「こんなオバサン、ママなんかじゃない!」
娘は、初対面で私にそう言い放ち、そのまま部屋に閉じこもってしまいました。夫もこの状況には苦笑い。そのうち心を開いてくれるはずだから、焦らずゆっくり関係を築いていこうと夫婦で話しました。
その後、私なりに歩み寄ってみたものの、残念ながら私の気持ちが届くことはありませんでした。それどころか、夫も娘に便乗して心無い言葉をかけてくるようになったのです。
両親の反対を押し切って結婚したことが足かせとなっていて、離婚を選択する勇気はありませんでした。
娘が結婚!母としてできる限りのことを…
味方がひとりもいない中、家事と仕事をこなす日々。大変でしたが、仕事では頑張った分だけ評価をしてもらえたのが、せめてもの救い。そして、その仕事の合間に行くカフェで過ごす時間も癒しになっていました。
足繁く通ううちにマスターとも話をする関係になり、ときどき手伝っている息子さんとも話すようになりました。息子さんは娘と同世代ということもあって、娘が何を考えているかわからないときは、相談に乗ってもらうこともありました。
そんなある日、娘から「私、結婚することにした!」と報告が。なんとなく彼氏がいることには気付いていましたが、お相手とは1年くらいお付き合いをして、向こうのご両親とは一緒に食事をするくらい仲良しなのだとか。
「じゃあ、いろいろ準備もあるし、忙しくなるわね!」結婚となれば、母としてできるだけのことはやってあげたいと思った私は、張り切ってそう言いました。
「別にオバサンが頑張る必要はないから。私にはママがいないって彼に言ったら、彼のママが準備を手伝ってくれることになったの」
娘はそう言った後、顔合わせにも来なくていいからと言い放ち、部屋に戻っていきました。
仕事から帰ってきた夫にも相談しましたが、おめでたい席なのにトラブルを起こすのはやめてほしいから、大人しくしていてくれと。結局、婚約者と会う場をセッティングしてもらえないまま結婚式の日を迎えました。
本当にしあわせになれる…?
結婚式当日。私は娘にお祝いの言葉をかけました。しかし、娘から返ってきたのは「今日は送迎だけにしてよね! 偽物の母親は結婚式に来ないで!」という言葉だけ。
夫も横でニヤニヤ笑っていて、娘の暴言を注意することはありません。式の時間が近づき、言われたとおり2人を結婚式場に送り届けた私は、後ろ姿を見ながら『本当にしあわせになれるのか、見届けさせてもらうわ』と心の中でつぶやいていました。
実は私、少し前に離婚を決心し、今まで何も言えずにいた両親にもすべてを打ち明けました。両親は「もう十分だ。よく頑張った」と褒めてくれて、私は号泣。そして両親とも相談し、最後に一泡吹かせてやろうということになったのです。
送迎を終えた私は、式場の向かいにあるカフェで両親と合流。夫も娘も私に興味がないので知らなかったようですが、式場は私の職場のすぐ近く。このカフェは癒しの時間を過ごしてきた行きつけのカフェなのです。
席に着くなり、鬼のように鳴り続ける私のスマホ。一度切れてはまた鳴り……の繰り返し。私は両親と目を合わせ「そろそろ始めますか!」と言って電話に出ました。電話の向こうでは夫と娘が怒っています。「詳しく知りたいなら、とにかく向かいのカフェに来て」そう言って私が電話を切ると、すぐに2人はやってきました。
真相を知り、怒り狂う夫と娘
「どういうこと!?」娘は怒り狂っていました。それもそのはず。私は式をキャンセルしたことを伝えていなかったのです。1カ月ほど前、夫から懇願されて結婚式の費用を用意することを承諾した私は、仕事の合間に式場へ支払いに行ったのですが、そのときちょうど新郎がサプライズの下見をしているとプランナーさんに言われ、ちょうどいい機会だからと挨拶をすることにしたのです。
婚約者の顔を見て、私は驚きました。だって、それは他ならぬカフェのオーナーの息子。近々結婚するとは聞いていましたが、お相手のお母様は不治の病にかかっていて式には出られないと言っていたので、まさかそれが私のことだったとは……。
もちろん彼も、娘のことを信じていたので、私が母親だと知って驚いていました。そして、話しているうちに次々と娘のウソが明らかに。婚約を解消するには十分すぎるほどでした。
そうして私は、新郎の許可を得て、支払いではなくキャンセルを申し入れたのです。そもそも、他人のお金で式を挙げようということが間違い。私がすべてを話したところで、カフェのオーナーの息子である新郎も登場。彼が娘に婚約破棄を言い渡し、私も夫に離婚届を差し出しました。
その後、私は実家に戻ってのんびり両親と暮らしています。仕事の合間のカフェタイムも変わっておらず、カフェのオーナーとも、その息子とも交流は継続中。親子にはなれませんでしたが、彼のしあわせを陰ながら願っています。
◇ ◇ ◇
血が繋がっていないからといって、育ててもらった恩を仇で返していい理由にはなりません。自分を支えてくれる人に、しっかり感謝できる人でありたいですね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。