「明日は社長の視察だ!派遣は掃除でもしてろ」
ある日、会議中に売上低迷について話し合いが行われていました。資料を見ながら、僕は「競合の影響を分析した上で、もっと差別化を意識する必要があると思います」と発言。
その瞬間、部長の顔色が変わり、「派遣のくせに出しゃばるな!」と激怒。
さらに、「明日は社長の視察だ。派遣は掃除でもしてろ!」と一方的に命令され、会議室や給湯室の掃除を任されました。
悔しさはありましたが、「今の自分にできることをやろう」と腹をくくり、掃除と並行して、自分なりに社長が気にしそうな資料をまとめておいたのです。現場で感じた課題と改善案を、簡潔なレポートに仕上げました。
夕方、その様子を見ていた同じ派遣仲間の女性が声をかけてくれました。
「明日が楽しみですね」
その言葉に、僕は小さくうなずきながら、「そうだね」と答えました。
視察当日、社長が驚いたのは……
翌日、予定通り社長が、視察のために支社であるうちのオフィスを訪れ、部長が満面の笑みで出迎えました。掃除を終えた僕は、黙って道具を片付けていたのですが、社長の目が止まったのは、会議室の机の上に置かれた資料でした。
「これは……誰がまとめたの?」
部長が固まる中、僕が「僭越ながら、私なりに気づいた点をまとめさせていただきました」と答えると、社長の目が輝きました。
「素晴らしい視点だ。現場に入っていなければ出てこない内容だね。君、先月から“派遣”として入った人だよね?」
そう尋ねられ、僕は静かにうなずきました。
すると社長は、皆の前でこう言ったのです。
「立場ではなく、視点と行動こそが重要。こういう人材をこそ、会社は大切にすべきだと思う」
その一言で空気が一変。部長の顔はみるみる青ざめていきました。
立場を越えて、ひとつのチームに
その後、僕はプロジェクトチームに招かれ、正社員としての打診も受けました。派遣社員仲間たちも、僕の姿勢に刺激を受けたと言ってくれたのは嬉しかったです。
一方、部長はというと……あれから直接食ってかかられるようなことはないものの、相変わらず僕のことをよく思っていないようで、その後も派遣社員への横柄な態度は変わりませんでした。最終的には、細かなトラブルが続いていることが社長にも伝わり、部署を異動することになったようです。
立場が違っても、目指す場所は同じ。会社をより良くするために集まった仲間同士、互いを尊重し合い、協力して働くことこそが、本当に強いチームをつくる鍵なのだと思います。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。