そのボスママは、地元の有名企業の社長夫人。幼稚園でもかなり幅を利かせているらしく、誰も逆らえない様子でした。
そんなボスママは「あなたがやってよ!」と私に旅行の幹事を押しつけてきて……?
ボスママからの無茶な押しつけ
私が東京出身で東京育ちなことがどうやら気に食わないらしいボスママ。「今年でみんな卒園だし、思い出作りに旅行に行くんだけど~」と話しかけてきたのですが、何かをたくらんでいるようでした。
「あなたにその旅行の幹事をやってほしいの!」「東京の人ってプライド高いし、仕切りたがりじゃない?」「それに、旦那さんが転勤族で専業主婦なんでしょ?私たちと違って、時間に余裕があるじゃない」
そう言われても、私はこっちに来たばかり。土地勘もないし、ママ友たちの好みだってわかりません。しかし、私が断ろうとすると、ボスママは「は? まさか、私のお願いを断るつもり?新参者のくせに?」と圧をかけてきたのです。
「みんな旅行を楽しみにしてるし、断ったらさらに浮いちゃうよ?」「せっかくママ友仲間に入れてあげようと思ったのに……。ママ友ができないといろいろ大変じゃない?」
子どものためにもここは私ががんばらないと! と思った私は、結局幹事を引き受けることに。
「さっすが~!東京の人は頼りになる~!」「あんたが幹事をしっかりやったらママ友として認めてあげるし、グループメッセージにも追加してあげる」と言って、ボスママはご満悦でした。
ボスママとその子どもが帰ったあと――。
「ごめんなさい、ちょっといいですか……?」と話しかけてきたのは、おとなしそうなママさんでした。そのママさんに手招きされるままに、私たちは人目のない物陰で話をすることに。
「さっき、あなたが旅行の幹事を押しつけられてるのを聞いてしまって……」と言いながら、彼女はグループメッセージを見せてきました。
そこには『あの新参者がやりたいって言ったから、幹事はあの人に任せました~』とボスママからのメッセージが。私が驚いて言葉を失っていると、「前も、同じようなことがあって……」とそのママさんは過去のことを話し始めました。
以前にも、あのボスママが目をつけたママさんがいたそう。ほかのママ友たちに嫌がらせをさせたり、無視させたり……。結局、その目をつけられたママさんは転園してしまったそうです。
「私、実はそのママさんと仲良かったんだけど……。そのときはボスママが怖くて何もできなくて……。それで今回、あなたのこと、見て見ぬふりはできなくて!」「表立っては難しいけど、なんでも協力するから言って!」と私の手を強く握りしめてきたママさん。
しかし、私は「ありがとうございます。でもお気持ちだけで十分ですから」と彼女の手をやんわりと包みました。「私としても早くここに慣れたいし、ママ友のみなさんとも仲良くなりたいし、私なりにがんばってみたいんです!」と言うと、彼女は「わかった、でもなにかあったらいつでも連絡してくださいね」と言って、また手に力を込めてくれました。
子どもじみたボスママの横暴
そして、旅行当日――。
みんなに旅行を楽しんでもらえるように、そしてわが子にもいい思い出ができるように、とこの日のために準備をしてきた私。しかし、出発直前になってボスママから連絡が来たのです……。
「今日までママ友旅行の幹事ありがとう! でも幹事は旅行の手配をするのが仕事っていうか……。別に一緒に来なくていいのよね!」「正直、新参者のあなたたちが一緒だと、気を使うじゃない?」「だから、私たちだけで楽しんでくるね!向こうには人数が変更になったって伝えてあるから」「あなたはキャンセルってことで」「あ、費用のことは気にしないで、ちゃんと払うから安心して?」
とんでもないボスママの発言に、言葉を失ってしまった私。「で、でも……幹事を引き受けたのは、みなさんと仲良くなりたかったからで……」「初めての土地で不安もありましたけど、少しでも楽しんでもらいたくて、一生懸命準備してきたんです」「子どもにも『きっと楽しい旅行になるよ』って言ってあって……。それなのに、こんなかたちで外されるなんて、あんまりです」そう言いつつ、私としてもこんな目にあってまで行きたいと思えなくなっていました。
「……そしたら、旅行費用はすでにまとめて支払い済みなので、振り込みだけお願いできますか?」
「あーもう、わかったって! お金のことでガタガタ言わないでよ?払うって言ってるでしょ。うち、お金には困ってないから」とあっさり言い放つボスママ。ボスママは最初から私たちを置いていくつもりだったようです。「あんたのキャンセル料もこっちで出すから!」「でもつまんない旅行だったら承知しないからね!」と、どこまでも横暴なボスママ。
一瞬、私は頭が真っ白になりました。けれど、「ここで黙ったらまた誰かが泣くことになる」と自分に言い聞かせ、私はスマホを握り直しました。そして――「SNS、見てないんですねー」と私は返しました。すると「え?」という反応。どうやらボスママは何も知らないようです。私はSNSに投稿されている内容をスクショして、ボスママに送ることにしました。実はSNSにはこんな投稿がされていたのです……。
自分より目立つ存在が許せなかったボスママの末路
「『さすがに新参者と旅行ってきついわよね』『あの人が勝手に幹事やってるし、お金のことも勝手に進めてるんだから任せとけばいいのよ』『あとで何か言ってきたら、適当にごまかせばいいって~』『新参者には痛い目を見せて上下関係を教えてあげないと』」
ママ友グループで送った自分のメッセージがSNSに投稿されていることを知ったボスママは、「そ、そんな!なんで!? 誰がこんなのアップしたの!?」とうろたえ始めました。「あんたがやったのね!?」と言われましたが、私はそのやりとりがされているグループには入っていないのです。ただ、メッセージのスクショがSNSで広まっているのを、偶然見つけたのです。
「普通に考えて、そのグループにいる誰かじゃないでしょうか?」「きっと、あなたの横暴さに耐えられなかったんでしょうね……」と言うと、「みんな私の言うこと聞いてたのに……なんで……」とボスママ。
さらに、ボスママのもとにはSNSのことを聞きつけた旦那さんからのメッセージも来ていたようでした。「夫が、会社に私の噂が広がってるって……。『帰ったら話をする』って……どうしよう……」と焦るボスママ。そのメッセージを最後に、ピタッと連絡が止みました。きっと画面の向こうで言葉を探しあぐねているのだろうと思い、そのまま少し待ってみましたが、結局メッセージが届くことはなく、私とボスママのチャットは静まり返ったままでした。
その後――。
結局、ママ友旅行は中止に。どうやらママ友たちは、ボスママの振る舞いにうんざりしていたらしく、旅行に乗り気ではなかったよう。ママ友たちからは謝罪とともに、前払いしていた旅行費用をいただきました。前に話しかけてきてくれたおとなしそうなママさんに、「もしかして、SNSにスクショを投稿したのって……」と聞いてみると、彼女は「私にそんな度胸があるわけないじゃないですか」とにっこり笑っていました。
ボスママは、園でのトラブルが周囲に知られたことで立場が悪くなり、保護者活動への参加を控えるよう園側からも通達されたとのこと。それ以降、姿を見せることはなく、子どもの送迎はすべて家族が担当するようになりました。
ボスママの存在感が薄れたことで、園全体の空気がやわらぎ、以前よりも保護者同士が気兼ねなく関われるようになりました。うちの子も毎日楽しそうに通園しています。
【取材時期:2025年3月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。