「将来のために保険に入っておこうかな」と考え始めたとき、多くの人が「医療保険」と「生命保険」という言葉を耳にするでしょう。しかし、この二つの保険が具体的にどう違うのか、どちらに加入すべきなのか、正確に理解している方は意外と少ないのではないでしょうか。
この記事では、保険への加入を初めて検討する方に向けて、「医療保険」と「生命保険」の根本的な違いを徹底的に解説します。
保障内容や加入目的といった基本的な違いから、保険の種類、税金の扱いまで、この記事を読めば、あなたにとって本当に必要な保険を見つけるための知識が身につきます。自分や家族の未来を守る第一歩として、ぜひ最後までご覧ください。
医療保険と生命保険の違いとは
医療保険と生命保険は、どちらも「万が一の事態に備える」という点では共通していますが、その目的と役割は全く異なります。まずは、両者の基本的な違いを「保障内容」「加入目的」「受取人」「税金」という4つの観点から詳しく見ていきましょう。
ここで解説する医療保険とは、公的な医療保険制度を補うための民間の保険会社が提供する保険商品を指します。
比較項目 | 医療保険 | 生命保険(死亡保険) |
保障内容 | 病気やケガによる入院・手術などの医療費を保障 | 死亡・高度障害状態になった際の生活費などを保障 |
加入目的 | 医療費による経済的負担の軽減(自分のため) | 遺された家族の生活保障(家族のため) |
受取人 | 原則として被保険者(本人) | 被保険者が指定した人(配偶者や子など) |
税金(受取時) | 給付金は原則として非課税 | 保険金は課税対象(主に相続税) |
税金(支払時) | 介護医療保険料控除の対象 | 一般生命保険料控除の対象 |
保障内容の違い
まずは、補償内容の違いをご紹介します。最も大きな違いは、「何に対して」保障されるかという点です。
医療保険:病気やケガの医療費を保障する
医療保険は、病気やケガで入院したり、手術を受けたりした際の医療費の自己負担分をカバーするための保険です。
日本では国民皆保険制度により、誰もが公的医療保険に加入しており、医療費の自己負担は原則1~3割に抑えられています。また、高額療養費制度があるため、一個人が支払う医療費には上限が設けられています。
しかし、それでも長期の入院や度重なる手術、先進医療などを受けると、自己負担額は高額になる可能性が高いです。また、差額ベッド代や入院中の食事代、交通費などは公的医療保険の対象外となっています。
民間の医療保険は、こうした公的医療保険だけではカバーしきれない費用に備え、安心して治療に専念できるようにするためのものです。具体的には、以下のような給付金が支払われます。
- 入院給付金:入院1日あたり5,000円や10,000円などが支払われる
- 手術給付金:受けた手術の種類に応じて、入院給付金の10倍、20倍といったまとまった額が支払われる
- 通院給付金:退院後の通院に対して支払われる
- 先進医療特約:公的医療保険の対象外である先進医療の技術料を保障する
生命保険:死亡や高度障害になったときに保険金が払われる
一方、生命保険(ここでは主に死亡保険を指します)は、被保険者(保険の対象となる人)が死亡したり所定の高度障害状態になったりした場合に、まとまった保険金が支払われる保険です。
一家の大黒柱が亡くなった場合、遺された家族は精神的な悲しみだけでなく、収入が途絶えることによる経済的な困難に直面します。生命保険は、こうした「万が一」の際に、遺族のその後の生活費、子どもの教育費、住宅ローンの返済、葬儀費用などを支えるために加入するものです。
つまり、医療保険が「生きるためのリスク」に備えるのに対し、生命保険は「死亡後のリスク」に備えるという点で、保障の対象が根本的に異なります。
加入目的の違い
保障内容が違うため、当然ながら加入する目的も異なります。
医療保険:医療費の負担の軽減
医療保険の主な加入目的は、自分自身の医療費負担を軽減することです。病気やケガで働けなくなった場合、収入が減少する中で高額な医療費を支払うのは大きな負担となります。
特に、貯蓄がまだ十分でない若い世代や、自営業者・フリーランスなど、収入が不安定になりがちな人にとって、医療保険は自身の生活を守るための重要な役割を果たします。医療保険は、いわば「自分のための保険」と言えるでしょう。
生命保険:残された家族の生活費
生命保険の主な加入目的は、自分に万が一のことがあった際に、遺された家族の生活を守ることです。
配偶者や子どもなど、経済的に支えている家族がいる場合、自分の死が家族の生活を困窮させてしまう可能性があります。遺された家族が路頭に迷うことなく、これまで通りの生活を維持し、子どもが希望する進路に進めるように、経済的な基盤を準備しておくのが生命保険の最大の目的です。こちらは「家族のための保険」と言えます。
受取人の違い
医療保険と生命保険は、誰が保険金や給付金を受け取るのか、という点も明確に違います。
医療保険:被保険者(本人)
