社会で女性が活躍する一方、働く女性を支える社会インフラはまだまだ整っていないのが実状で、経済産業省が2024年2月に発表した「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」によれば、生理、更年期症状、婦人科がんなど女性特有の健康課題や不妊治療を理由とした労働生産性損失額と、これに伴う諸費用を合わせた経済損失は、年間3.4兆円に上ると試算されています。
そんな現状を見据え、本シンポジウムでは、産婦人科専門医、経営者、行政それぞれの立場から、女性が生き生きと活躍できるための具体的な取り組みや解決策を提言。さまざまな意見が交わされました。
東京都の卵子凍結の助成に2000人以上が申請
二部構成でおこなわれた本シンポジウム。第一部は、医療統計データサービスを手掛ける事業会社JMDCが蓄積した医療ビッグデータの分析発表を皮切りに、不妊治療がとり巻く環境について基調講演がおこなわれました。
講演1 「医療ビッグデータから見る女性の健康課題と不妊治療」
JMDC・野本有香氏
2022年4月から不妊治療の保険適用範囲が拡大されました。JMDCが分析した拡大直後3カ月の新規患者数はぐんと増えているものの、それ以降は少しずつ落ち着いているよう。また、初めて乳がんが見つかった際のステージでは、検診歴のない人はステージが進行してから発見される傾向があるが、検診歴ありの人は早い段階で見つかっていることがデータとして可視化され、改めて定期的な婦人科検診の重要性を認識しました。
講演2「日本の不妊治療の課題と企業への両立支援への期待」
山王病院 名誉病院長・堤 治氏
卵子の数には限りがあり、年齢とともに老化していく。“自分の年齢=卵子の年齢”。これを日本では教えてもらう機会がなかなかない、性の教育が不十分だと堤先生は言います。子どもが生まれる仕組み、エイジングに伴う生殖機能の変化、不妊の原因など、正しい知識に基づいた人生設計、プレコンセプションケア(将来の妊娠を考えながら女性やカップルが自分たちの生活や健康に向き合うこと)が必要だと強く説かれました。
講演3「東京都の卵子凍結助成スタートから半年を振り返る」
東京都福祉局・瀬川裕之氏
2023年10月から、卵子凍結に係る費用の助成をスタートさせた東京都。その反響は大きく、令和5年度に104回開催した説明会では1万人に近い方から申し込みがあり、実際に参加された方は7500人以上にのぼると言います。令和6年度も継続して助成をおこなっており、2024年7月18日時点では、卵子凍結をおこない助成金の申請を終えた方は2100人を超えているとのこと。都民からの要望もあり、2024年度は各説明会の定員を175名に拡大。平日に加えて土日も開催するなど、より参加しやすい環境に整えられています。
講演4 「女性のキャリア形成における企業の役割」
パナソニックコネクト取締役執行役員・山口有希子氏
カルチャーやマインドの風土改革をベースに企業改革へ取り組み、マネージャー研修では生理の大変さ、更年期障害の大変さ、妊活の大変さなど女性の健康課題をマネージャー全員に教育。男性役員は生理痛の疑似体験もしたそう。「どんなにいい人材や組織能力があって、どんなにいい戦略を作っても、健全なカルチャーがなければ組織は正しく機能しない。そして、それをトップが体現してなければ、カルチャー改革は絶対に起こらない」と山口さんが語る姿が印象的でした。
あらゆる企業が制度として取り組めるのが重要
第二部はパネルディスカッション。パネリストは、第一部で登壇された堤 治氏と山口有希子氏に加え、明治大学教授・牛尾奈緒美氏、産婦人科医・杉山産婦人科理事長・杉山力一氏、不妊治療の保険適用に向けた動きの中心となった参議院議員・和田政宗氏の5名。
テーマ「女性の活躍と女性特有の健康課題について」
まず、ポーラ・オルビスホールディングスで社外取締役も務める牛尾さんが、ポーラの健康経営の取り組みを紹介。その後のディスカッションで「就労環境を会社が用意するのは重要ですが、形だけ作るのでなく、会社の存在意義は人々や社会、みんなの幸せのためにある、という意識で取り組むように考えるべき。そこをトップが気づき、自覚することで女性の活躍や多様性、社会課題としての少子化解消にも繋がっていく」と提言されました。
そのほか、「不妊治療の現状と解決策について」や、改めて女性がより生き生きと活躍し、自分が望むキャリアと人生を手に入れられるよう、今から何ができるのかという「今日から始める健康戦略」についての熱い意見が交わされました。最後には、和田議員から「大企業も中小企業も、あらゆる企業が制度として取り組める環境を、国として作っていきたい」と、強く語りました。
厚生労働省が公表している人口動態調査によると、2023年の出生数は約72万人。それが、2024年8月30日に公開された2024年上半期(1月~6月)の人口動態調査の速報値によると、出生数は約35万人で、年間で70万人を切るのではないかと話題にもなっています。
女性が安心して子どもを産み育て、キャリア形成ができるようにするためには、企業も国も、男性女性問わず、みんながこれまでの意識を大きく変えることが必要だと感じました。その一歩として、まずは自分の体を労り、自分の体について正しい知識を得るところから始めようと思います。
文/小澤淳子
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