折り返しの連絡をすると、さっそく生まれたばかりの息子のことを根掘り葉掘り聞いてきます。写真の1枚も送ってこないなんて気が利かない、本当に母親が務まるのかと、ブーブー言われました。
私が体がつらいので落ち着いたら改めて連絡すると伝えると、そんな弱音なんて自分は吐かなかった、だらしがないと怒られてしまいました。
厳しく私を指導する義母
私が退院して自宅に戻ると、近所に住む義母が毎日わが家にやってきて小言を言われるようになりました。「妊娠までに時間がかかり、跡継ぎが生まれるか不安だった」 「ずっと続いてきた名家が危うく途絶えるところだった。お義母さん(義祖母)にも心配をかけた」などと言われる日々。
義母いわく、義祖母はとても厳しい人で、子育てにはよく口を出してきたそうです。それもあって、姑は嫁を厳しく指導するのが当たり前だと思っている義母。私が失礼なことをしたら、義母が義祖母からひどく叱られると言います。義祖母には私も何度か会ったことがありますが、物腰が柔らかくてすごくやさしい印象。義母の話があまり信じられませんでした。
私を不出来な嫁だと思っている義母は、これからビシビシ指導すると張り切っています。「大事な跡継ぎを育てるのだから甘やかさない」と言われて、背筋が凍りました。
そして、義母の指導はどんどんエスカレート。出産から3カ月が過ぎたころには、幼稚園のパンフレットまで届きました。しかし、実は今、夫に本社栄転の話が持ち上がっていて、先のことは考えられない状況。それを義母に伝えると、「息子には単身赴任させて、孫はここで育てなさい」と言われたのです。
私と夫は、家族は一緒にいるべきだと考えています。私は両親が共働きで夕食はいつもひとり、夫も仕事が忙しい義父がほとんど家にいない家庭で育ち、幼少期に寂しく過ごした記憶があります。そのため、自分たちの子どもには寂しい思いをさせたくないのです。
しかし、それを義母はエゴだと言います。子どもの未来を奪うなとも言われましたが、私からすれば、義母のほうこそエゴを押しつけているような……。息子のことを考えてくれるのはありがたいですが、息子は私たちの子。お受験はせず、子どもらしい生活を送ってほしいとただ願っています。
私たちのそんな子育て方針を知り、義母は「孫の人生をぶち壊す気か! ひどい母親だ!」とものすごく怒りました。さらに「あんたみたいな母親の元に生まれて、孫がかわいそう……」と涙まで流し始めたのです。私は恐ろしくなり、なんだか不安になりました。
息子がさらわれた!?誘拐事件発生
そして、事件は起こりました。ある日、私がトイレに行っているすきに、息子がいなくなってしまたのです。勝手にわが家の合鍵を作り、自由に出入りしていた義母が連れ去ったとしか考えられません。証拠に、玄関には義母の靴があり、代わりに私のサンダルがなくなっていました。きっと焦って間違えてしまったのでしょう……。
電話をしても義母は出てくれません。メッセージを何通か送ると返信がきました。
「この子は跡継ぎとして私が育てます」
「ダメな母親には任せておけないわ」
これは犯罪だと説明しても、義母はダメな母親から孫を救い出しただけと主張。孫は返さない、自分が育てると言い張ります。何を言っても話にならないので、私は急いで義実家へ。しかし、やはり玄関は開けてもらえず、一向に息子は解放してもらえません。
「年寄りがしゃしゃり出て邪魔するな」
義母からのメッセージに返信したのは義祖母。困り果てた私は、義母が恐れる義祖母を頼ったのです。連絡するとすぐに、ひ孫のピンチに駆けつけてくれました。
私が事情を説明すると、母親から子どもを奪うなんてとんでもないと義祖母は激怒。若い母親が未熟なのは当たり前のこと。子育てをしながら親は子どもと一緒に成長していくものなのに、それを年寄りがしゃしゃり出て邪魔するとは何事だと憤慨しています。
「え?」
義祖母が返信したことを伝えると、一瞬ひるんだ義母でしたが「ダメな母親に大事な跡継ぎを任せておけません。立派に育てられるわけがありません」と反論を続けました。
子どもの人生は誰のもの?
義母は前にも、自分は育児を成功させた人間だと話していましたが、義母に育てられた夫は、義母の子育てを褒めていません。夫を支配して、自分の言う通りにさせ、都合のいいように育てた義母。夫のためにやったと思っているかもしれませんが、夫は「母親に大事なものをたくさん奪われた」と言っています。
夫は、幼少期に楽しかった思い出があまりないと話してくれたことがあります。興味のない習い事にたくさん行かされ、毎日遅くまで勉強させられて、それでも義母に怒られていたという記憶ばかりのようです。夫は義母の望み通りに良い学校に入って、良い会社に入れましたが、義母の教育方法には賛成できないと言います。
義母は厳しかった義祖母のことを、悪く言っていました。しかし、本当のところは夫の苦しみに気づいた義祖母は、夫を義母から守るために義母の子育てに口を出し、厳しく接していたというのが真実だったのでした。
その後、急いで帰宅してくれた義父からも「孫を返さないと離婚する」と迫られて、ようやく、玄関のドアが開きました。
結局、義母は義父と義祖母からひどく叱られ、夫からも本音を言われて、自分の子育ての間違いにショックを受けて謝罪。すっかりおとなしくなりました。
息子を連れ去られたことがトラウマのようになってしまった私ですが、過干渉にならないよう、気をつけなければいけないと思っています。義母の二の舞いには、決してなりたくありません。子育ての正解はまだ見つけられていませんが、その育児が本当に子どものためなのか、それとも自分のためなのか、常に問いながらゆっくり子育てをしていきたいと思います。
◇ ◇ ◇
子育ての方針が家族で異なることもあると思いますが、自分の考えを一方的に押し付けてはいけません。それは子どもに対しても同じなのではないでしょうか。子どもの人生は、子ども自身のものです。子どものためを思って干渉し過ぎてしまう気持ちも理解できますが、親の理想を押し付けないよう気をつけたいものですね。
【取材時期:2025年1月】
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。