医療保険の給付金は、病気やケガで治療を受けた被保険者本人が受け取るのが原則です。入院や手術をした本人が、その治療費を補うために給付金を受け取ります。これにより、家計から持ち出す医療費の負担を直接的に軽減できます。
生命保険:被保険者以外(家族など)
生命保険の死亡保険金は、被保険者が亡くなった後に支払われるため、当然ながら本人が受け取ることはできません。あらかじめ契約者が指定した受取人(配- 偶者や子、親など)が受け取ります。
誰を受取人にするかは、契約時に指定する必要があり、保険契約の中でも非常に重要な項目です。
税金の違い
保険金や給付金を受け取ったとき、また、毎年の保険料を支払ったときの税金の扱いにも違いがあります。
医療保険:給付金は非課税
医療保険から受け取る入院給付金や手術給付金、通院給付金などは、原則として非課税です。これは、受け取った給付金が利益ではなく、身体の傷害に起因して支払われる損害の補填と見なされるためです。
したがって、いくら給付金を受け取っても所得税や住民税はかからず、確定申告も不要です。
一方で、支払った医療保険の保険料は、年末調整や確定申告の際に「介護医療保険料控除」の対象となり、所得税や住民税を計算する上で所得から控除することができます。これにより、税金の負担を軽減する効果があります。医療保険の保険料を支払っている方は、確定申告や年末調整で忘れずに申告しましょう。
生命保険:保険金は課税対象
生命保険の死亡保険金は、医療保険の給付金と異なり、原則として課税対象となります。どの税金の対象になるかは、契約者(保険料を支払う人)、被保険者(保険の対象となる人)、受取人(保険金を受け取る人)の関係によって決まります。
- 契約者と被保険者が同一人物の場合(例:夫が自分に保険をかけ、受取人が妻)
- 相続税の対象となります。
- ただし、「500万円 × 法定相続人の数」という生命保険の非課税枠が設けられており、この枠内に収まるか、基礎控除と合わせて非課税になるケースが多いです。
- 契約者、被保険者、受取人がすべて異なる場合(例:夫が妻に保険をかけ、受取人が子)
- 贈与税の対象となります。贈与税は相続税に比べて税率が高いため、注意が必要です。
- 契約者と受取人が同一人物の場合(例:妻が夫に保険をかけ、受取人が妻自身)
- 所得税(一時所得)の対象となります。
また、支払った生命保険料は、年末調整や確定申告で「一般生命保険料控除」の対象となり、所得から控除することができます。
医療保険の種類と違い
一口に医療保険といっても、その種類はさまざまです。保障期間や保障内容によっていくつかのタイプに分かれます。ここでは、代表的な医療保険の種類とその特徴を解説します。
定期医療保険
定期医療保険は、「10年」「20年」や「60歳まで」といったように、保険期間が一定期間に限定されている医療保険です。
- メリット:保険期間が限定されている分、後述する終身医療保険に比べて月々の保険料が割安です。
- デメリット:保険期間が満了すると、保障も終了します。保障を継続したい場合は更新が必要ですが、更新時の年齢で保険料が再計算されるため、一般的に保険料は高い傾向です。また、健康状態によっては更新できない場合もあります。
- おすすめな人:子どもが独立するまでの期間など、特定の期間だけ手厚い保障が欲しい方や、まずは割安な保険料で備えたい若い世代の方に向いています。
終身医療保険
終身医療保険は、その名の通り、保障が一生涯続く医療保険です。
- メリット:一度加入すれば、解約しない限り保障が一生涯続きます。また、保険料は加入時の年齢で決まり、途中で上がることはありません。若いうちに加入すれば、比較的安い保険料で生涯の保障を確保できます。
- デメリット:保障が一生涯続く分、定期医療保険に比べて月々の保険料は割高になる傾向があります。
- おすすめな人:高齢になったときの医療費負担が心配な方や、将来にわたって保険料の支払額を確定させたい方におすすめです。
がん保険
がん保険は、その名の通り「がん(悪性新生物)」の治療に特化した保険です。がんという疾病に手厚く備えたい場合に検討します。
- 特徴:がんと診断されたときにまとまった一時金が受け取れる「診断給付金」が主契約となっていることが多いです。その他、がんによる入院・通院・手術・抗がん剤治療などを手厚く保障する特約があります。
- メリット:がんの治療は長期化しやすく、先進医療など高額な治療が必要になるケースも少なくありません。がん保険に加入しておくことで、経済的な心配をせずに治療に専念できます。
- おすすめな人:がんの家系で心配な方や、一般的な医療保険に加えて、がんのリスクに特に手厚く備えたい方に向いています。
女性保険
女性保険は、女性特有の病気による入院や手術を手厚く保障する医療保険です。
- 特徴:乳がん、子宮がん、卵巣がんといった女性特有のがんや、子宮筋腫、帝王切開など、女性がかかりやすい病気で入院・手術した場合に、通常の給付金に加えて上乗せで給付金が支払われます。
