夫が退院した翌日のことです。私のもとに変な電話がかかってきました。連絡してきたのは、とある病院の看護師さん。夫が緊急入院したとのことでした。
『また入院って、どういうこと!? 夫は自宅で静養しているはずなのに……まさか』このとき私は、地方へ出張中で、すぐには帰れませんでした。そんなわけないと思いつつも、不安になったので、すぐに夫に連絡した私。しかし夫と連絡は取れず……。
もしかしたら、無理して職場に行ったのではないか。その途中で事故にでも遭ったのだろうか……不安がどんどん大きくなり、夫の会社へ連絡することにしました。
病院から再びかかってきた電話
夫の会社に連絡すると、出勤していないと言われました。私はますます不安になり、今すぐ帰らなければと自分の仕事を調整しようとしていると、夫から折り返しの電話がきて、無事を確認できました。
夫は昼食の準備をしていて着信に気付かなかっただけで、自宅にいて無事だとわかりました。ひとまず、夫から会社に連絡を入れてもらい謝罪。私は出張を続行することになりましたが、病院からの電話は何だったんだろう……間違い?
その2日後、私が出張から自宅に戻り、夫と過ごしていると、再び病院から連絡が。緊急入院した夫の回復が順調だとして退院日の連絡があり、退院日に入院費の支払いをお願いしますと案内されたのです。
しかし、夫は今、私の隣にいます。怪我をして違う病院に入院もしていましたが、もう退院しているし、もちろん入院費も支払い済みです。
私が困惑していると、看護師さんから「サトウA太さんのご家族、B子さん(私の名前)でお間違いないですか?」と聞かれました。私は確かにB子ですが、そのサトウA太さんの家族ではありません。しかし、その患者の名前には、心当たりがありました。
状況を理解した私は、看護師さんにその患者の家族ではないことを伝え、すぐに病院に行ってみることに。私から話を聞いた夫は、激怒して、一緒に病院へ……。
緊急入院した私の夫を名乗る人物とは?
私の夫を名乗っていたのは私の元夫でした。偶然にも今の夫と元夫の苗字は同じサトウ。出張中に受けた一度目の電話で看護師さんから「サトウB子さんのお電話でお間違いないですか?」と聞かれ、「はい」と答えた私。それで今回の勘違いに至ってしまったのです。
私と元夫の離婚の原因は、元夫の不倫。その不倫相手と再婚した元夫ですが、なぜか入院書類の緊急連絡先の欄に私の情報を記入していたのです。
不倫されたことと離婚のショックが強く、もう二度と結婚はしないと決めていた私。しかし、今の夫と出会い、気持ちが変わりました。元気と幸せを取り戻すことができたのです。それなのに、また元夫に翻弄されるとは……許せません。
病院の受付で事情を大まかに話し、身分を証明した上で面会の許可を得て、元夫が入院している病室をのぞくと、元夫が電話で話しているのが聞こえました。なんと元夫は、私に入院費を支払わせようとしているようなのです。私が再婚しているとは思っていないようで「あいつはまだ俺に気があるから呼び出せば支払ってくれるはず」と話していました。元夫が電話で話している相手は、どうやら再婚した元夫の今の妻。離婚する際に私が2人に慰謝料を請求したことを恨みに思っている様子でした。
私は夫と一緒に病室に入り、元夫が私にしたことは詐欺に当たる可能性があり、病院へも虚偽の報告をしたことは法的に問題になり得ると指摘しました。すると、焦り出し「詐欺? 警察は勘弁してくれ、逮捕されたくない」と騒ぎ始めた元夫。しかし、怒りが収まらない私は、知人の弁護士に今回の件をすべて任せることにしました。
病院を後にするとき、看護師さんにも事情を説明し謝罪した私。すると病院側からも何度も謝罪していただき、私に一度目の電話をくれた看護師さんは新人さんで、緊急連絡先として記載のあった私に連絡を急ぐあまり、フルネームでの確認と苗字が同じだったことから早合点してしまい、本来徹底すべき生年月日など複数の情報による本人確認を怠ってしまった、との説明を受けました。
私もフルネームで確認され、「はい」と返事をしたので、双方の思い込みで通常では起こらない今回の事態に発展してしまったのでした。
私を絶望させた愛はあっけなく…
結局、弁護士を通して私と元夫と病院とで話し合い、病院が確認を怠って患者(元夫)の個人情報を第三者である私へ伝えたと元夫は主張しましたが、そもそも書類に虚偽の情報を記入したのは元夫です。元夫の言い分が通るわけなどなく、入院費は元夫がきっちり支払うということでシンプルに和解。
病院からは私へ後日改めて、丁寧な謝罪がありました。しかし、私としては悪いのは元夫ただひとりだと思っていたため、元夫には二度と私に関わらないことと連絡先の削除を約束してもらうだけで十分でした。
私を絶望させた、熱い不倫の愛もそれまで。訴えられると思った元夫と妻は、お互いに罪をなすりつけ合い、最後はののしり合って別れたと、今回の件を依頼した知人の弁護士から聞きました。今はもう、2人ともどこでどんな生活をしているかわかりません。
私は、どうしてこんな人とかつて夫婦だったのか……と、自分が恥ずかしくなりました。今度こそ、元夫のことなど忘れて、今の夫と幸せな未来へ歩んでいきたいです。
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いっときの熱に浮かされて……しかし、冷静になってみると後悔するという経験は誰にでもあるのではないでしょうか。それが結婚や離婚など、人生の大きなイベントである重要な選択の場合には、後悔もショックもそれだけ大きくなります。夢を見たり、目の前の幸せを楽しんだりすることは悪いことではありませんが、慎重さも忘れないでおきたいものですね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。