「あなたの旦那さんって大手商社にお勤めだったよね?」と、なぜか私の夫についての確認をしてきた親友。私がその通りだと答えると、「じゃあ、旦那さんと夫婦2人で来て!」と言い出して……?
玉の輿にのる新婦の思惑
私の夫と親友は、私たちの結婚式でしか顔を合わせたことがないはずです。しかし、なぜか親友は私の夫に参列してほしい、と謎のこだわりを見せました。
不審がる私に、「実は私側の参列者が少なくて……一方で、新郎側にはこの地域の名士の方々が多数出席予定で……」「新郎新婦で招待客の数が違いすぎると、バランスが悪くて」と説明した親友。
「かと言って、誰でもいいわけじゃないんだよね」「お義母さんは『あなたのほうはどんな方々を呼ぶの?』って聞いてくるし……」「あなたの旦那さんみたいなエリートが来てくれたら、きっとお義母さんも文句は言わないと思うんだ」
そう言われて、なるほどと納得した私。
「わかった、夫の予定を確認してみるね」「でも、うちの夫も忙しいから……もし仕事の都合で無理なときはすぐ連絡するね!」
私がそう言ったとたん、「はぁ?そんなの許せるわけないでしょ?」と親友。
「私の新郎はあの御曹司なのよ!?そんな人の結婚式に招待してもらえることがどれだけ名誉なことか!」「あなたの旦那さんには、絶対に来るように言って!」
その態度の豹変っぷりに私はびっくり。「あの……なんか、雰囲気というか、性格変わった?」と聞くと、親友は慌てて「そ、そんなことないよ!」「あなたのこと親友だと思ってるし、親友夫婦には祝ってもらいたいじゃない!」と取り繕いました。
しかし、電話を切ったあとも、私は違和感を拭いきれないのでした……。
態度を180度変えた新婦
そして、親友の結婚式当日――。
私は親友に言われたとおり、夫をともなって式場へ行きました。私が「式場に着いたよ!」とメッセージを送ると、控室から新婦である親友が出てきたのです。……手にはシャンパンの瓶を持って。
私と夫が親友に挨拶をしようと口を開きかけた瞬間――親友は私にシャンパンを浴びせかけました。
「ちょっと!なにするの!」と悲鳴を上げた私に、「早く帰れよ!」と言ってきた親友。
「なんで!?あなたの結婚をお祝いしたくてきたのに、なんでこんなひどいことするの!?」と聞くと、「私はもう、あんたとは違うのよ」「中卒のあんたと私じゃつりあいがとれない、って言わなきゃわかんない?」と親友は言いました。
「お義母さんからも『これからの友人は上流階級の方だけになさい』って言われてるし、あんたと友だちを続けるわけにはいかないの」「あんたの旦那さんはそれなりに肩書きもいいし、見た目もいいからいいんだけど……中卒でアルバイトのあんたなんて、お義母さんに紹介できないじゃない」と親友。
「私の結婚式には、肩書のある人しか呼ばないの。あんたのエリート旦那がいれば十分!」
「中卒の貧乏人なんてお義母さんに紹介できないから、とっとと帰って!w」
「……じゃあお義母さんに挨拶して帰るね」
「は?」
ご祝儀だって、豪華な結婚式に見合うように用意したのに……。まさか結婚式が始まる前に、シャンパンをかけられて追い出されるなんて……。
友だちを選別した親友の末路
「……それじゃ、最後にあなたのお義母さんに挨拶して帰るね」「ついこの間も会ったばかりだし、……私のこと、きっと覚えてくださってると思うし」
そう言って、したたるシャンパンを拭った私。
「ちょ、ちょっと待って!……なんであんたが、うちのお義母さんと面識あるわけ?」と言って、親友は私を引き留めてきました。
「知ってるもなにも、ここらへんじゃ有名人じゃない」「先月開催の経営セミナーでも講師として登壇していたし、私そこに最前列で参加してたし……」
「お義母さんはたしかに優秀な経営者だけど……なんであんたが経営者気取りでセミナーなんか参加してるのよ?」「あんたって自分の立場もわからないの?」と鼻で笑ってきた親友。
