子どものころ、私は手のかからない、いわゆる優等生でした。妹はというと、勉強も運動も苦手で、何をやっても長続きしないタイプ。そんな妹は、なぜか昔から私にだけ、理不尽な敵意を向けてきたのです。
表向きは愛想がよく、甘え上手なのに、裏では私にだけ当たりが強く、親や周囲に気づかれないように、陰湿な嫌がらせを繰り返していました。
「お姉ちゃんにいじめられた」と嘘をついて私を悪者に仕立てたり、大学時代には私のプレゼン資料をこっそりすり替えたり──あの執念深さを思い出すと、今でも背筋が寒くなります。どこかで私に勝ちたい、おとしめたい。そんな歪んだ感情に取り憑かれていたのでしょう。
そんな性格でも、たった1人の妹であることには変わりありません。だからこそ、今日は心から祝福しようと思っていたのですが……。
嘘の会場を伝えた妹
「妹の結婚式に遅刻とか、お姉ちゃん何考えてんの!?」
「家族のくせに最低だよ!」
と、妹からメッセージが届きました。指定された会場に着いた私は、誰一人知った顔がいないことに違和感を覚えながら、「私はもう会場にいるけど……?」と妹に返信しました。「え?」と返してきたかと思えば、「もう気づいちゃった?w」と余裕たっぷりの妹のメッセージを見て、私はすぐに妹に電話をかけました。すると、出るなり妹は「あはははは!」と笑ったのです。
「想像以上に慌ててるわね、お姉ちゃん」「その様子じゃ、まだ私にだまされてたことに気づいてないんだぁ~」「実は、お姉ちゃんに送った招待状は偽物なの! 嘘の結婚式場と時間を書いてやったんだよね」
「そんな……うそでしょ!? どうしてそんなことをしたのよ!?」と聞くと、「みんなで馬鹿にするためよ!」と妹。
「周りから見たら、アンタは妹の結婚式を欠席した非常識な姉……『美人な妹が先に結婚するのが悔しかったに違いない』『妹の幸せが腹立たしくて遅刻、ブスで心の狭い姉だ』って思うんじゃない?」「一生恥ずかしい姉としての烙印が押されるわ! 私の計画は大成功ね!」
妹はたしかに美人で、容姿には自信をもっていました。そのことが、本人の中で妙な優越感につながっていたのかもしれません。昔から、真面目で優等生タイプの私に劣等感を抱きつつも、美人を鼻にかけて見下していた節がありました。けれど、こんな手の込んだ嫌がらせまで仕掛けてくるなんて──。妹の性格は、いつの間にか取り返しのつかないほど歪んでしまったようです。
「もういい、こんな大事な日にまで嫌がらせをするような妹なんて祝いたくない」「誰にどう思われても構わないわ。どうぞ好き勝手私の悪口で盛り上がってなさい」「私はおとなしく帰ることにするわ」
そう言って電話を切ろうとしたのに、妹は「え~? 帰っちゃうの?」「本当に私の結婚式に来ないつもり?」と話を続けました。
「あなたのことだから、どうせほかにも嫌がらせを用意してるんでしょ……」と言うと、「さすがお姉ちゃん!」と妹。
「お姉ちゃんにだけ特製ハバネロケーキを用意してたのよ!」「……でも、別にお姉ちゃんが来なくてもいっか。目薬でもさして、『お姉ちゃんにお祝いされたかった……』って言えば、みんな私に同情して、お姉ちゃんが非難を浴びるんだわ!」
実の姉に嫌がらせを続けた妹の末路
「でも……、あなたの大事なスピーチ、台無しになっちゃうかもね」
「……だって、あなたの中学からの親友、今ここで私と一緒に困ってるのよ。私と一緒に、嘘の会場に来ちゃってるの」
まさか親友まで巻き込んでしまっていたとは思わなかったのか、「えっ?」と驚いた妹。
「あなたの中学からの親友、まだ本当の結婚式場に到着していないでしょう?」「だって彼女は私と同じく、嘘の会場のほうに来てしまっているもの」「今日の友人代表のスピーチを頼んでるんだっけ? そんな彼女が大遅刻なんて残念ね……」
電話の向こうでは、妹がスタッフを呼びつけていました。そして、親友が本当の式場にまだいないことを確認したようで、「なんであの子までそこに……? 嘘の招待状はお姉ちゃんにしか送ってないのに……どうして……」と声を震わせていました。
妹の親友は、もともと招待状を受け取っていたのですが、引っ越しのドタバタで紛失してしまい、式場の情報がわからなくなっていたようです。妹にあらためて聞くのは気が引けたらしく、学生時代から私とも親しかった彼女は、私に連絡をくれたのです。私は妹から受け取った“嘘の招待状”の内容をそのまま伝えてしまい、結果として彼女も誤って別の会場に来てしまったのでした。
そして今、私と妹の親友は、嘘の会場で顔を見合わせ、どうするべきか悩んでいました。
「ちょ……ちょっと! そんなの困るわ! 結婚式のスピーチはどうなるのよ! 会場を教えるから今すぐこっちに向かってちょうだい!」と大慌ての妹。それを聞いた妹の親友は、「もちろんよ! 今からそっちに向かうからね」「タクシーに乗って、スピーチに間に合わせるから安心してね!」と明るい声で返事をしていました。「本当に!? 私のためにスピーチしてくれるのね!」とうれしそうな声をあげた妹。
「大事な親友の結婚式でのスピーチだもの! 全力疾走してヘアメイクがずたぼろになったって、やり遂げてみせるわ!」妹の親友は力を込めて伝えていました。
妹の親友は式には遅れたものの、スピーチの開始時間前には到着したようです。
そして――。
スピーチで、彼女はすべてを暴露したのです。なぜ、姉が来ていないか、妹がいったい姉に何をしたのか。暴露して騒然となった会場を、足早に立ち去ったのだとか。彼女から「やってきましたよ、お姉さん」と連絡をもらいました。
私と妹のやりとりを聞いた彼女は、妹の本性を知り、今まで外では猫をかぶっていたことがわかると「最低!」と言って私のために怒ってくれていたのです。タクシーが来たとき、「お姉さん、あとは私に任せてくださいね」そう言って乗り込んでいました。
スピーチ後、立ち去る自分の親友に、妹は追いかけて文句を言っていたそうですが、親友は「あんなやさしいお姉さんにひどい嫌がらせするなんて、見過ごせなかったの! あなたが約束をすっぽかして別の子と遊びに行ったときも、お姉さんは私のことを気遣ってくれたし!」「いつだって私の気持ちに寄り添って励ましてくれたもん!」と言い返したのだとか。
その後――。
招待客はドン引き、新郎は「お前のせいで俺の評判まで台無しだ」「こんな性悪女と結婚なんかできない」と激怒したそう。結局、妹たちの結婚は取りやめに。
最初は私にだけ向けられていた棘のある態度も、妹はいつの間にか周囲に広げていたようです。妹は、容姿を引き合いに出しては、友人たちに対してもどこか見下すような言動や、わがままな振る舞いをすることが増えていき──この結婚式をきっかけに、人が離れていったのだとか。私も今後、妹と連絡を取るつもりはありません。
あれほど私を笑っていた妹が、最後には自分の仕掛けた罠に足をすくわれてしまいました。因果応報とはよく言ったものだと、妙に感心してしまった私。誠実であることの大切さを、あらためて感じました。妹に裏切られたことは許せないけれど、だからといって私まで同じ土俵に落ちるつもりはありません。これからも、真っすぐに、自分の信じる道を生きていこうと思います。それが、私なりの自分を守る方法だと信じています。
【取材時期:2025年3月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。