「抱っこ」は、ごく自然な行動です
親が赤ちゃんの欲求に応じて触れ合うことは、赤ちゃんの体の発育、知能や精神的な発達、心の安定、人格の形成に大きな影響を及ぼすことが、多くの研究によって明らかになっています。親やお世話をしてくれる人との触れ合いが少ないと、赤ちゃんの情緒面に影響するという研究もあるので親子の触れ合いを大切にしていきましょう。
赤ちゃんの欲求に応じて触れ合うには「抱っこ」が基本です。遥か昔から、安全のために母親が赤ちゃんを抱っこしてきました。赤ちゃんの脳には親に抱っこされたいという欲求があり、母親は赤ちゃんの泣き声に反応するように進化してきました。人間の暮らす環境は変化していますが、抱っこすることは人間の本能的行動です。
抱っこは自然なおこないですが、親には負担になることもあります。生まれて間もないころや赤ちゃんが自分で動き回れるようになるまでは、泣き止ませるために抱っこ以外の方法を親が見つけ出すのに苦労することもあります。赤ちゃんの成長と共に、話しかけたり、絵本を読み聞かせたり、おもちゃで遊ぶなど抱っこ以外の方法で泣き止むように成長していきます。
赤ちゃんの欲求に応じるには、親やお世話をする人の心身に余裕が必要です。母親だけが悩んだり、家族の誰かひとりに無理強いするものでもありません。抱っこひも・スリング・ベビーラップなどを活用する、おすわりできるようになったら抱っこからおんぶへ切り替えるなど赤ちゃんの成長に合わせて方法を変えてみるのも良いでしょう。
抱き癖って何?
妊娠・出産・子育てをテーマにした書籍や雑誌、Webサイトには、抱き癖に関する情報が数多くあります。「抱き癖がつくのはいつから?」「抱き癖を治す方法は?」という見出しがあふれ、日常的に抱っこすることが悪いことのように印象を与える情報が目につきやすいでしょう。しかしながら、「抱き癖」には医学的根拠はなく、言葉自体も医学用語ではありません。
抱き癖という言葉は、1946年にアメリカで出版された「スポックマン博士の育児書」に書いてある理論をもとに使われるようになった時代的背景があります。この育児書では、子どもの自立を促すために泣いても抱っこせずに泣かせたほうがいいとする理論を推奨していました。世界的なベストセラーになりましたが、この育児書にある多くの理論に医学的根拠はなく、子どもの成長発達にとって有害であることが近年の研究でわかっています。
この育児書が和訳され、日本国内で出版された1960年代以降、子どもの自立を促すための育児論が正しい育児方法かつ一般的な育児方法として、子育て世代へ広がりました。そのため、当時の子育て世代から現代の子育て世代へ、抱き癖は悪いものという認識が引き継がれているところがあります。抱っこに奮闘する子育て中の親に対して、祖父母世代から「抱き癖がついたら大変だよ」と言われることもあるかもしれませんが、やさしいおせっかいとして受け取って聞き流しましょう。
抱き癖とサイレントベビーは関係ある?
時代は移り変わり、1990年代に入ってから、親子の触れ合いや絆は大切で抱き癖は悪いものではないと認識されるようになりましたが、今度は「赤ちゃんが泣いているのに応じないとサイレントベビーになる」という育児論が国内で浸透し始めました。
しかしながら「サイレントべビー」も抱き癖と同様に医学用語ではなく、医学的根拠のない育児論のなかで作られた言葉です。抱き癖やサイレントベビーの責任が母親だけに押し付けられる理論も間違っています。抱き癖が子どもの自立が妨げるわけではありませんし、サイレントベビーになることを防ぐために抱き癖をつける必要があるわけでもありません。
赤ちゃんの抱っこや泣きについて悩んだときは?
抱っこしないと泣き止まなくて困っている、泣き止まないことが病気ではないかと感じる、あまり泣いたり笑ったりしないから心配など赤ちゃんの抱っこや泣きについて思い悩むときは、小児科、居住地の保健所や保健センターの保健師や助産師、子ども家庭支援センターなどの相談窓口へ相談しましょう。
まとめ
過去の育児論や医学的根拠のない育児方法を持ち出して、子育ての不安を煽る情報に振り回されないように気をつけましょう。抱っこや赤ちゃんの泣きに関する困りごとや悩みごとは、小児科、居住地の保健所や保健センターの保健師や助産師、子ども家庭支援センターなどの相談窓口へ相談しましょう。