それは、夫の「サプライズ癖」。付き合っていたころは、記念日や誕生日にサプライズで旅行を計画してくれたり、手紙をこっそり用意してくれていたり……その頃の夫のサプライズには、ちゃんと「愛」がありました。
度を超えたサプライズ
しかし結婚してからというもの、それがエスカレートしてきてしまいました。
ある日、急に改まった様子で「話がある」と言うので、私はドキドキとしながら向き合いました。そして、夫は真剣な顔で「離婚しよう」と言ったのです。
一瞬、何かの間違いかと思い「なんで!?」と声を上げると、夫は「サプライズ大成功〜! 嘘だよ〜!」とニコニコ笑いながら言いました。
私は呆れながら、「本当にやめて」と言ったものの、これが何度目だったでしょうか。
私の誕生日会でも驚きの発言
子どもが生まれたら、きっと落ち着いてくれる。そう期待していました。だけど現実は、そう甘くはありませんでした。
ある日、義母を家に招いて、私の誕生日をお祝いしてくれた日のこと。
ケーキを囲みながら、すやすや眠る娘の寝顔を見つめて「幸せだねぇ」と義母と話していたそのとき――
「でも、本当は……俺の子じゃないんだ」
突然、夫がそう言ったのです。一瞬、時が止まりました。
義母は絶句。私はケーキを持った手が止まったまま、言葉を失いました。
言っていい嘘と、悪い嘘
驚く義母と、怒る私に「どっきり大成功〜!」と満面の笑みを浮かべる夫。
けれど、義母は即座に顔を曇らせて言いました。
「言っていい嘘と、悪い嘘くらい分からないの!?」
「冗談じゃないか〜」と苦笑いを浮かべる夫に、私は静かに言いました。
「これからも子どもの前でそんな嘘をつくようなら私はやっていけない。離婚も考えるから」
そこでようやく夫は事の重大さに気付いたようでした。
「本当にごめん。昔から誰かが笑ってくれるのがすごく嬉しくて。驚かせて、笑ってくれたら『俺、良いことした!』って思えていたんだ。でも、それが人を傷つけていたんだな」と謝ってくれました。
サプライズの根底にあったもの
夫の「笑わせたい」は、「認められたい」だったのかもしれません。
「これからは、嬉しいサプライズだけにする。子どもにも、君にも嫌な思いはさせたくない」と夫は宣言。私は夫が変わろうとする気持ちを受け入れることにしました。
その日から、夫のサプライズは私に喜びを与えてくれるものだけになりました。
「お風呂に入っている間に、洗い物を終わらせてくれていた」とか、「週末起きたら、大好きなパン屋さんのパンが並んでいた」とか。
今では、私たち家族の暮らしは、静かであたたかいやさしいサプライズに包まれています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。