「夫婦そろって寂しく服を売りさばく生活するしかないなんてかわいそう」と言う妹に、「義理とはいえ俺の姉夫婦なんですから、貧乏フリマで生計を立てているなんて……周りにバレたら、俺の評判までガタ落ちになるから、二度と参加しないでください」と言う義弟。
しかし、私たちはフリーマーケットで生計を立てているわけではありません。それを説明しても鼻で笑うような2人に私もほとほと呆れていたのですが……。
高級タワマンに住む姉
「フリーマーケットに二度と参加しないと約束するなら、何かおごりますよ?」「俺たち行きつけの、豪華な回らない寿司屋とか……あ、でも貧乏フリマで買ったボロボロドレスとかで来るのはやめてくださいね?」とまで言ってきた義弟に、カチンときた私。
「私だってちゃんとしたドレスくらい持ってるわよ、どこまで私を馬鹿にしたら気が済むのかしら?」「フリマはただの趣味で、私も夫もちゃんと働いているし、生活に困ったことはないわ」「広い高級タワマンでのんびり楽しく暮らしているの」
そう一気に言うと、義弟は「高級タワマンで暮らしているんですか!?」と驚いていました。「眺めの良い部屋に住むのが昔からの夢だったのよ」と言うと、「し、信じられない……貧乏人のくせに、俺たちより良い家に住んでるなんて……」と義弟。
最終的に、義弟は「どうせただの見栄っ張りでしょ?」と、私が嘘をついていると決めつけてきました。話の通じない義弟に、私は「マンションの住所も教えないし、どんな部屋に住んでいるのかも教えるつもりはない」「お願いだからこれ以上私たちの生活に口を出さないでちょうだい」と言って、電話を切りました。
謎の対抗意識
2週間後――。
「聞いたわよ、お姉ちゃん!」といつものように、いきなり連絡をしてきた妹。
「貧乏夫婦のくせに、いつの間に高級タワマンに引っ越していたのよ!」「私たちもそろそろ高級タワマンに引っ越そうって話をしていたのに、まさかお姉ちゃんに先を越されるなんて……すごく悔しいし、恥ずかしいわ!」
さらに、妹は「貧乏で惨めなお姉ちゃんに負けてるみたいでむかつくから、私たちも急いで家を買ってやったもんね!」と言ったのです。そんな理由で家を買うなんて……。
「お姉ちゃんに負けているよりはずっとマシ!」「駅前に新しいタワマンができたでしょう?その部屋を1億円で買ってやったの!」と妹。さらに妹は、聞いてもいないのにどのタワマンのどんな部屋を買ったのかまで事細かく教えてくれました。
「エリート旦那は私の希望をなんでも聞いてくれるの♡」
「駅前の1億円のマンションだって、即決で買ってくれたのよ♡」
「それはおかしいわね。だって…」
「え?」
妹夫婦が買ったというマンション。そこには私も住んでいるのです。そこのオーナーさんはこのマンションがたいそうお気に入りで、「1室も譲るつもりはない」と言っていたため、全室賃貸のはず。そのオーナーさんとたまにお茶をする私が、本人から直接聞いたので、間違いはないでしょう。
「で、でも夫は購入したって言ってたもん!賃貸だって言ってなかったもん!」と言う妹に、「もしかしたら見栄で嘘をついたのかしら?」と言うと、逆ギレ。
「お姉ちゃんのほうが嘘をついているんでしょ!」「旦那さんもお姉ちゃんも聞いたこともない地味な会社に勤めて、ここに住めるわけないわ!」
私はため息をつきました。妹が「勝ち組になる」と息巻いて婚活している間もコツコツと私は努力を続け、年収は2,000万円ほどに。夫がもともと倹約家だったこともあり、生活水準を上げずに暮らしていたら、新築タワマンを借りられるくらいの貯金ができたのです。
そのことを伝えると、妹はしばらく絶句していました。「お姉ちゃんの職場は一流でもなんでもないじゃない……」「貧乏フリマに参加していたくせに……」と言う妹に、再び私はため息をつきました。
このタワマンの住民としての地域交流も兼ねて、私はフリマに出店していたのです。同じタワマンの住民も参加していて、商品として出されている服や食器はいいモノばかり。掘り出し物だらけのフリマなのです。
