ある日突然、無職になりました。夫が勤めていた会社が倒産し、私たちの生活は一変したのです。夫は再就職先がなかなか見つからず、次第にやる気を失い、家で過ごすことが多くなりました。
家計を支えるため、私はパートを始めましたが、私ひとりでは家計を支えきれず、心配した義父母は毎月仕送りをしてくれるようになりました。私は義父母に対して、申し訳なさと感謝の気持ちでいっぱいでした。しかし夫は……。
怠惰な夫から横暴な夫に…
まったく何も感じていないようで、自分が働かなくとも、なんとかなっている今の生活に甘え、就職先を探すそぶりすらしなくなったのです。
そんな夫の姿に失望し、私が離婚も考えるようになったころ、見かねた義父母は知り合いの社長さんに頼み込み、夫の再就職先を世話してくれました。夫の再就職先は安定した企業で、給料も以前より良くなり、私も義父母もひと安心。おかげで私もガッツリ詰め込んでいたパートのシフトを緩めることができて、再び娘のお世話を最優先にできるようになりました。
しかし、安心できていたのは、ほんのわずかの間だけでした。再就職した夫の様子が徐々におかしくなってきたのです。平日は残業を理由に帰りが遅く、週末は「職場の付き合いだ」と言って朝早くから出かけてしまいます。
もともと夫は家事にも育児にも非協力的でしたが、家にいないことはありませんでした。娘のピアノの送迎などは前からすべて私がしており、夫が不在でも家のことに支障はないのですが、何だか引っかかります。
ある週末、義母から「息子と連絡が取れない」と私に電話がありました。その日も夫は朝から外出していて家にいません。私が夫に連絡し、義母が心配していると伝えたものの、結局その日、夫が義母に連絡することはなかったようです。
後でわかったことですが、夫は義母からの頻繁な連絡がわずらわしく、着信拒否にしていたのでした。お金や仕事のことを心配していた義父母からのお説教が嫌で、夫は義母の番号だけでなく、義父の番号も義実家の番号も着信拒否にしていたのです。
無職のときには仕送りをしてくれて、再就職の世話までしてくれた義父母に対して、よくもそんな態度を……。私が指摘すると、夫はムッとして怒り出しました。そして夫は、「少し働いたからって俺を見下すな。子どもの世話を理由に家事をサボるな。俺の両親に気に入られようといい顔するな」と私への不満をぶつけてきたのです。
突然、離婚を切り出された私
それから夫は、私や義父母を見下すような、偉そうな口ぶりに変わっていったのです。態度はどんどん横暴になっていき、家にもほとんど帰ってこなくなりました。
そしてある日、ついに夫は「離婚してくれ」と切り出してきたのです。私と離婚して、再婚したい相手がいると言います。しかも、その新しい相手というのは、娘が習っているピアノの先生。夫の顔を知っていた先生が、街で偶然夫を見かけ、声をかけたことをきっかけに仲を深めたそうです。
夫は娘の送迎をしないので、先生の顔を知りませんでしたが、娘が先生に夫の写真を見せたことがあり、先生は夫のことを知っていたのです。
夫はペラペラと自分たちの馴れ初めを話し出し、娘の親権も私に譲るから離婚してほしいと言ってきました。突然、夫から不倫を告白され、正直驚きましたが、このときすでに夫には愛想を尽かしていたのでショックではありませんでした。同時に夫が辿ることになる未来も想像がついたので、私は離婚に応じることにしました。
実は、娘のピアノの先生は、保護者の間では男性関係の派手な噂が絶えないことで、有名な人物だったのです。生活圏が同じなので、いろいろと耳に入ってくるのです。先生は近所ではちょっとした有名人でした。もちろん育児に無関心な夫は、そんな噂を知る由もありません。何も知らずに夢中になっているなんて、かわいそうに……。
余計なことは言いませんでしたが「私は離婚してもいいけど、あなたは大丈夫?」と皮肉を込めて、私は夫を心配する言葉をかけました。すると夫から「負け惜しみか? 慰謝料も養育費も払ってやるから俺の前からさっさと消えろ」と言われたので、私は娘を連れて、お望み通りすぐに家を出ていきました。
想像通り、夫の人生は苦しい結果に
後日、弁護士を通して話し合い、慰謝料と養育費の支払いも約束してもらい、お互いに合意のもと離婚が成立しました。私は実家に戻り、娘との新生活をスタート。娘は転校することになってしまいましたが、新しいピアノ教室にも通い出し、新しい環境にもすぐに慣れてくれました。
そんな平穏な生活を送っていると、元夫から「生活が苦しいんだ。戻ってきてくれないか?」と情けない声で電話がかかってきました。話を聞くと、例の先生のために散財し、借金まで作った挙げ句、義父母の口利きで雇ってもらった会社も、自分には合わないという身勝手な理由で離婚後すぐに自ら退職していたのです。結局、先生には再婚もしてもらえず、元夫の金払いが悪くなったことで、先生には捨てられてしまったのだとか。
私との離婚に加え、勝手に仕事を辞めたことで義父母からも見限られてしまった元夫は「もうお前しか頼れないんだ」と言います。しかし、もう私には元夫への情ですら1ミリも残っていませんでした。きっぱり断り、連絡を絶ちました。離婚時に弁護士を通して取り決めたおかげで、養育費だけは滞りなく振り込まれていますが、今では元夫がどこでどんな生活をしているかわかりません。
一方、私と娘は今でも元義父母と仲良くさせてもらっています。何かと私たちを気遣ってくれるので、本当に助かっています。これからも娘と両親と、たまに元義父母と幸せに過ごしていきたいと思います。
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苦しいときに支えてくれた家族への感謝を忘れ、自分本位に走った先に待っていたのは孤独な未来でしたね。人の信頼を裏切る行為は、巡り巡って自分自身に返ってくるということなのでしょう。目先の欲望に惑わされず、本当に大切なものを見失わないようにしたいものですね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。