※コロナ禍前の体験談です
妊婦健診へ向かっていたある日
長男妊娠時、私の通っていた産婦人科は自宅から少し離れたところにありました。電車だと片道20分近くかかります。電車内が人でぎゅうぎゅうになることはないのですが、私が乗降車する間はだいたい電車の座席は埋まっている状態。おなかが大きくなると往復で40分近く立っているのがつらかったので、妊娠8カ月ごろからは夫の車で妊婦健診に通っていました。
ただ、ちょうどその日は夫に仕事の予定が入ってしまい、私は妊婦健診に電車で行くことに。駅に電車が到着し、電車のドアが開く前「どうか席が空いていますように」と祈っていました。
座席はすべて埋まっていた
車内に足を踏み入れ辺りを見回すと、座席はすべて埋まっていました。座っている人の前に立っている人も半分ほどいます。「しょうがないか」と優先席前に移動することに。3人がけの優先席には、お年寄りの方2人とヘッドホンで音楽を聞いている若い男性がすでに座っていました。
私自身も、気分が悪いわけでも立っているのが苦痛なほどおなかが重いわけでもなかったので、そのまま優先席の前に立ち、席が空くのを待っていました。
女子高生の行動に心があたたかくなった
電車が動き出してすぐ、「あの」という声が聞こえました。すぐ隣には高校の制服を着た女の子が。「あの、よかったら座ってください」と女の子は少し離れた席を指さしました。指さされた席には女の子のかばんらしきものが置かれてありました。
「ありがとうございます」とお礼を言い、その指さされた席に向かいました。女の子はさっと自分のかばんを取って、「どうぞ」と言うと、席とは少し離れたドアの近くに立ちました。
離れた場所から声をかけるのは、とても勇気がいる行動だったと思います。私には、少し照れくさそうに立つその女の子の背中が、とてもあたたかく輝いてみえました。
電車に乗ると、私はそのときの女の子の背中を思い出します。すると、とても心にやさしい気持ちがわきあがってきます。そのときおなかにいた子も、今はもう3歳に。いつかこの子も大きくなったら誰かに手をさしのべられるようになってほしいなと思います。そしてそのためにも、私自身が困っている人には声をかけるようにしないと……と思う今日このごろです。
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監修/助産師 松田玲子
著者:菅谷里奈
一女、二男の母。現在第四子目妊娠中。ベビーマッサージインストラクター、ベビーヨガインストラクター、ベビーシッターの資格所得。子育て経験を活かしながら、妊娠・出産・子育てに関する記事を中心に執筆中。