私を見て「美人の奥さんいいなぁ……」とぼやき、「俺だって努力しているのに、評価されるのはあいつばかり……」と、同僚を妬んでいます。
慰めないと不機嫌になるため、慰めてあげると「お前まであいつの肩を持つのか」と言いがかりをつけ、なじってきます。愚痴に混ぜて、私のこともバカにしてくるくせに、こんなのはあんまりです。
夫は、口を開けば愚痴ばかり。同僚への嫉妬に駆られている日の夫は、特にひどい。そんな夫にやさしくすることに、私はもうそろそろ限界……。
俺の支えが必要なんだ!?
ある日、夫が妬む同僚が突然の事故で帰らぬ人となってしまいました。優秀な戦力を失くした夫の会社は大混乱。みんなが悲しみと、宙に浮いてしまった膨大な量の仕事への対処に追われる空気の中、夫は同僚の奥さんのことばかりを心配しています。
夫は「仕事の引き継ぎやら何やらでしばらくは残業が続く」と言って、同僚が亡くなって以降、朝早く家を出て夜遅く帰ってくるようになりました。夫は仕事を頑張っているのだと私は思っていたのですが、どうやら夫は仕事の合間、1日に何回も同僚の奥さんの様子を見に、同僚の家に足を運んでいるそうで……。
偶然会った共通の友人からこの事実を聞き、私はあ然としました。本当なのかと聞くと夫は「心配だから様子を見に行っている。それくらいしかできないからな」と。しかし、奥さんからすれば夫は他人。逆に迷惑なのでは……? 整理もまだついていないであろう傷心中の女性ひとりの家に、夫がしつこく訪ねるのは不適切ではないでしょうか。
私がそう意見すると、夫は「俺に下心があるとでも言いたいのか!?」と逆ギレ。そして、「あいつが亡き今、奥さんには心の支えが必要なんだよ! 俺が支えてあげなければならない!」と声を荒らげたのです。
私が高熱で寝込んでも、気にすら止めない薄情な夫です。あれだけ嫉妬していた同僚の奥さんを心配……私には下心があるようにしか見えませんでした。
そして、夫がとんでもないことを言い出したのです。
夫から突然、離婚と再婚の宣言!?
ある日、帰宅した夫が突然、「未亡人となった美人の奥さん……彼女を狙って、やましい気持ちを抱いた男が近づいてくるに違いない。そいつらから彼女を守るのが、同僚としてできる最大の支援、俺の役目だ」と語り始めました。
何を言っているんだか……と私があきれて夫の話を聞いていると最後に、「彼女を側で見守ってやりたい。だからお前とは別れなければならない」と言ったのです。
「俺、同僚の奥さんと再婚することにする! 未亡人はかわいそうだろ?」
私は夫から突然、離婚と再婚の宣言をされたのです。あまりに唐突で意味がわかりませんでした。しかも、同僚の奥さんから了承を得たわけでもないという点が、ものすごく気にかかります。
あっけに取られる私に夫は、同僚の奥さんが自分に気があるのは態度でわかる、出会うのが遅かっただけで自分たちはこうなる運命だったのだと力説。やましい気持ちを抱いた男って、まさに夫のことなのではないでしょうか……。
「彼女を支えてやれるのは俺しかいない! お前は1人で生きてけるだろ」
突然ひとりになってしまった同僚の奥さんをかわいそうだと言いますが、突然夫に捨てられる私をかわいそうだと思わないところも不思議でたまりません。私はいろいろな感情が湧いたあと、『無』に達しました。これ以上この話を続けたくないと思った私は、離婚を受け入れたのです。
「了解! じゃあね!」
前々から夫が同僚の奥さんのことを気に入っているとは思っていましたが、同僚が亡くなったことを利用して取り入ろうとするだなんて本当に最低です。
「すまんな」
そして夫は、最後に思ってもない謝罪の言葉を口にして、私に笑顔で「俺、彼女を幸せにするよ」と私に別れを告げてきました。
激しい思い込みにより自滅の道を辿った元夫
その後すぐに、私は夫と離婚。夫は当然ですが、同僚の奥さんから拒否され、再婚には至らず。離婚後、財産分与の話し合いのため私は元夫と顔を合わせましたが、元夫は「彼女は今、混乱しているだけで時間が経てば必ず俺への気持ちに気付くはずだ。そのうち俺しか見えなくなる」と言って、激しい思い込みをしているようでした。
また、私がよりを戻したいと考えているとも思っているようで、「お前のことを嫌いになったわけではないんだ。でも、すまない」と。別れてもなお、幻滅させられ、なぜもっと早く別れなかったのだろうと後悔すらしました。
その後も元夫はしつこく同僚の奥さんに言い寄ったようで、会社に報告されてしまい、今は地方転勤を打診されているようです。私は実家に戻り、誰にも振り回されない自由な生活を楽しんでいます。今度は、謙虚で思い込みが激しくないパートナーを見つけたいと思っています。
◇ ◇ ◇
思い込みには、ときに現実を都合よく解釈させてしまう力があります。『相手のため』という大義名分を掲げた自己満足な行動は、本当に相手のためになるわけではありません。どのような人間関係においても、相手を尊重し、自分を客観視する冷静さを忘れないようにしたいものですね。
【取材時期:2025年6月】
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。