30年放置されていた義母の部屋に風が吹いた
義両親は80代で、義母は60歳までずっと外で働いてきた人です。好きなものはちゅうちょなく手に入れてきたことがひとつの自慢でもありました。趣味で集めた和服の数々、高級な客用布団、贈答品の食器類、仕事や旅行、宴会で着た数々のスーツなど。さまざまな品物が、義母占有の2部屋に集められていました。時折、「あれは私が長く務めた記念にと思って買ったのよ」などと、よく得意げに話していました。
しかし、仕事からの引退や年齢による体の変化に伴って、いつしかそこは生活スペースではなく物置状態に。何しろ2階だったので、階段の上り下りが負担になっていった様子でした。そこは30年来、嫁の私には手の出せない領域。私は何度となく「少し整理できたら……」と思いましたが、義母の空間に踏み込む勇気は出ず、そのままになっていました。
転機となったのは、娘夫婦からの同居の申し出でした。「使っていない2階、そこに住んで赤ちゃんを育ててもいい?」と言われたとき、私は心の中でえっ? どうしたらいいの? と思いました。一方で、娘が同居を望んでいることを知った子ども好きの義母は目を見開き、「そうなの?あらあら、にぎやかになるねえ!」と一見喜んでいる様子でした。
しかしその数日後、義母はぽつり。「全部……片付けなきゃいけないのよねえ」。ため息と一緒にもれたその言葉には、不安がにじんでいました。
思いと現実、すれ違う世代の感覚
娘夫婦の部屋を作るため、義母はじわじわと荷物に手をつけ始めました。古いアルバム、記念の湯飲み、旅行土産、かっちりとしたスタイルの洋服……。特に存在感を放っていたのが、義母が40代で購入したというじゅうたんと応接セットでした。義母専用の部屋に悠然と置かれたままでした。
そして、帰省中の娘と一緒に部屋の整理をしていたとき。「このじゅうたん、いくらしたと思う? 120万円よ。良い品物なんで! あんたたちが小さいころ、よくこの上に座って遊んでたわ」と義母が感慨深げに話すと、娘が即答、「えー、そうなん? 覚えてないなあ。でも、20年以上も使ってないってことは、これってもはや、いらないってことじゃないの?」
私は内心、どきっとしました。「いらない」というハッキリとした意見に驚いたのです。義母も言葉に詰まったようで、すぐに表情を堅くして、「高級品なんだよ?このじゅうたんもソファも。せっかくだからあんたたち、使ってよ!」と、孫娘に使ってもらいたいという意見を伝えましたが、「高級品? でも、もうずっとここにあったってことでしょ? そういうの、衛生的に考えて赤ちゃんに使わせたくないし、柄も好みじゃないし。私たちは……いらないかな!」と娘。義母は、明らかにぎょっとした顔をしていました。
「捨てるもの」と「今は残すもの」
孫娘と話して以来、義母はじゅうたんの話をしなくなりました。孫娘を迎えたい、でも、自分の物を否定されたくないという義母の思いはわかりました。
一方で、私は新しい生活を始めようとする娘の意見にも共感していました。悩んだ挙句、私は今後の円満な同居生活を考え、義母が納得して自分で「もういい」と言えるまでは、このじゅうたんの処分は見合わせようと判断しました。「このじゅうたんは、保管場所だけ変えましょうね」と私が言うと、義母は少しほっとした表情で、「そうね……。皆いらないらしいけど、私には運べない重さだし。あなたにお願いするわ」
私は家中の収納を探し、じゅうたんを含め義母の荷物を移動させていきました。今、義母の目の前で思い入れのあるモノたちを処分しなくてもいい、機会はまたあると考えたのです。納戸も、押し入れも、どこも義母の品物でいっぱいに。正直、暮らしにくさは増しましたが、ギリギリ収まりました。
「えー? この機会に捨ててしまえばいいのに」と言う娘に、「おばあちゃんにはおばあちゃんの歴史があるのよ」と伝えています。
まとめ
片付けとは、物を処分するだけではなく、暮らしを作っていく作業だと感じます。今回は3世代(将来的には4世代)同居に向けて、義母の気持ちをくみ取りつつ、娘の暮らしを整えるため、今、できることを考えました。処分を急がないことで、義母の気持ちは若干救われたようです。捨てるものは捨て、残すものは義母の取り出しやすい手近な収納に収めた結果、「意外と便利になったわ」と喜ばれている面もありました。それに、「瓢箪(ひょうたん)から駒」と言いますか、今回、収納場所を確保するためではありましたが、気になっていた私自身の持ち物も思いの他整理することができて、良い機会だったなと思っています。
※記事の内容は公開当時の情報であり、現在と異なる場合があります。記事の内容は個人の感想です。
著者:森原あさみ/50代女性。平日はお勤め、週末は農業。夫、子ども、義父母と暮らしている。多忙でも趣味やスポーツの時間はなるべくキープ。育児、介護、町の行く末までいろいろ気になる。
イラスト/おみき
※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2025年9月)
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