それ以来、夫はことあるごとに私に対して文句を言うようになりました。夕飯が少し遅くなっただけで「気遣いが足りない」と怒り、洗濯物の干し方にケチをつけて「俺のことを雑に扱ってる」と指摘し、帰りが遅い理由を聞かれると「疑うなんて最低だ」と逆ギレ……。
幼稚な言動ばかりで、あきれ果ててしまいました。
私が浮気!?
そんな矢先、事件が起こりました。夫が仕事から帰ってくるなり、私を怒鳴りつけたのです。「お前、もしかして俺のこと裏切った? 息子は本当に俺の子なのか?」
突然どうしたのかと理由を聞くと、息子の高身長を同僚に指摘されたことをきっかけに、急に気になり始めたのだそう。小柄な私たち夫婦の息子がこんなにも背が高いなんておかしいと言い張り「私が不倫してできた子に違いない」と責めるのです。
たしかに私も夫も小柄なのに、高校生になる息子は180cmを超える長身。そうはいっても、私の祖父は身長が190cm近くあったので、遺伝で説明がつく話です。何より私は不倫なんてしていません。
私が反論しても夫は聞く耳を持たず「ずっと裏切られていたのかと思うと耐えられない。離婚だって考えている」と怒鳴り散らします。
息子が見たものは…
「そんなこと言うなんて信じられない」そう静かに返すと、2階から息子が降りてきました。夫が大きな声で私を責めていたので、聞こえてしまったのでしょう。
「慰謝料を払うのは、父さんのほうだよ」息子の静かなひと言に、夫は明らかに動揺し「……は? 何を言ってるんだ、お前」と言います。
息子はゆっくり立ち上がり、自分のスマホを夫の前に差し出しました。
画面には、夫が見知らぬ女性と親しげに歩く姿が映っていました。腕を組んで歩く写真、カフェで談笑する動画、そして2人でホテル街へ向かう後ろ姿など、言い訳するのが難しい状況であることは誰の目にも明らかでした。
「ど、どうして……お前、こんなもの……」夫の声が震えました。
自分を正当化するために…
「父さん、ここ最近ずっと様子がおかしかったよ。仕事だって言って出掛けていくのに仕事用のバッグじゃなかったり、帰ってきたときに香水のにおいがしたり……持ち物の趣味だって変わったよね」息子は淡々と話し始めました。
自分の浮気がバレたときのために、私にあれこれと文句をつけているのでは? と息子は指摘します。「もし浮気がバレたら、母さんのせいにするつもりだったんじゃない? 『家の居心地が悪いから』とか言ってさ。今回の俺の身長のこともそう。母さんが先に浮気した、ってことにしたかったんでしょ?」
痛いところをつかれたのか、夫はバツの悪そうな表情を浮かべ視線をそらしました。その様子を見て、息子はさらに静かに言葉を続けました。
「母さん、ずっと無理してたよ。忙しくても不満を言わずに、家の雰囲気が悪くならないよう気を使ってた。でも父さんは、そのやさしさにつけ込んで自分を正当化しようとしてたんだよね」
夫は深く息を吐き、肩を落としました。「俺が悪かった……。仕事でストレスがあって、つい気が緩んだんだよ」
夫は「本気じゃない。ただ気持ちが揺らいだだけなんだ」と必死に弁解しました。しかし夫を許すことはできません。借金をしたのも、浮気のためでしょう。
この日を境に、私は夫と話し合いの場を設け、離婚と今後の生活について正式に手続きを進める決意を固めました。
離婚の決め手
離婚の話し合いはすぐには進みませんでした。夫は「本気じゃなかった」「家族を失いたくない」と譲らず、時間だけが過ぎていきました。
そんな中、息子が静かに言ったひと言が決定打になりました。「もう無理だよ。父さんと普通に生活するのは……」その表情を見て、夫もようやく“自分のしたこと”に向き合う姿勢を見せました。
誰よりも我慢していたのは息子だったのだと気付いたのでしょう。時間はかかりましたが、話し合いを重ねた末にようやく離婚が成立しました。
まったく寂しくないと言えば嘘になります。それでも、私には頼もしい息子がいます。息子の成長を支えたいという思いが、私の前を向く力になっています。
◇◇◇
日々生活をする中で、相手に対して不満を抱くことは誰にでもあるでしょう。けれど、どんな理由があっても浮気が正当化されることはありません。傷つくのは、何も悪くない家族です。
すれ違いや不満が生まれたときこそ、感情をぶつけ合うのではなく、丁寧に話し合うことが大切。お互いの気持ちを共有できる関係であれば、今回のような深い溝が生まれる前に気づけたのかもしれませんね。
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。