- メリット:女性特有の疾病リスクに的を絞って備えることができます。通常の医療保険に「女性疾病特約」として付加するタイプもあります。
- おすすめな人:女性特有の病気が心配な方、特に妊娠・出産を考えている方などにおすすめです。
引受基準緩和型保険
引受基準緩和型保険は、持病や既往症がある方でも加入しやすいように、告知項目を簡素化している医療保険です。
- 特徴:通常の医療保険では加入が難しい方でも、「はい」「いいえ」で答えられる3~5個程度の簡単な告知項目をクリアできれば加入できる場合があります。
- デメリット:加入しやすい分、保険料は通常の医療保険よりも割高に設定されています。また、加入後1年間は給付金が半額になるなどの支払削減期間が設けられていることが一般的です。
- おすすめな人:過去の病気が原因で保険加入を諦めていた方や、現在治療中の方でも、選択肢の一つとして検討できます。
無選択型医療保険
無選択型医療保険は、医師の診査や健康状態の告知が一切不要で加入できる医療保険です。
- 特徴:年齢などの条件を満たしていれば、健康状態にかかわらず誰でも加入できます。
- デメリット:保険料は引受基準緩和型よりもさらに割高になります。また、保障の対象外となる特定の病気(既往症など)が定められていたり、加入後一定期間は保障がなかったりと、保障内容に多くの制約があります。
- おすすめな人:引受基準緩和型保険にも加入できなかった場合の最終手段として考えられる保険です。
生命保険の種類と違い
生命保険も、医療保険と同様にいくつかの種類に分けられます。保障期間や貯蓄性の有無によって、それぞれ特徴が異なります。自分や家族のライフプランに合わせて、最適なものを選びましょう。
定期保険
定期保険は、保険期間が「10年間」や「65歳まで」など、一定期間に定められている生命保険です。
- 特徴:「掛け捨て型」とも呼ばれ、貯蓄性はなく、保障に特化しています。満期を迎えても満期保険金はありません。
- メリット:貯蓄性がない分、後述する終身保険や養老保険に比べて、非常に安い保険料で大きな保障を確保できます。
- デメリット:保険期間が終了すると、保障もなくなります。更新は可能ですが、保険料は更新時の年齢で再計算されるため高くなります。
- おすすめな人:子どもがまだ小さく、教育費などがかかる期間だけ、手厚い死亡保障が必要な子育て世代の方に最適です。合理的に必要な期間だけ大きな保障を備えたい方に向いています。
終身保険
終身保険は、保障が一生涯続く生命保険です。
- 特徴:解約しない限り、いつ亡くなっても死亡保険金が支払われます。また、保険料の払込期間を過ぎると、支払った保険料総額を上回る解約返戻金を受け取れる商品が多く、貯蓄性も兼ね備えています。
- メリット:一生涯の保障を確保できる安心感があります。また、解約返戻金を子どもの教育資金や老後資金として活用することも可能です。
- デメリット:保障が一生涯続き、貯蓄性もあるため、定期保険に比べて保険料は割高になります。
- おすすめな人:自分の葬儀費用やお墓代など、家族に迷惑をかけないための整理資金を準備したい方や、保障を確保しつつ、将来のための資産形成も行いたい方に向いています。
養老保険
養老保険は、「保障」と「貯蓄」の両方の性質を強く持つ生命保険です。
- 特徴:保険期間中に死亡した場合は死亡保険金が支払われ、無事に満期を迎えた場合は、死亡保険金と同額の「満期保険金」が受け取れます。生死にかかわらず、必ず保険金を受け取れるのが最大の特徴です。
- メリット:計画的にお金を貯めながら、万が一の保障も確保できます。
- デメリット:保障と貯蓄を両立している分、保険料は定期保険や終身保険に比べて非常に高額になります。現在の低金利下では、貯蓄性としての魅力は以前よりも薄れている側面もあります。
- おすすめな人:明確な目的(例:15年後の子どもの大学入学資金)のために、確実に資金を準備したい方で、かつ保険料の負担に十分な余裕がある方に向いています。
収入保障保険
収入保障保険は、被保険者が死亡または高度障害状態になった場合に、保険期間が満了するまでの間、毎月お給料のように年金形式で保険金が支払われる保険です。
- 特徴:定期保険の一種ですが、保険金の受け取り方が異なります。保険期間の経過とともに、受け取れる保険金の総額が減っていく仕組みになっています。例えば、保険期間30年で加入し、10年後に亡くなった場合、残りの20年間、毎月保険金が支払われます。
- メリット:必要な保障額が時間とともに減少していく(子どもの成長など)という現実に即した合理的な仕組みのため、同程度の保障額を定期保険で確保するよりも保険料を安く抑えられます。
- デメリット:一括で保険金を受け取ることも可能ですが、その場合は年金で受け取る総額よりも少ない金額になります。
- おすすめな人:子育て世代など、万が一の際に遺族の毎月の生活費を確実に保障したいと考えている方に最も適した保険の一つです。
医療保険と生命保険はセットでの加入がおすすめ?