「そんな……ただの貧乏ったらしいフリマだと思ってたのに……」と言う妹。「とりあえず、本当にこのタワマンの1室を買ったのか確認したら?」「私はオーナーに確認しておくから、あなたは自分の夫に確認なさい」と言うと、妹は慌てたようにやり取りを終えたのでした。
義弟の秘密と妹夫婦の末路
2時間後――。
さっきの妹の話を受けて、オーナーさんのもとを訪ねていた私。電話が鳴ったので断りを入れて出ると、「ほ、本当にお義姉さんもあのマンションに住んでいるんですか!?」と慌てた様子の義弟の声が。
「ちょうどオーナーさんに、直接あなたたちのことを話そうとしていたところよ」と言うと、「今までの言動はすべて謝ります!オーナー様にもすみませんとお伝えください!」と義弟。
あっさりと態度を変えた義弟。実際は購入したわけではなく、賃貸契約を結んだだけだったそうです。
「本当に生意気な態度を取っていてすみませんでした」と謝る義弟に、なんだか私は拍子抜け。しかし、続く義弟の言葉に、私は耳を疑いました。
「だからどうか、今月の家賃支払いを待ってもらえるように、オーナーさんに頼んでくれませんか?」「ここだけの話にしてほしいんですけど、俺、実は会社をクビになったんです」「だから今月から無職で、家賃支払いがマジで難しいんです!」とのこと。
高年収で一流企業勤めを鼻にかけていた義弟。会社で「フリマなんて貧乏人のすることで、気持ち悪い」などと、フリマのことを馬鹿にする発言を繰り返していたそうです。その発言をたまたま通りかかった社長夫人が聞いて激怒。社長夫人は定期的に復興支援のためのチャリティーフリマを主催している人だったのだそう。
社長夫人を激怒させたことで、社長や部長からも睨まれるようになった義弟。焦って強引に無茶な契約を取り、それがトラブルになって、クビになったとのことでした。
「俺も妻も買い物や外食が大好きで、ろくに貯金もしていないんです」「どんなにお金を使っても、働いて稼げばいいと思っていたので……でもまさかクビになるなんて思っていなくて……」「高級車もローンで購入したばかりで……」「どうか支払いを待ってくれるようお義姉さんからもお願いしてください!」
私は通話口を手でふさぎ、オーナーさんに事情を簡単に説明して、家賃を待つことは可能か聞いてみました。しかし、オーナーさんの答えはNOでした。そして、滞納すると延滞損害金が発生し、3カ月滞納すると契約を解除するとのこと。義弟に伝えると「そんな……!」と悲痛な声を上げました。
翌日――。
義弟からすべての事情を聞いたらしい妹から、「お願い、お姉ちゃん!たった一人の妹が困っているんだから助けて!」という連絡が。
「家賃が払えない私たちが悪いわけだし、この部屋からは出て行くつもり」「でも私たち、お金もないし行くあてもないの」「だから、私たちをお姉ちゃんの部屋に泊めてください!」
さすがの私も、ここで見捨てるのは寝覚めが悪いと思っていました。そこで、ある話を持ち掛けてみることに。
「今度のフリマの出店参加券を譲ってあげるわ」「お金に困っているなら、今までの贅沢暮らしで買ったブランド品とかを売るのはどう?」
その後――。
「そんな惨めなこと、できない!」と言って、フリマの参加券を受け取らなかった妹。結局家賃は用意できず、すぐにタワマンから退去することになりました。
なけなしのお金で近所のアパートへ引っ越した妹夫婦。義弟は必死に次の仕事を探し、妹に「頼むから生活費のために持っている服やバッグを売ってくれ」「仕事が決まったらまた買ってやるから」と言っているらしいのですが、妹は「全部私のものなの!」と言って譲らないそう。
出店参加券が無駄になるのももったいないので、私は夫と再びフリマに参加することに。今回の売れ行きはかなり好調で、まとまったお金が手に入りました。今まで倹約に努めていたので、自分たちへのご褒美として、このお金で夫と海外旅行へ行こうと思っています。
【取材時期:2024年8月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。