明日の結婚式のためにも帰ってきてほしいと言っても、「今が一番盛り上がって楽しい時間だぞ!」「こんなときに主役が帰れるかバカヤロー!」と夫。仕方なく私は迎えがてらタクシーで居酒屋に向かったのですが……?
お酒を飲めない新婦
……目を覚ますと、私は病院のベッドに寝かされていました。看護師さんの話によると、居酒屋で私を見つけた店員さんが、声をかけても反応がなかったため、心配して念のため救急車を呼んでくれたのだそうです。
「夫は一緒でしたか?」と聞くと、「旦那さん?見かけませんでしたよ」とのこと。
痛む頭をおさえながら、私は昨晩のことを思い出していました……。
「同僚のみなさんにご挨拶したら、すぐに帰るからね!」「私はお酒は飲まない、ノンアルコールで乾杯するだけよ!」と言って、私は居酒屋に行きました。お店に着いた途端、夫は「乾杯だけでも!」とグラスを差し出してきました。
「ノンアルでいいって言ったでしょ?」と断ったものの、「大丈夫、これ薄いやつだから!」と押し切られ、私は少しだけ口をつけることに。
一杯だけのつもりが、いつの間にかグラスがすり替わっていたのか、それとも自分の体調が思ったより悪かったのか――。私は気分が悪くなり、そのまま居酒屋の隅のソファに横たわったところまでは覚えているのですが……。
ベッド脇に置いてあったかばんの中からスマホを取り出すと、大量の着信履歴が……。すべて夫からのものです。電話に出なかったからか、今度はメッセージが。
「結婚式当日に花嫁が遅刻とかふざけんな!」
「招待客もみんな待ってるっていうのに……今すぐ来い!」
「無理でしょ、あなたのせいで病院なんだから」
「は???」
「寝坊の言い訳に冗談言ってんじゃねーぞ!」と言う夫に、「ふざけんなって叫びたいのはこっちよ!」と怒りをぶつけた私。
「……嘘でしょ? 昨日のこと覚えてないの?」と言うと、「え?昨日?」とぽかんとしている夫。
「あなたが呼び出した飲み会のせいでこうなったのよ!」と怒ると、「だってさ、お前、いなくなってたし……。てっきり先に帰ったのかと思ったんだよ」「俺もそのあと、同僚ともう一軒行ってさ。で、朝そのまま式場行ったらお前いないし……びっくりしたわ!」と言い訳ばかり。
「私、居酒屋のソファで寝てたのよ? 見えてなかったの?」「私が見当たらなかったら、普通は探すでしょ? 連絡くらいしてよ!なんで“帰った”って勝手に決めて、飲み歩けるのよ?」と詰めると、「いや、周りも騒がしくてさ……まさか倒れてるなんて思わなかったし……」「飲ませたのも悪かったかもしれないけど、お前も具合悪いなら言えよな!」……どこまでも他人事みたいな口ぶりに、私はまた頭が痛くなってきたのでした。
「たった数杯で酔ってつぶれるほうが悪いんだよ!」「そんな大事にしやがって……親や招待客になんて説明すれば……。結婚式も中止にするしかないし、キャンセル料は全額お前持ちだからな!」と夫。私の心配よりも、世間体やお金の心配のほうが先のようです。
「……もういい、とにかくまずは結婚式場に中止の連絡をして」「私はもう少し休むから……あなたと話してると、ますます頭が痛くなってくるわ」と言って、私はやり取りを終えました。
義姉は白衣の天使
ベッドから上半身だけ起こして、頭を抱えた私。アルコールによる頭痛もありますが、それよりも今後のことのほうが気がかりでした。
そんなとき、病室のドアが開く音が。
「……大丈夫?」
そう声をかけてきてくれたのは、ナース姿の義姉でした。
「な、なんでお義姉さんがここに!?」と驚く私に、「だってここ、私が働いている病院だもの」とにっこりほほえむ義姉。
「夜勤中に搬送の連絡があってね、名前を見てびっくりしちゃった」
「お店の人が、『付き添いの方はいませんでした』って話しててね」
「話を聞いた瞬間、もしかして……って胸騒ぎがしたの。やっぱりうちの弟なのね。もう本当に申し訳なくて……ごめんなさい」
そう言って、義姉は深々と私に頭を下げました。
「両親から聞いたんだけど、結婚式場にはもう招待客が集まってるって……。弟は『新婦が突然倒れて病院に運ばれた』って涙目で謝ってたらしいのよ」
「何があったのか全部は聞いてないけど……うちの弟が関わってるんでしょう?詳しく教えてくれる?」
私はため息をついて、昨夜のことを簡単に説明しました。呼び出されたこと。無理にお酒を勧められたこと。そして、体調が悪くなって倒れたのに、夫が放置して帰ってしまったこと――。義姉はしばらく黙ってから、ゆっくりと言いました。