「え?私、コンビニのオーナーだよ?そりゃ、シフトが足りないときは現場に出ることもあるけど……これでも10店舗以上を経営してる経営者なんだけど」
親友の言うとおり、私はたしかに中卒です。家が貧乏だったので、家計を助けるためにも高校に行かずに働きに出ることにしました。最初に働き始めたコンビニでオーナーにいろいろ教わって、経営に興味を持ったのです。そのオーナーに、「この人の経営手腕はすごいから、参加してみたら」と勧められて出会ったのが、親友の義母が主催する経営セミナーでした。
かなり若い私が珍しかったのか、セミナー後、親友の義母のほうから声をかけてくれたのです。私の身の上話を聞いた親友の義母は、「学歴なんて関係ないわ、やる気があるかどうかだけ!」「応援するからがんばりなさい」と言って、親身に相談にのってくれました。そこから私は本格的に経営者を目指すようになったのでした。
「え?コンビニってアルバイトじゃなかったの?」「そんなの、信じられない……!」「お義母さん、私には『友人は上流階級の人を選びなさい』って言ってたもん!」「お義母さんは勝ち組としか付き合わないような人なの!肩書きで人を判断する人なのよ!」と、親友。
しかし、私は親友の義母に対してそんなイメージはありませんでした。「上流」「階級」なんて言葉を使うような人にはとても見えません。親友が間違って解釈しているのではないかと思っていました。
「そうよ、私は『上流階級』なんて一言も言っていないわ」「『わが家に恥じない付き合いをなさい』とは言ったけど……勝手に解釈して、私の言葉をすりかえないでちょうだい」
凛とした声に振り向くと、そこには留袖を着こなした親友の義母の姿が。「うちの嫁がごめんなさいね」と言って、親友の義母は私にタオルを渡し、式場のスタッフにタクシーを回すようにテキパキと指示をしてくれました。
「私は人の価値を肩書きだけで判断したりしません」「自分の力で這い上がってきた人こそ、手本にすべき人です」「……こんな嫁に、わが家は任せられないわ」
淡々と語る親友の義母。すっかり顔が青ざめてしまった親友は、小さく震えていました。
シャンパンまみれの私にタオルを渡して丁寧に拭いてくれた夫は、そっとジャケットをかけてくれました。そして、夫も怒り心頭のようで、「僕たちはここで帰らせていただきます」ときっぱり言ってくれました。
「ちょ、ちょっと待ってよ!こんなに豪華な結婚式なのよ!?せめて旦那さんだけでも残ってもらえない?」と親友。その言葉を聞いて、親友の義母は呆れたようにため息をついていました。
「大事な妻にシャンパンをかけられて、黙っていられるほど無神経な男じゃありません」「新郎のお母さまには妻が大変お世話になりましたし、僕も尊敬しています……。ただ、あなたとは金輪際関わりたくないし、今後妻を関わらせるつもりはない」「そもそも、食べ物や飲み物を無駄にするような人が上流階級を名乗るなんて……。笑わせる」
低い声ですごんだ私の夫に、ヒュッと息をのんだ親友。「そ、その……あの……」と言葉に詰まっている間に、私は夫に支えられながら出口へ。親友の義母に深々と頭を下げられて、タクシーで式場を後にしました。
その後――。
その後、親友の結婚はすぐに破談になり、離婚したと共通の友人から聞きました。あの一件のあと、実家に戻ったものの、ご両親からは相当叱られたそうです。結婚式のキャンセル料もすべて親友が背負うことになり、借金を抱えて苦労している……そんな話でした。
一方の私は、順調に経営を進めています。親友の元義母の経営セミナーには、今も毎回欠かさず参加。今も欠かさず参加しており、そのたびに多くの学びを得ています。
【取材時期:2025年2月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。