息子の誕生日の翌日――。
昨晩、息子は私が作ったケーキをおいしそうに食べ、「明日のおやつに食べるんだ!」と言って、残り半分は冷蔵庫にしまっていました。しかし、息子が学校から帰ってくると、そのケーキはすでになくなっていたようで……?
消えた息子の誕生日ケーキ
「ねぇ、ママ」「僕の誕生日ケーキ……もしかして食べちゃった?」と、仕事中の私にメッセージを送ってきた息子。もちろん、私は食べていません。
「おかしいわね、私が仕事に行く前までは冷蔵庫の中にあったんだけどな……」と返すと、「じゃあ、もしかしてパパかな……」「でも、パパって甘いもの苦手だよね?とくに生クリームが嫌いって言ってたよね……」と息子。
ケーキがなくなっていて落ち込む息子を励まそうと、私は「ちょっとパパに聞いてみるね!」「もしパパが間違って食べてたら、ママがまた作ってあげるね!」と送りました。
その後すぐに、夫に「ねぇ、冷蔵庫にあった誕生日ケーキ、まさかとは思うけど食べてないわよね?」とメッセージを送った私。
「え?食べたけど、それがどうした?」「やっぱり朝から生クリームは結構きついな~。なんかまだ胸やけしてるよ」
「な、なんですって!?」「息子の誕生日ケーキなのよ?なんで勝手に食べるのよ!」「そもそもあなた、甘いもの苦手じゃない!」と私。すると、夫は「はぁ?そんなの知るかよ!」と返してきたのです。
「俺は息子が食べきれなくて残したと思ったんだよ!」「ケーキなんて生ものだし早く食べないと悪くなるだろ!腐る前に処分してやったのに、なんだその態度は!」
夫からの返信を見て、私は深いため息をつきました。昨日の誕生日祝いの終わりに、息子が「残りは明日食べるからね!」と言って、うれしそうに冷蔵庫にしまっているのを夫も見ていたからです……。
「た、食べられたくなかったら、メモでも貼っておけばいいんだ!」と言ってきた夫に、私は「このやり取りも、もうこれで何度目だと思ってるの!?」「この間は私の誕生日ケーキも勝手に食べて、その前は明日のお弁当用にって晩ごはんと一緒に作ったおかずも私がお風呂に入っている間に食べ尽くして!」と怒り爆発。
「う、うるさい!男はたくさん食べないと働けないんだよ!今日も朝から忙しいし、カロリーが必要だったんだ!」「俺が大黒柱なんだぞ!俺の食事が最優先で当然だろ!」
本当の大黒柱なら、家族の気持ちくらい考えてほしいものです。
「だいたい、息子がおかしいんだ!男なのに甘いものが好きだなんて……ケーキなんて甘ったるいもの食べる男は周りからもなめられるし、だから俺が食べてやったんだ!」と、とんでもないことを言い出した夫。
「じゃあその甘ったるいケーキを朝から1人で食べ尽くすあなたはなんなのよ……」「作り置きを勝手に食べるのはいつものことだけど、子どもの大切な思い出になる誕生日ケーキを、親であるあなたは奪ったのよ」「まずは息子に謝ってちょうだい、それとケーキは作り直すから!その分のケーキ代はあなたのお小遣いから出してもらいます」
これだけ言えば、さすがに夫の食べ尽くし癖も直るのではないかと思っていた私。しかし、夫への不信感が拭いきれないまま、さらに決定的な出来事が起こったのです……。
作り置きが消えた理由
3カ月後――。
私は1週間の関西出張に行っていました。土日を挟んでの出張です。土曜日は午前中会議があって、午後は自由だったので家族へのおみやげを選んでいたのですが、そこに息子から電話がかかってきました。
「ねぇ、ママ、出張からいつ帰ってくるんだっけ……」となんだか様子のおかしい息子。「どうしたの?どこか具合でも悪い?」と聞くと、「ううん、そういうわけじゃないんだけど……」と言葉を濁しました。
大きくなってきたとはいえ、まだ小学生の息子。さみしくなってしまったのかと思い、「あ、もしかしておみやげのリクエストかな?」「たこ焼き好きだもんね!冷凍のたこ焼き買って帰ろうかな」と明るく言いました。すると、息子は切羽詰まったように「え!?本当に!?それって、今すぐこっちに送れたりする!?」と言ったのです。その様子に私は驚いてしまいました。
「ママが出張から帰ってくるまで……ぼくのごはんって、ないのかな……?冷蔵庫が空っぽなの……」
「おなか空いちゃったよ」
「え?空っぽ?ママ、出張期間分、ちゃんと作っておいたのよ!?ハンバーグとか」
私は愕然としました。夫がたくさん食べることも考えて、私はあらかじめ2週間分の作り置きをしておいたのです。唐揚げやハンバーグ、肉じゃがなど……全部タッパーに入れて、食べる日付も書いておいたのに……。
「ちょ、ちょっと待って……!」「ママが作った唐揚げとか、ハンバーグとか、全部、全部なくなっちゃったの!?」と聞くと、「実はね……」と息子は説明を続けました。
「パパが全部食べちゃったの。だから冷蔵庫は空っぽ」と。
私は頭が真っ白になりながら、「冷蔵庫が空に……?冷凍庫にもちゃんと作っておいたんだけど、それはある?」と聞くと、「ない……」と息子。
「それで、今日はなにか食べた?」「いや、いつからちゃんとしたごはん食べてないの?」と尋ねると、息子は「えっと……家で食べてないのは、昨日から、かな……」と答えました。
