動揺を隠しきれない様子で、「元カノが……俺の子どもを妊娠したかもしれないって……だから今日の顔合わせは無理かも」と言う彼。
「最近、会社もちょくちょく早退しててさ……なんか変だなとは思ってたんだけど……」「まさか、あいつが妊娠してるなんて……マジでどうすりゃいいんだよ……」と言う彼に、私はびっくり。そもそも元カノがいまだに彼と同じ会社にいたなんて知りませんでした。
私たちが付き合い始めたのは3年前。まさかと思って問い詰めてみると……?
元カノと続いていた彼氏
「元カノとは3年前には別れてたんだよね?……じゃあ、なんで今さら妊娠なんて話になるの? 計算合わないよね?」とおそるおそる聞くと、「細けぇこと気にすんなって。別れてからも、まあ……ちょっと会ったりはしてたけどさ」と私を小馬鹿にしたように笑った彼。
「元カノが実は同じ会社で?しかも妊娠って……浮気してたってことだよね?」「もしかして、残業で遅い日って、いつも元カノと会ってたの!?」
「二股じゃなかったって言いたいけど、でも正直……何回か元カノの家に行ってたのは事実なんだ」「でもその、ほら飲み会で酔ったときとか……。たまにお前との関係で疲れたときとかに、何回か元カノの家に行ったりとか……」と言う彼に、私はがくぜん。
「でも本気で好きなのは、お前だけなんだぜ?」「お前と結婚するって決めてからは、もう元カノとは会ってなかったんだ。本当に最後の最後だったんだよ」「……ただ、さすがに妊娠させたとなると責任取らなきゃいけないから、結婚もなしってことにしてくれ!悪かったな!」
こんな大事なことを電話だけで済ませようとする彼の不誠実さにも腹が立った私。それに、今日を本当に楽しみにしている両親にも合わせる顔がありません。
「元カノが妊娠したから責任とるしかないだろ」
「だからお前との結婚は中止で。今日の顔合わせも中止だ!」
「わかった、父に報告するね。私は知らないからね」
「は?」
間の抜けた返事をする彼に、「忘れたの?父も同じ会社なのよ。それに、全部知ったら黙ってるタイプじゃないんだからね」と私は言い返しながら涙を拭いました。
このとき、私ははっきりと自覚していたのです。もうこの人と結婚したいなんて、まったく思わないと……。信じていた分だけ、裏切られたショックは大きく、こんなに大事なことを電話一本で済ませようとする不誠実さにも、元カノの妊娠を理由に開き直る姿勢にも、心底うんざりしていたからです。
「とにかく全員に私から連絡しておくし、正直に説明する」「その代わり、もう二度と私に関わらないで!二度と連絡してこないで!」そう言い切って、私は電話を切りました。
娘の異変にいち早く気づいた父親
両家顔合わせのために新調したワンピースを着たまま、わんわん泣いていた私。どうか夢であれ、と思って何度もほっぺをつねったものの、やはりこれは現実でした。
両親にも、彼の両親にも連絡しなければ……とは思っているものの、なかなか勇気が出なかった私。そこに着信が来て、思わず私はスマホを取り落としました。彼だったらどうしよう……と思いながら画面をのぞき込むと、そこには父親の名前が。
「顔合わせの時間までまだ2時間あるが……お父さんとお母さん、そわそわしすぎてもう店に着いちゃったぞ……!」と父。温かい父の声を聞いて、私はほっとしたのと申し訳なさで「お父さん……!」と情けない泣き声で返事をしてしまいました。
「ど、どうしたっ!?何があった!?」と慌てる父に、私は泣きながら事情を説明。
「電話だけで済ませて……お前に頭も下げてないのか!?」「まさか彼がそこまで無責任な男だったとは……。こんなの父親としても、俺の部下としても見過ごせんぞ!」と父も怒り心頭。
しかし、私が引っかかったのは、『俺の部下』という言葉でした。父と彼が同じ会社で働いていることはわかっていたけれど、大きな会社だから部署までは違うと思っていたのです。それがまさか部署まで同じだったなんて――。「……お父さん、同じ会社なのはわかっていたけど、部署まで一緒だったの?」と聞くと、父はため息まじりに言いました。「ああ、実はな。同じ部署で、しかも直属の部下なんだよ。今日の顔合わせでその話もするつもりだったんだが……まさか、こんな形でバレるとはな」
