妊娠中の下痢の原因とは?妊婦さんが下痢になった時に心がけることについて

この記事の監修者

医師太田 篤之 先生
産婦人科 | おおたレディースクリニック院長

順天堂大学卒後、派遣病院勤務を経て、平成22年より順天堂静岡病院周産期センター准教授就任。退職後、平成24年8月より祖父の代から続いている「おおたレディースクリニック」院長に就任し現在に至る。

 

下痢のイメージ

 

妊娠をすると、便秘に悩まされる方も多いのですが、逆に下痢に悩む方もいます。
今回は、妊娠中に起こりやすい生理的な変化に伴って起こる下痢と、細菌やウィルスなどの感染によって起こる感染性の下痢について解説します。

 

 

生理的な妊娠中の下痢について

妊娠中は、生理的な変化に伴い下痢が起こることがあります。

主な原因は次のものになります。

 

プロゲステロン(黄体ホルモン)の作用

妊娠すると、妊娠を維持する作用をもつプロゲステロン(黄体ホルモン)というホルモンが母体の中で増加します。このプロゲステロンは、消化器系の内面の平滑筋を緩めさせて、腸の動き(蠕動運動:ぜんどううんどう)を抑制する作用もあります。これは、食べ物を胃や腸内をゆっくりと時間をかけて移動させることで、効率よく栄養の吸収をするためです。

プロゲステロンによる腸の動きが鈍くなることで、便が腸内に長く留やすくなります。その後、ようやく体外へ硬い便が排泄されたことをきっかけに、溜まっていた便が次々と排泄される際に、軟便~下痢便になることがあります。

 

慢性的な便秘の影響

妊娠前から慢性的に便秘があると、プロゲステロンの作用が、さらに腸の動きを鈍くさせることになります。

直腸内に便が溜まって自力で容易に排便できない便塞栓が生じた場合、直腸の粘膜と便のわずかな隙間から液状の便が漏れ出てきて、下痢と間違えるケースもあります。

 

食生活の変化

特に妊娠初期はつわりがある場合に、水分を多く含む食品や冷たい飲み物を大量に摂取することで、胃腸が刺激され消化不良を起こし、結果的に下痢を起こすことがあります。妊娠中期以降は、食べる量の変化や、おなかの赤ちゃんの成長と共に子宮が腸を圧迫することで、消化不良を起こしやすく、便秘や下痢が起こることがあります。

 

鉄剤の内服による副作用

妊娠中は貧血になりやすいですが、鉄剤を内服し始めたばかりの時期に、下痢や便秘などの副作用が起こる場合もあります。併せて処方された鉄分の吸収を促すビタミンCを含むビタミン剤を内服することで、下痢や便秘などの消化器症状が助長されるケースもあります。

鉄剤を内服し始めてから下痢が起こった場合は、早めに医師や助産師へ相談しましょう。

 

精神的なストレス

妊娠に伴う緊張感や生活環境から受けるストレスによって自律神経が乱れて、腸の動きが活発になりすぎて、下痢を起こすことがあります。

 

 

感染性の妊娠中の下痢について

妊娠中は抵抗力が弱まり、妊娠していない状態よりも細菌やウィルスなどに感染しやすいため、食中毒や胃腸炎によって下痢になることがあります。

感染性の下痢が必ずしも流産や早産、胎児へ悪影響を起こすわけではありませんが、もし感染源に心当たりがあれば、早めに受診して治療を受けましょう。

ここでは原因となる代表的な菌やウィルスについて説明します。

 

カンピロバクター

感染源:加熱が不十分な肉料理。菌が付着した調理器具や手指が更なる感染を起こすこともある。
特徴:加熱に弱い菌であるが、低温に強いため冷凍庫や冷蔵庫のなかでも死滅しない。
潜伏期:2~5日
症状:腹痛、下痢、発熱など
予防:肉類は十分に加熱する。調理後の調理器具や手指は、しっかり洗浄・消毒する。

 

サルモネラ

感染源:
特徴:食中毒を起こす代表的な菌。食品を低温で保存し十分に加熱調理することで死滅する。
潜伏期:潜伏期8~48時間
症状:吐き気や嘔吐から始まり、腹痛や下痢を起こす急性胃腸炎が起こることが多い。
予防:妊娠中は生卵を避ける。卵は必ず冷蔵庫に保管して、短期間に消費する。調理する際は、卵黄も卵白も固くなるまで十分に加熱して菌を死滅させる。

 

ウェルシュ菌

感染源:菌が付着した肉や魚の入ったカレーやシチュー、スープなどの煮込み料理。
特徴:熱に強く、空気を嫌う。
潜伏期:6~18時間
症状:腹痛や下痢
対策:加熱調理したものを常温で放置しない。一晩以上、常温で放置した煮込み料理は食べない。

 

ノロウィルス

感染源:主に加熱調理が十分でない二枚貝(牡蠣、ホタテ、ムール貝など)。ウィルスに感染した人が調理した食品。
特徴:冬場に流行する食中毒や胃腸炎の原因となる。
潜伏期:1~2日
症状:嘔吐や下痢などの急性胃腸炎を起こす。
予防:貝類は十分に加熱する。調理後の調理器具や手指は、しっかり洗浄・消毒する。

 