「パパが冷蔵庫と冷凍庫にある食べ物、どんどん食べちゃって。でも僕の分は残しておくから大丈夫って言ってたんだけど、結局うっかり全部食べちゃったみたいで。『ギリギリ残しておいたつもりが……』って言ってた」「だから僕、おなかすいちゃって。でも今日は土曜日だから、パパはいくら起こしても起きてこないんだ。『ゆっくり寝かせろ』って怒るだけで……」
あまりの惨状に私は言葉に詰まりました。なんとか「ごめんね……ママがいない間に、そんなひもじい思いをさせて……」と絞り出すと、「ママは悪くないよ!」「仕事中に電話してごめんなさい……」と謝ってきた息子。
「そんなのいいのよ!」と言って、私は緊急用のお金のありかを息子に伝えました。「ママのメイクポーチの中にポチ袋が入っていて、その中に1万円がはいってるの」「それですぐにコンビニかスーパーに行って、食べたいもの買って、好きなだけ食べなさい!」と言うと、「えっ!いいの!?ありがとう!」と息子。
「その間に、ママ、いったんそっちに帰るからね」「パパはどうせ起きないだろうから放っておきなさい……。でも、家から出るときはしっかり戸締りしてね」と言うと、息子は「わかった!僕、コンビニ行ってくるね!」とうれしそうな声で返してきました。
妻として私が下した決断
数時間後――。
暗くなってから、「お、おい!息子が家にいないんだ!」「今日はどこにも行かないって言ってたはずなのに……なにか事件に巻き込まれたのかもしれない!」と夫が連絡してきました。いったい何時間寝ていたのやら……。
「息子のことなら心配しないで、今、私と一緒にいるから」と言うと、「は!?お、お前、今関西出張中だろ!?」と驚いた夫。
「そうよ、だから息子を関西に連れてきたの」「ついさっきまでたくさん好きなもの食べて、今は爆睡してるわ」
「なんで急に息子をお前の出張先に連れて行くんだよ!しかも俺になんの相談や連絡もなく!」と怒り出した夫を、私は「なんでって、あなたが息子のごはんを全部食べちゃったからでしょうが!」と一喝しました。
「あなたが冷蔵庫と冷凍庫のごはんを食べ尽くしたんでしょ!」「土曜日の今日は、息子は朝からなんにも食べてないって言うのよ!?」「そんな息子を放っておけるわけないでしょ!」
「な、なんだそんなことか……男なんだから、多少腹すかせたって平気だろ!」「わざわざ出張先に連れて行くなんて大袈裟すぎるんだよ」と言う夫に、私の怒りは再燃。
「……息子にひもじい思いをさせておいて、謝罪も反省もないのね」「もういい、あらためて覚悟を決めたわ……もうその家には帰りません」「あなたと暮らせないと思って、息子を連れてきて大正解だったわ!」
小学生の育ち盛りの男の子に、満足にごはんすら与えられない夫。そんな人のもとに、息子を置いておくわけにはいきません。そもそも、2週間分の作り置きを、わずか数日で食べ尽くすなんて、正気の沙汰とは思えませんでした。
「もう会社にも親にも弁護士にも相談済みよ」「息子の親権も絶対に私がもらうから」と言うと、「お、俺はこの家の大黒柱なんだぞ!その俺が家にあるものを好き勝手食べて何が悪い!」とこの期に及んで開き直った夫。
「じゃあいっそ、ご両親や息子の友だち、警察なんかに聞いてみる?」「『子どものごはんすらも食べ尽くす父親は何も悪くないですか?』って聞いてみましょうよ」と返すと、夫は言葉に詰まり、黙り込みました。
「もうあなたとはやっていけません」「これ以上大事にしたくないなら、素直に離婚に応じてちょうだいね」「来週になったら弁護士さんから連絡が行くと思うから、今後の連絡は弁護士さんを通じてお願いします」と言うと、「待ってくれ!いったん2人で話し合おう」「こんな急に離婚なんておかしいだろ!」と夫。しかし、私はそれを無視して電話を切りました。
その後――。
夫の言い分は「お前が順調に出世して俺より稼ぎがよくなったからプライドが傷ついちゃって……。せめて家での威厳を保ちたくて、いっぱい食べてたんだ……」というおかしなものでした。私が稼いでいるのは家族のため。その家族を飢えさせて満足しようとするなんて、私は開いた口がふさがりませんでした。
おなかいっぱい食べた息子は、「ママが出張に出かけてる間、パパが怖かった」と言っていました。「ごはんになると、パパはすごい勢いでごはんを食べて……僕の分もどんどんなくなっちゃって……」と息子。夫は鬼気迫る勢いで食べていたらしく、息子は手を出せなかったようです。
弁護士さんの尽力もあり、無事に私が息子の親権を得て、離婚は成立しました。元夫は「せめて息子には会わせてくれ」と懇願してきましたが、当の息子が「僕の誕生日ケーキ食べたことも謝ってもらってないし、もう会いたくない」と言っているので会わせていません。
会社の理解もあり、私と息子は大阪で新生活をスタートしました。息子は持ち前の明るさを取り戻し、新しい学校でもたくさんの友だちを作ったようです。「大阪はおいしいものが多くてうれしい!」と喜ぶ息子に二度とひもじい思いをさせないよう、私も仕事をがんばっています。
【取材時期:2025年2月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。