「ねぇ、また彼女と出かけてたんだね」という私の言葉に、ぎくりと肩を震わせ、「なんで知ってるんだよ!?」と言った夫。
彼女とは夫の幼なじみの女性のこと。夫は私との記念日のディナーをドタキャンし、彼女のもとに行っていたのです。彼女のSNSの「親子3人で仲良くごはん」と書かれた投稿には、まるで父親かのように夫が移り込んでいました。幼なじみの彼女にも夫がいるはずなのに……。
夫の身勝手な言い分
「この投稿見て、いい気はしないよね。彼女にも旦那さんがいるのに……周りから見たらどっちが本当の夫婦に見えるかな?」と言うと、夫はあからさまに不機嫌な顔をしました。
「またその話かよ……あいつとは昔っから付き合いがあるし、家族同然なんだよ。変な勘繰りはやめてくれよ」
数カ月ほど前から、夫は私との予定よりも幼なじみを優先するようになっていました。「やめてほしい」といくら頼んでも、「お前は心が狭い。あいつみたいに気の利く女だったらよかったのに」と言われる始末。彼の言葉に呆然とし、急速に私の心は冷えていったのです。
問い詰めたところで、また嘘でごまかされるだけ。私はそろそろ違う方法でのアプローチが必要だと感じていました。なんとかして、やさしさをはき違えた夫に己の間違いを認めさせないと……。
1人であれこれ考えていると、例の幼なじみの女性から連絡が来ました。
「ねぇ、彼から聞いたけど……まさか私たちのこと疑ってるの? うちの息子が彼に会いたいってうるさいだけなのに~」
まるでこの状況を楽しんでいるかのようでした。
「適切な距離感をとってくれたら、私も疑ったりしませんけどね」と皮肉っぽく返すと、「わぁ、こわ~い!」と大げさなリアクション……。
そして、私を煽るように「彼には、もっと心が通じ合う人の方が似合ってたんじゃないかなぁ? この前もね、『家庭が冷えてる感じがしてつらい』ってボソッと言ってたし……」と言ってきたのです。夫婦仲が冷え切っていることも、彼女には筒抜けなのでしょう。
「浮気の証拠もないのに疑うなんて、彼がかわいそう。まぁ、私があなたの立場なら、とっくにキレてると思うけどね!」と彼女。その言葉は、私が何もできないと完全に高をくくっていないと出てこないものでした。
「……わかりました。もうこれ以上は何も言いません」
その宣言通り、その日から私は2人を問い詰めるのをやめました。夫も幼なじみも、私が大人しく引き下がったと思ったようでした。
2人が自ら招いた窮地
数カ月後――。
リビングでのんびりしていた夫に、「ねぇ、ちょっと話があるんだけど」と話しかけた私。「まさか、またあいつのことか?」とあきれた様子の夫に、私は静かにほほ笑みました。
「ううん、彼女のことじゃないの。でも、ずっとしつこくて嫌だったよね。本当の浮気相手は彼女じゃないのに……私ったら疑い続けちゃって」
夫の顔からさっと血の気が引いていくのが見えました。
「正面から私が問い詰めたところで、うざがられるだけだから……だから、こっそり浮気を調べてたの。そしたらあなたが女性と浮気してる証拠が手に入ったの。相手の女性の素性は分からないけど、ホテルの出入り記録も、腕を組んで歩いている写真もゲットしちゃった」「これだけ揃えば、十分じゃない?」
「……相手のこと、本当に何もつかめてないのか?」と焦った様子で訪ねてきた夫。
「うん。もうこれ以上調べるのは大変だから……できれば、あなたの口から正直に言ってくれないかな?」
そう言うと、夫は黙り込んでしまいました。
「……言えないのね。だったら、もう離婚しようか。家族同然の幼なじみもいるし、浮気相手もいるし……。もう私が必要ないことはよく分かったもの。ここは私が大人しく身を引くから……。一度、お相手に会わせてくれないかな? これからもあなたのこと支えてあげてほしいし、ひと言あいさつさせてほしいの」
すると、夫は私の言葉に安堵した様子で言いました。
「そんなにお前が俺のことを想ってくれてたなんて……。わかった! じゃあ、明日ちゃんと会わせるよ」と言ってきたのです。
そして翌日――。
夫が連れてきたのは、案の定幼なじみの女性でした。彼女の顔を確認して、私はすぐさま家を飛び出しました。
すると「いくらショックだったからって、黙って家を飛び出してくとか大人気ないだろ! お前が『会わせて』って言ったから連れてきたのに!」と夫からメッセージが。
「まさか、あいつが浮気相手だったなんて、って感じだろ? 他の女との浮気だと思ってたのに、まさかあいつだとは思わないよな!」と夫。
「お前には悪いが、俺は幼なじみと本気なんだ」
「今まで……ずっとだましてて悪かったな」
「大丈夫、知ってたし!」
「……え?」
幼なじみとの関係を「家族同然」と言い張る夫の嘘を突き破るには、決定的なものが必要だと考えた私。あえて浮気相手は幼なじみではないと誘導すれば、きっと彼は焦って自ら真実を差し出すはずだと思ったのです。
「全部知ってた。あなたが彼女と浮気関係だったことも、証拠はつかんでる」「私の言葉を鵜呑みにして、浮かれて彼女を連れてきたときは正直言って笑いをこらえるのが大変だったよ」「あ! あと10分もすれば、みんな来るからね。2人でお出迎えをよろしくね」
「……み、みんな? みんなって?」と聞いてきた夫。私は明るく「うん、あなたのご両親も、彼女のご両親も。もちろん、私の両親も。そして……彼女の旦那さんもね!」と答えました。
私は別にショックで家を飛び出したわけではありませんでした。私は、外に出てみなさんに電話で連絡をしていたのです。みなさんには、あらかじめ今日の計画は相談済みで、近くで待機してもらっていました。
「これで逃げ道はどこにもないよね。あなたたちの"家族"に、しっかりごあいさつしてね!」と言って、私はやり取りを終えました。
その後――。
2人は両家の両親、そして幼なじみの夫に囲まれ、徹底的に話し合いをすることになりました。特に幼なじみの旦那さんは、妻の裏切りを知って怒り心頭。彼女のご両親も、娘の不貞行為に深く失望し、涙を流していました。私と私の両親は、その様子をただただ無言で見ていました。
その話し合いの場で、私と夫の離婚は決定。慰謝料については、義両親と幼なじみの両親が「こんな金額じゃ足りない!」と言って、相場よりもかなり高額に設定させてもらえました。
後日、元義母から聞いたところによると、幼なじみ夫婦も離婚したそう。親権は旦那さんが取ったようです。そのまま幼なじみは行方知れずとなってしまったのだとか。元夫は必死に彼女の行方を探しているそうです。
幼なじみという存在がいない私にとって、"家族同然"の他人の扱いはよく分かりませんでした。元夫や幼なじみの言動を我慢し続けて、ついには自分を犠牲にすることに慣れてしまっていたのだと思います。
しかし、不貞は不貞。許されないことです。「絶対に許さない」「許すくらいならいったん全部壊してやる」と決めたことで、私自身強くなれたような気がします。 「誰かに甘えるのではなく、自分の人生に自分で責任を取る」。 そんな当たり前のことを、私は彼らから学んだのかもしれません。
2人が今後どうなろうと、もう私には関係ありません。でも、これから先の人生は自分の心や気持ちを第一に、自分を犠牲にしないようにしていきたいと思っています。なんだか、やっとスタートラインに立てたような気分です。
【取材時期:2025年5月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。