 

 

妊娠中に注意が必要な食中毒

食中毒を起こす一部の菌や寄生虫の種類によっては、妊婦が感染すると、胎盤や胎児へ移行して、流産や早産、死産、あるいは産まれた赤ちゃんへ影響を及ぼすことがあります。
下記の2つは、特に妊娠中に感染しないように注意が必要ですが、妊婦さん本人は感染しても必ず下痢をともなうわけではなく、無症状なことがあります。

 

リステリア菌

食中毒の原因となる菌。発育する温度の幅が広く、塩分に強く、冷蔵庫の中でも増殖する菌です。感染してもなにも症状が起こらないケースもありますが、妊婦が感染すると倦怠感や発熱などインフルエンザのような症状を起こし、時に吐き気や下痢を起こすことがあります。


【リステリア菌による食中毒を起こす危険性のある食品】
・生肉

レアステーキ、ローストビーフ、生レバー、馬刺し、鳥刺し、ジビエ(野生鳥獣の肉)、ユッケ
・加熱殺菌されていない食品
生ハム、生ベーコン、生サラミ、スモークサーモン、肉や魚のパテ、未殺菌の牛乳、コールスローサラダ、コーンサラダ、カニカマ
・加熱処理されていないナチュラルチーズ
ブルーチーズ、カマンベールチーズ、チェダチーズ、モッツァレラチーズ 

※日本製のものは加熱処理されている製品もありますが、製品によって異なるため食品表示を確認しましょう。輸入品は加熱処理していない製品が多いので、食べないほうが安心です。

 

トキソプラズマ

加熱が不十分な肉や感染したばかりのネコの糞や土の中にいる寄生虫で、妊婦が初めて感染した場合は、流産や死産、赤ちゃんの脳や視力に障害(先天性トキソプラズマ症)が生じることがあります。

 

 

妊娠中に下痢になったときに心がけること

■まずは自己判断せずに、医師や助産師へ相談する
妊娠中に下痢が起こることは珍しいことではありませんが、妊娠にともなう生理的な変化によるものか、それともなんらかの感染によるものなのか、自分で判断することは難しいです。下痢が続く場合は、次の妊婦健診を待たずに早めにかかりつけの産婦人科を受診して相談しましょう。

診察の結果に応じて、妊娠中に内服可能な整腸剤などが処方されますので、下痢止めや整腸剤、吐き気止めの効果のある市販薬や常備薬、過去に処方されたお薬を自己判断で飲むことはしないほうが良いです。

 

■水分をこまめに補給する
脱水を予防するために、こまめに水分を摂りましょう。水分補給には、胃腸の刺激になりにくい温度(冷たすぎず、熱すぎない)で糖分を含まない水や麦茶などが適しています。水分を飲みこみづらい場合は、胃腸へ刺激にならない程度に、氷の欠片をなめたり、砕いた氷を食べて水分を補ってもかまいません。食事もとれず、水分を飲みこむことさえ難しい場合は、入院治療が必要な可能性がありますので、速やかに産婦人科へ受診しましょう。

 

■腸に刺激を与えるものは避ける
下痢が続いて、食欲がない時は、できるだけ食物繊維や脂肪の少ない食品をやわらかく調理した食事を摂るように心がけ、酸味や辛味の強い料理、水分の多い食品、乳製品などの腸の動きを刺激するものは控えましょう。

食事が摂りづらい状況が続くと、清涼飲料水、飴やガムなどで空腹を満たす方もいますが、清涼飲料水や菓子類に含まれる人工甘味料は、腸内で消化吸収されにくい性質をもち、時に急激に腸の動きを活発にして下痢の原因となることもありますので、下痢が続く間の摂取はなるべく控えましょう。

 

■イオン飲料の飲みすぎに注意する
下痢が起きた際に、水分補給としてイオン飲料(スポーツドリンク、経口補水液など)を飲む方もいると思いますが、イオン飲料は、糖やミネラルなどを含むものの、糖をエネルギーに変換するビタミンB1を含まないため、多量に飲んだり、水分補給をイオン飲料だけに限定してしまうと、ビタミンB1欠乏による脚気(かっけ:末梢神経障害や心不全)、ウェルニッケ脳症(眼球運動の異常、歩行困難、意識障害)を引き起こす危険性があります。水分補給として、イオン飲料しか飲めない場合は、速やかに産婦人科へ受診しましょう。

 

■適度な安静と保温を心がける
腹部への圧迫を避けて、ゆっくりと休みましょう。下痢が続く場合は、ブランケットを掛けたり腹巻きなどによる腹部の保温をすることで、おなかの中の臓器の循環血液量を増加させ、消化吸収を助けたり、腸内の炎症の回復をはかることができます。また、保温することは、痛みを和らげたり、精神的なリラックスをもたらします。

 

 

まとめ

下痢が流産や早産の直接的な原因にはなりませんが、下痢が続けば、十分に食事を摂れず、母体の体力を消耗することになります。

妊娠中の下痢が生理的な変化にともなって起きたものなのか、感染によるものなのかは自分で判断することは難しいです。妊娠中に下痢が続いたり、腹痛や嘔吐など他の症状をともなう場合は、早めにかかりつけの産婦人科を受診しましょう。

 

 

 

 

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