ここまで、医療保険と生命保険の違いや種類について解説してきました。では、この二つの保険には、両方とも加入すべきなのでしょうか。それとも片方だけで良いのでしょうか。「セットで加入するのが当たり前」と考える前に、それぞれの必要性を自分の状況に当てはめて検討することが大切です。
結論から言うと、「備えるべきリスクが異なるため、多くの人にとって両方の必要性を検討する価値がある」と言えます。しかし、最終的な選択は、個人のライフステージや家族構成、貯蓄額によって変わってきます。
- 両方に加入した方が良い人
- 扶養家族がいる会社員や自営業者(特に子育て世代)
- このタイプの人は、自分自身の病気やケガによる収入減・医療費増というリスク(医療保険でカバー)と、自分に万が一のことがあった場合に遺された家族の生活が困窮するリスク(生命保険でカバー)の両方に備える必要があります。両方の保険に加入するメリットは、非常に大きいと言えるでしょう。
- 医療保険を優先的に検討すべき人
- 独身の方、扶養家族がいない方
- 扶養家族がいない場合、高額な死亡保障の必要性は低いと考える人が少なくありません。そのため、生命保険はいらないと考える人も多いでしょう。しかし、病気やケガで働けなくなった場合の医療費や生活費は、自分自身で賄わなければなりません。特に貯蓄が少ないうちは、まずは自分のための医療保険を優先して確保するのが賢明です。
- 生命保険を優先的に検討すべき人
- 貯蓄は十分にあるが、確実に家族にお金を遺したい人
- 十分な貯蓄があり、医療費の支払いに不安がない場合、医療保険はいらないと判断することも可能です。その一方で、遺された家族への生活保障や、相続税対策として、現金ではなく生命保険という形で資産を遺したい場合には、生命保険の必要性が高まります。
- どちらも不要な可能性が考えられる人
- 独身で、万が一の際も困らないほどの十分な資産がある人
- 公的保障制度と自身の貯蓄だけで医療費を十分にカバーでき、かつ扶養家族もおらず、誰かにお金を遺す必要もないという場合は、民間の保険が不要なケースもあります。ただし、将来ライフステージが変化する可能性も考慮して慎重に判断する必要があります。
医療保険と生命保険は、それぞれ守る対象と目的が全く異なる、車の両輪のような存在です。どちらか一方だけでは、人生におけるすべてのリスクをカバーすることはできません。
自分のライフプランを具体的に描き、どのようなリスクに、どのくらいの期間、いくら備えるべきなのかを考えることが、最適な保険選びの第一歩です。もし判断に迷う場合は、保険会社の担当者やファイナンシャルプランナー、保険ショップなどの専門家に相談し、客観的なアドバイスを求めるのも良いでしょう。
まとめ
この記事では、医療保険と生命保険の基本的な違いから、それぞれの保険の種類、そしてどのような人が加入を検討すべきかについて詳しく解説しました。
- 医療保険は「自分のため」の保険であり、病気やケガによる医療費の負担に備えるものです。
- 生命保険は「家族のため」の保険であり、万が一の際に遺された家族の生活を守る役割を果たします。
両者は保障するリスクが異なるため、多くの方にとって、それぞれの必要性を理解し、自身のライフステージや家族構成に合わせてバランス良く備えることが重要です。この記事が、あなたの保険選びの一助となれば幸いです。