第2の人生は料理人!
その昔、若いころは料理の仕事をしていた私。しかし、事故で腕を負傷してしまったことで包丁が握れなくなり、仕事を辞めざるを得ない状況に……。
しかし私は諦めずにリハビリを続け、腕も元のように動かすことができるように。そして、今回再び高級料亭で料理の仕事をすることになったのです。
私が働き始めた料亭では、「見習いには包丁を持たせない」というルールがありました。そのため当分の間、担当は皿洗い。それでも料亭で働く日々は充実していて、私は満足していました。
料理長は私の料理をしたい気持ちを知っていたので、従業員だけが食べる「まかない」であれば作っていいと言ってくれ、私に料理を作らせてくれたのです。
ところが……。まかないとはいえど、見習いが包丁を握っていることを知った女将は激怒しました。しかし、激怒しつつも毎回しっかり完食していたので、私の腕は認めてくれているようでした。
新しい料理長は…
そんなある日、理解ある料理長が病気で入院することに。高齢だったこともあり、これを機に引退することが決まりました。
そこで新しく料理長に就任したのは、料理長の息子であるA男。もともと、真面目に料理をしている姿を見せたことがないA男は、料理長になった瞬間、仕事をしょっちゅうサボるようになりました。
厨房ではスマホを触ることが多く、まともに仕事をしている様子はありません。母親である女将が来るときだけ、うまくやっているフリをしているのです。
見兼ねた私がそれとなく注意を促しても、「料理長に向かって見習いが偉そうに!」などと暴言の嵐。私以外の従業員もA男にはあきれ返り、ついに女将に相談しようと話し合ったのですが……。
天ぷらを作ったのは誰?
そんなある日、A男の妻でもある若女将が、女将と一緒に天ぷらの入った竹かごを持って厨房へと来ました。そして「この天ぷらを作ったのは、どなたですか?」と焦った様子。
どうしたのかと思っていると……。なんと天ぷらを揚げる温度が低かったのか、べチャッとしていたそう。
その言葉を聞き、厨房にいた料理人たちはA男に視線を送りました。そう、何を隠そう天ぷらを揚げていたのは彼なのです。
この日は開店時から忙しく、女将がしょっちゅう厨房に出入りしていたのでA男もサボるにサボれず。副料理長がA男に天ぷら作りをお願いしていたのです。
女将は料理人たちの視線がA男に向いていたため事態を察し、息子に謝罪に行くように厳命。しかし次の瞬間、A男は私を見てとんでもないことを口走ったのです。
犯人は私!?
「天ぷらを作っていたのは俺じゃない。あの見習いのオバサンだ」
しかし、当然ながらその言葉は矛盾だらけ。見習いの私がお客様に提供する料理を作るはずがないのですから。にもかかわらず、私がやったと言い続けるA男に、周囲もあきれるばかり。
A男は一向に自分のミスを認めません。このままでは料理の提供が止まってしまい、またクレームが入ってしまうと危惧した私は、ひとまず自分が謝罪に行くことで場を収めることにしました。
幸い、お客様は理解ある方で、事態は大きくならずに済みました。しかし、A男の態度には我慢の限界です。女将にこれまでのことをすべて話すと、なんと私に頭を下げてくれたのです。
翌日、仕事に向かった私を見たA男は、「お前はクビ!あんたのせいでクレームが入った」とまだ難癖をつけてきました。
どう反論しようかと私が考えあぐねていたとき……。厨房に女将が登場しました。
実は事故に遭う前まで…
私とA男を見た女将は、唐突に、「それぞれ料理を作りなさい」と言いました。そしてそれを従業員で味見すると言い、私たちの様子をじっと見ていました。
女将の考えが理解できなかったものの、言われた通りに料理を作った私。昔働いていたころの知識や技術と、コツコツこの料亭で訓練してきた経験を総動員しました。そこへ出勤してきた従業員たちが、女将に言われて私たちの料理を味見することに。
すると、副料理長をはじめ、従業員も私の料理を大絶賛してくれたのです。それだけではありません、あの厳しい女将も、A男の妻の若女将も、「見習いだなんてウソですよね。どう考えても、あなたには料理の経験がある」とうなずいてくれました。
一方、A男の料理のほうは……。真面目に鍛錬してこなかったせいで、見た目も味もボロボロ。彼は「俺が料理長だ!」と主張しましたが、女将は冷静にひと言。「サボりぐせやミスの押し付けをする人を置いてはおけない。息子だからと甘やかしてきた私の責任です。あんたはゼロから修行しなさい」
その後……。副料理長が料理長に昇給し、私はなんと副料理長に就任。女将・若女将・同僚とともに、お客様をもてなす日々を過ごすことになりました。A男は、知り合いの農家で今は食材作りから学びつつ人生修行をしているそうです。
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A男のようにミスを人に押し付けて責任逃れをしていると、たくさんの人から信頼を失ってしまいます。お客様のため、他人のミスなのに謝りに行った姿には頭が上がりません。料理の腕も認められてよかったですね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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