父は続けました。「実はな、彼が『娘の彼氏』だって気づいたのは少し前だったんだ。最初は名字だけ見てもピンとこなかったし、仕事では下の名前を使うことも少ないから、まさかと思ってな」「ある日たまたま名刺を見たときに、お前の話に出てくる彼と一致して……それで確信した」「顔合わせのときにちゃんと話すつもりだった。驚かせようかと思ってな」
驚きつつも「彼の元カノって……お父さんも知ってる人だったりするのかな?」と名前を出すと、父は苦い顔でうなずきました。
「ああ、その人なら……直属じゃないが、隣の部署にいるからな。まあ、いろいろとよくない噂を聞くから、あまり関わらないようにしてたけど」「私たち社員の間では超がつくほどの危険人物として有名なんだよ」「若くて愛嬌があるが、仕事中もよく男性社員にちょっかいを出して問題になってるんだ……既婚者にもしつこくアプロ―チしててね……」「私も一時『2人で飲みに行きませんか』って誘われたよ、厳しめに注意したからそれ以降は何もないが」
まさか私の父にまで色目を使っていたなんて……。元カノは本当に節操がないのでしょう。
「いろいろなことを一気に知ってパニックだろうから、まずは少し休んで気持ちを整理しなさい」「向こうの親御さんにはお父さんたちから連絡しておくから、連絡先だけ教えてくれるかい?」「落ち着いたらお前の好きな焼肉でも食べに行こう」
やさしい父の言葉を聞いて、私はまたわんわん泣き出してしまったのでした。
婚約破棄の白紙撤回を求めた彼氏の末路
数時間後――。
泣き腫らした目を冷やそうと立ち上がったとき、またも着信が。……今度は、彼氏からでした。
「聞いてくれ!実はさ、元カノの妊娠、嘘だったんだよ!最低な嘘でだますなんて信じられねーよな!」「あいつ、俺が結婚するって聞いて嫉妬してついた嘘だったらしいんだよ!自己中すぎてありえないよな!」「とにかくやっぱり結婚しよう!」
私からすれば、彼だって自己中すぎるしありえません。妊娠がたとえ嘘だったとしても、浮気した事実は変わらないのですから……。
「でもさ、結婚したらちゃんとするって。今度こそ真面目にやるからさ……」「だから早く両家顔合わせも済ませて、入籍しようぜ!」「お前の親にもちゃんとあいさつするよ……だから、もう一回やり直そうぜ?」
「……すでにあなたはうちの父親には会ってるよ?」「しかも、ほぼ毎日」と言うと、「はぁ?同じ会社だから毎日会ってる、ってことか?大げさな言い方だな」「まあ、お前も結婚できるって聞いて舞い上がってるのかもしれないけど、変なこと言うなよ」と彼。
「……あなたの部署の部長が、うちの父親なんだけど」「お父さんったら知ってたくせにわざと隠してたみたいなの、両家顔合わせでサプライズするつもりだったみたい」
「……は? え? ちょ、ちょっと待って……部長が……お前の……マジかよ……」「うちの部長がお前の父親だったなんて……」「旧制だったから、まさかとは思ってたけど……全然気づかなかったよ……」と焦り出した彼に、「どうしても結婚したいなら、まずはお父さんを説得でも何でもしてみたら?……まあ、私には関係ないけどね」「明日、会社に出勤したら嫌でも顔を合わせるでしょ」「顔合わせがなくなった理由も、お父さんにちゃんと話してあるからね」と追い打ち。
「お、終わった……。俺の会社人生、絶対に終わった……」と言う彼に、もはや私は乾いた笑いしか出てきませんでした。
その後――。
父は今回の一件を会社の上層部に報告。社内でも問題視され、二人とも別の部署に異動することになったそうです。
さらに私の両親は婚約破棄の慰謝料の請求をサポートしてくれました。彼はご両親に泣きついたそうですが、「自業自得だ」と厳しく突き放され、家に戻ることも許されなかったそうです。社内でも問題視されていることがわかると、彼は焦って慰謝料を一括で払ってきました。借金までして……。もはや自業自得です。
両親のケアもあって、私のメンタルも順調に回復。父がごちそうしてくれた焼肉はとてもおいしかったです。今回のことで両親にかなり心配をかけてしまったので、今度温泉旅行でもプレゼントしようかと思っています。
【取材時期:2025年3月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。