの借金関連の書類が私宛に届いたの」「中身を確認したら、私が返済しないといけない感じで」「慌てて問い合わせたら、『遺産を相続しましたよね?』って言われて!もしかして相続放棄って何か手続きが必要なの!?」
私は思わず壁にかけたカレンダーを確認しました。相続放棄までの猶予期間を過ぎていたため、妹は相続放棄できなくなっていたのです。
「なんでこんな大事なことを教えてくれなかったの!」「自分だけ逃げて、私にだけ押し付けるなんてひどいじゃない!」と激怒する妹。私は期限内に相続放棄の手続きを終わらせているのです。しかし、妹は相続放棄に手続きが必要なことを全く理解していなかったようです。
「私は払わないし、責任だって取る必要ないわ」「それに、あなたは実家に侵入して金目のものを持ち出してるじゃない」「相続放棄の手続き前に遺産を処分すると、相続を承認したとみなされるのよ」
友人から「葬儀直後は空き巣が入りやすい」と言われて、実家に防犯カメラを設置していた私。そのカメラの録画には、いろいろと実家から運び出す妹の姿がしっかり映っていたのです。
「そんな……じゃあ、私はどうしたらいいの?」「持ち出したものを返せば、相続放棄できる?」と妹。しかし、そんなことをしても相続した事実は変わりません。もう妹は両親の借金返済をがんばるしかないのです。
その後――。
妹はいろいろなところに相談に行ったようですが、やはり相続放棄はできないようでした。両親の借金を引き継ぐことになった妹は、「私が借りたわけでもないのに、返済なんて誰がするか!」と言って逃げ回っているそうです。
私は防犯カメラの設置を勧めてくれた友人と結婚。父から生前贈与でもらったマンションの一室で、穏やかに2人暮らしを始めました。今までがんばってきた分、しばらくのんびりしようと思います。
【取材時期:2025年1月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。