直接わが家に電話をかけてきた前妻。最初から私のことを敵視しきっていて、「彼が、最近毎日のように私のところへ来ているの!」「『やっぱり君じゃなきゃダメだった!』って言ってくれるの!」と、まくし立ててきたのです。
夫が惜しくなった前妻
「ごめんなさい、こんなの突然言われてもびっくりするよね……。でも事実なの!」「彼に口説かれるたびに今の奥さんであるあなたへの罪悪感で胸がいっぱいで……!謝りたくって……!」と前妻。
あまりに嘘くさい演技に吹き出しそうになりながらも、「夫がそんなことを言うはずはありません」「見え透いた嘘はやめてください」と言った私。
「そもそも、彼からあなたとの離婚理由もすべて聞いていますし」
結婚直前、夫は前妻との離婚理由を打ち明けてくれていたのです。離婚の理由は前妻の不倫。「あんたのことなんて、最初から好きじゃなかった!」「大企業勤めで年収がいいから結婚しただけ」と捨て台詞を吐いて、別の会社経営者のもとへ行った前妻。夫の心はかなり傷ついていたようでした。
「そ、それは……今では反省してるの!」「結局、会社経営者の彼とはいろいろあって別れることになって……」「でもあなたの夫はまだ私のことを愛してくれてるし、やり直したいって思ってるのよ!その証拠に、独立して彼も会社経営者になったじゃない?あれは私に認められたかったからよ!」
起業は幼いころからの夫の夢だったようです。勘違いも甚だしい前妻に、私はもうため息を隠そうともしませんでした。
「それに、今かなり稼いでるそうじゃない!今の彼のところになら、私だって戻ってあげてもいいわ!」「だから早く離婚しなさい!」
別れた夫の成功を知って、惜しくなった……というところでしょう。あまりに浅はかな前妻に付き合っていられず、私は電話を切りました。
見知らぬ女性からの連絡
翌日――。
「突然の連絡失礼いたします」と言って電話をかけてきたのは、上品な言葉遣いの女性でした。夫の知り合いかと思っていると、彼女は私に用があるそう。
「旦那様の前の奥様をご存知でしょうか?」と聞かれたので、「もちろん」と答えるとようやく正体を明かした彼女。彼女は前妻が乗り換えようとした会社経営者の妻だったのです!
「夫は会社経営者ではありますが、私の父が経営するグループの子会社を1つ任されているだけなんです」「だから私と離婚するわけにもいかず……。結局夫が私に謝罪してきたため、彼女には慰謝料を請求することにしました」
前妻は「別れた」と言っていましたが、正確には捨てられたようでした。しかし、前妻の不倫相手の妻が私に連絡をしてきた理由は、未だわからないままです。
「実は……彼女、慰謝料のお金をかき集めるために、元旦那さんに泣きついて援助を求めようとしているという噂を聞きまして……それで急ぎ、連絡をさせていただきました」「無関係なあなたまで巻き込んでしまって申し訳ありません」
丁寧に謝罪をしてくれた彼女に、その必要はないこと、そして昨日前妻から連絡が来たことを話しました。
「まぁ、なんてこと……!」「わが家のせいで、よそ様の夫婦を壊してしまうなんて絶対に許されないわ!」「私にできることがあったら、なんでも言ってくださいね」
そう言ってくれた彼女に、私は自分が置かれている今の状況を正直に話したのです。
来るはずのないメッセージ
1カ月後――。
「いったいいつになったら離婚してくれるのかしら?」「彼はもうあなたに気持ちはないって、毎日言ってるわよ」と連絡をしてきた夫の前妻。
「彼ったら、毎日私に『君しかいない』って言ってくれてるのよ?」「『昔みたいに戻りたい』って電話もしてくれるし……先週は高級フレンチのディナーにも連れて行ってくれたわ!」
そんなマウントを取られても、私の心にはまったく響きません。
「嫁ごときが私たちの復縁の邪魔しないで!彼、毎日会いに来てくれるんだから」
「やっぱり私じゃなきゃダメだって言ってるのよ♡」
「おかしいわね。夫なら亡くなったけど……?」
「え?」
そう、夫は急性の病気で半年前に亡くなったのです。急だったこともあり、葬儀は身内のみで済ませました。会社は夫の友人が引き継ぎ、私も役員として手伝っています。前妻が嘘をついているのは明白でした。
きっと彼女は、夫が生きているように装って「毎日会いに来てる」「『君しかいない』と言ってくれてる」などと話すことで、私の心を揺さぶりたかったのでしょう。「夫がまだ前妻を愛している」と信じ込ませて、私のほうから不安に駆られて離婚を切り出すのを待っていた……。そうすれば自分は略奪ではなく元サヤという体裁で、財産や肩書きを取り戻せる。くだらない策略でしたが、もし私が事実を知らなければ、戸惑っていたかもしれません。
「亡くなっている人からメッセージや電話が来て、デートもしているなんて……」と言うと、「そ、それは……えっと……」と言葉に詰まってしまった前妻。
「夫に復縁を迫ろうにも連絡はつかないし、私のほうにゆさぶりをかけて離婚を言い出すように仕向けたかったってところでしょう?」「夫の資産を狙っていたようですが、すべて私が相続済みです」「だから、不倫相手の奥様への慰謝料は、ご自身の責任で対応してくださいね」
「な、なんで、そんなことまで知ってるのよ……!」「あたしに払えるわけないじゃない……!だったら、最初から亡くなってるって教えてくれてもよかったのに!」と前妻。
「夫を生前さんざん傷つけておいて、今になってしょうもない復縁を思いついて……」「夫の尊厳を汚すようなことは、私が絶対許しません」「二度と連絡してこないでください!」
勝手に夫の名前を使って、好き勝手な妄想を繰り広げて……。こんなことじゃ、夫だって安らかに眠れません。
その後――。
前妻の不倫相手の妻も、弁護士を通じて法的な手続きを取り、前妻にしっかりと責任を取らせることにしたそうです。前妻は手持ちのものを処分したり、知人に頼ってなんとかお金を集めようとしたものの、それでも追いつかず……。今はいくつものバイトを掛け持ちして、返済を続けているようです。
会社経営者の妻同士ということもあり、私と不倫相手の妻は意気投合。今ではたまにランチに行く関係になりました。彼女はもともと経営を学んでいたそうで、私にノウハウを教えてくれます。夫の会社を大きくしていけるよう、しっかり学びたいと思います。
【取材時期:2024年12月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。