「……やっぱり、そういうことだったのね。最低よ、アイツ……!」「あなたがこんな状態になった原因を説明せずに、まるで自分が被害者かのようにかわいそうな新郎を演じてるんだから」「まさかって思ってたけど……本当に確認もしないで二次会行ったの? それで花嫁が遅刻したとかキレてたわけ?」
私はうなずきました。
「……もう十分だ。あの人の顔、これ以上見たくない」
義姉の言葉を聞いたとき、心のどこかがスーッと冷めていくのを感じたのです。これまで何度も「ちょっとしたこと」と自分に言い聞かせてきたものの、夫の自己中心的なふるまいに限界を感じたのです。「きっと変わってくれる」と思って、信じて、結婚式を迎えようとしていたのに――。
今になって、ようやくはっきりわかったのです。私は、この人と一生をともにするつもりでいたなんて、なんて馬鹿だったんだろうと。
「でも、安心して」「あいつの思い通りにはさせないから……!」と力強く言う義姉の表情は、どこか頼もしく感じました。
「あなたはゆっくり休みなさい、なにかあったらナースコールを押すのよ」「私は今から式場に行って、真実を明かしてくるわ!」
亭主関白をはき違えていた夫の末路
2時間後――。
「お前、姉ちゃんになにを吹き込んだんだ!?」「姉ちゃんのせいで、みんなが俺を責めてくるようになったんだぞ!?」と夫から連絡が。どうやら義姉が、親戚や親しい友人にだけ、私が病院に運ばれた理由を説明してくれたようです。
私が義姉の勤める病院に運び込まれたこと、担当してくれたのが夜勤中の義姉だったことを説明すると、夫の勢いはなくなってしまいました。
「ま、まぁ……俺もその、冷静になったし、いろいろ悪かったと思ってるよ」「だからその、お互い悪かったってことで、仲直りしよう」と夫。しかし、私は悪いことをした覚えはありません。
「親も親戚も友だちも、『式のキャンセル費用はお前が全額払え』って言うけど、ここは2人で折半しような」と言う夫に、「いやいや、そんなのおかしいでしょ」と言い返した私。
私はお酒は飲まないと伝えていました。それなのに夫は薄いからと言ってお酒を飲ませたうえ、気がつかなかったとはいえ、私のことを放って帰ったのです。
「な……なんだよ!お前、急に強気になりやがって!」「姉ちゃんを味方につけたからって、調子に乗るなよ!」と言ってきた夫に、私も「ええ、お義姉さんのおかげで目が覚めたのよ!二重の意味でね!」と反論。
「私ね、結婚してから気が大きくなって、私の扱いがひどくなったあなたのこと、ずっと我慢してたの」「少し経てばおさまると思って耐えてたけど……もう馬鹿馬鹿しいことに気づいたのよね」
もう、この人と未来を築くことはできない。あんな扱いを受けてまで、一緒にいる理由なんて、もうどこにもないーーそう、心の底から決めた私は夫に伝えました。
「だから、もう離婚しましょう!」
「えっ!?離婚!?」「ちょ、ちょっと待てよ!そんなの……冗談だよな!?」と焦り出した夫。しかし、私は本気です。なんなら、結婚式が中止になってよかったとすら思っています。
「本性が早くわかってよかった!一生ご機嫌をうかがいながら生きていくなんて、ゾッとする!」「退院したらすぐに離婚届もらってくるからさ、早く離婚しようね!」
「ご、ごめん!いや、ごめんなさい!」「俺、実は強い男に憧れてて……上司も同僚も『男は亭主関白であるべきだ』とか言うし、ついお前に強く当たってたっていうか……」と言い訳を並べだした夫。私は酔っぱらって倒れた妻を放置するような「強い男」なんて連れ添えません。「妻はお酒が弱いので」ってかばってくれるほうが強さを感じます。
「本当にごめん……!今回のことは俺が全部責任取るから……!」「キャンセル料も全額俺がしっかり払う!みんなにも俺からもう一度頭を下げる!」「だから頼む!離婚だけは許してくれ……!」
ようやく心からの謝罪をしてくれた夫。しかし、もう遅いのです。私の心はすでに決まっていました。
その後――。
退院後、両家立ち合いのもと、私たちは離婚の話し合いをしました。みんなの前で、夫はしぶしぶ離婚届にサインしてくれました。結婚式のキャンセル料は全額夫持ち、そして夫は私に慰謝の意味を込めて、お金を支払うことも約束しました。
元夫はまだ私に未練があるようですが、私は独身生活を謳歌しています。今度お付き合いをするとしたら、お酒を飲めない私を自然に受け入れてくれる男性がいいー。そして次は、無理せず自分らしくいられる相手と、ゆっくり歩んでいこう、そう思っています。
【取材時期:2025年2月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。