いつだって姉優先のわが家
小さいころから母は美人の姉だけ特別扱いしていたのです。姉はいつだって新品の高級ドレス、私は姉のお下がりばかりで新しい洋服を買ってもらったことがありませんでした。さらに、父が経営する会社のパーティーには姉だけを参加させたり、夏休みには姉と両親だけが海外旅行に出かけ、私は祖父の住む田舎へ預けられていたのです。広い世界を夢見ていた私にとって、姉だけが光を浴びる家は窮屈で寂しさだけが胸に残ったのです。
大人になってからも私の扱いは変わらず、それどころか酷さは増す一方。母は姉に向かって「なんでこんなに綺麗なの!? あなたならどんなエリートだって、セレブな男性だって、よりどりみどりよ!こんな美人には誰だって恋に落ちちゃうもの!」と褒め称えるばかり。姉も「普通の男じゃ話にならないわ! セレブと結婚して会社に有利な取引をしてもらうか、高学歴のエリートを捕まえて後継者にするか、どっちかよ」と自信満々に言うのです。
母と姉の言葉に、私は小さく溜息をつきました。私は、両親からまったく期待されず、姉の引き立て役を演じなければならない未来に希望を見いだせずにいました。寂しさと焦りが入り交じった複雑な思いを感じていたとき、ある出来事が私たち家族を襲うのでした……。
父の苦境と私の焦燥
これまで好調だった父の会社が業績低迷に陥ってしまったのです。借金返済に追われ、父は夜遅くまで取引先をめぐり、銀行に電話をし続ける日々。ある朝、疲れ切った父が小さな声で「まとまった資金があれば、一気に再建できるのに……」と呟いたのです。
父が資金を調達できず苦しむなか、田舎から駆けつけた祖父がある提案をしてきたのです。それは「祖父の元で農業の修行をしている男性と結婚すること」を条件に資金を渡すというものでした。この話に飛びついた父は「お姉ちゃんは高嶺の花だ。こんな美人を山奥に嫁がせるわけにはいかない。お前が身代わりになって嫁げ」と私に向かってひと言。母は満面の笑みで「お姉ちゃんがあんなド田舎に行くなんてあり得ないわ。あなたにピッタリじゃない!」と言い放ったのです。ショックを受ける私に姉までが「やっと日の目を浴びることができるじゃない!」と笑いながら言うのです。
私は言葉を失いました。私の意思とは無関係に、まるで家族の“都合のいい道具”にされ政略結婚をさせられるという苦しさに押しつぶされそうになりました。しかし、それでも家族を救いたいと思い結婚を決意しました。
その後、業者や会場に問い合わせを重ね、なんとか結婚式は1週間後に行われることに。ただ、手配できたのは直前キャンセル枠の小さなチャペル。参列者はもちろんゼロ、食事もドレスもレンタルの最安プランしかありませんでした。残された準備期間はわずか7日間……私は、胸の奥がひんやりと冷たくなるのを感じた。
祖父が語る真実
1週間後、結婚式が終わると祖父は突然笑いだし 「実は、この結婚は彼が提案したんだよ! そしてお金は私じゃなくて彼自身の投資で稼いだお金なんだよ」と言うのです。彼は祖父の元で修行をする傍らで投資家として仕事をしているというのです。私がポカーンとしていると彼が「これ以上君が傷つく姿を見たくなかったんだ……」と呟き、耳元でそっと「ぼくが本当に欲しかったのは君だよ」と囁くのです。
その言葉に疑問を感じたのですが、彼の顔を見てあることを思い出したのです! 幼ないころ、長期休暇のたびに祖父の家に預けられ仲良く遊んでいた男の子のことを……。そして、私は彼のことが大好きだったことを! 私は 「あれはあなただったの?」と問いかけました。すると彼は「僕はずっと覚えていたよ。だって君は僕の初恋の人だったから! だから君が家族と一緒に破滅の道をたどるのを黙って見ていられなかったんだ」と話してくれたのでした。初めはツラく悲しい結婚だと思っていましたが、真相を知り幸せな結婚へと変わったのです。
数年後、結局父の会社は倒産してしまい家族はそれぞれの道を歩むことになったのです。私たちはというと、2人の子どもにも恵まれ幸せな日々を送っています。子どもたちと一緒に祖父の山を散歩しながら、彼と将来を語り合う日々は何よりの宝物です。
◇ ◇ ◇
どんなにひどい仕打ちを受けても、必ずあなたを助けてくれる人が現れます。そして、誰かの優しさを受け止めることで、新しい道が開けます。裏切りや孤独に負けず、大切な人を信じて歩んでください。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。