乳がん治療から得た気付きと挑戦
私は「がん化学療法看護認定看護師」としてがん治療を専門にしてきましたが、自分自身が乳がん治療を経験したことで、人生の価値観が大きく変わりました。
手術、抗がん剤、放射線治療という1年半にわたる治療を通じて、「当たり前の日常がどれほど貴重か」を実感しました。それまで漫然と過ごしていた私の時間の感覚や意識が、病気を経て「1日1日を丁寧に生きる」「命あるものには必ず死が訪れる。その瞬間まで諦めずに生きたい」という思いに変わったのです。この気付きが、絵本作家としての夢を再び追いかける原動力となりました。
私の受けた治療では、髪が抜けることが避けられない副作用でした。そのため治療中でも「美しくいること」を心がけ、ボブ・ミディアム・ロングの3種類のウィッグを準備しておしゃれを楽しみました。また、自宅療養中には 女性だけの30分健康フィットネス「カーブス」での運動を始め、生活リズムを整えることで心身の回復につながりました。
これらの取り組みは、新たな挑戦への意欲を高めるきっかけとなりました。乳がん治療はつらいものでしたが、その過程で得た「時間」や「命」の捉え方の変化が、小さいころからの夢だった絵本制作につながり、私自身の価値観を大きく 変えました。
愛犬との日々から芽生えた思い
私の絵本『1日1日だワン』は、愛犬・豆柴の聡次朗さんとの日々からインスピレーションを得て生まれた作品です。彼との生活では、日本の四季の美しさやその移り変わりに触れることが多くありました。普段はなかなか気付けない桜の美しさや、「なぜ1年に1回だけ咲くのか」という自然の不思議を犬目線で描くことで、小学生から大人まで幅広い世代に楽しんでもらいたいと思いました。
聡次朗さんは2024年に12歳8カ月で虹の橋を渡りました。血液のがんでしたが、人間でいうと64歳という年齢で寿命を全うしたと思っています。彼が還暦を迎えた際、「永遠に残る方法はないか」と考えた末に絵本制作に取り組みました。
その結果、『1日1日だワン』では四季を人の一生に重ね合わせて描き、1日1日の大切さを伝える内容に仕上げました。この作品には病気によって得た学びや愛犬との思い出を込め、多くの人々に「今この瞬間」を大切にしてほしいというメッセージを届けたいと思っています。
絵本制作で苦労した言葉選び
絵本制作で最も苦労した点は「言葉選び」でした。文字を読んで聞く言葉の美しさと、見た美しさは異なります。私は看護師として働いていたときから「言葉の力」を感じていました。
患者さんとのコミュニケーションでは、不安を取り除き笑顔を引き出すために言葉選びが非常に重要でした。その経験から、絵本でも「うまく伝わるだろうか」という不安がありました。
編集者と何度も話し合いながら、「ひらがなと漢字のバランス」「ルビをつけるべきか」など言葉選びについて徹底的に検討しました。言葉には力があります。その力を最大限生かすため慎重に選択を重ねた結果、自分が納得できる形で仕上げることができました。このプロセスは大変でしたが、完成した作品を見るとその努力が報われたように感じています。
まとめ
乳がん治療から得た教訓や愛犬との思い出は、私自身の価値観や人生観を大きく変えました。 人は限られた時間しか生きられません。いつかはやってみたいと思っていた夢をかなえるなら、「今」しかないと気付きました。その経験を絵本という形で伝えることで、多くの人々に「命」や「時間」の尊さ、1日1日の大切さについて伝えられたらと思っています。
※記事の内容は公開当時の情報であり、現在と異なる場合があります。記事の内容は個人の感想です。
※本記事の内容は、必ずしもすべての状況にあてはまるとは限りません。必要に応じて医師や専門家に相談するなど、ご自身の責任と判断によって適切なご対応をお願いいたします。
著者:雑賀 美和(さいかみわ)/50代女性・看護師。49歳で乳がんの診断を受け、乳房全摘手術を受ける。乳がんに罹患するまでは「がん化学療法看護認定看護師」として、大学病院に勤務。乳がんの治療を経て、絵本作家としてデビュー。
イラスト/山口がたこ
※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2025年4月)
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