こんにちは。小児科医の保田典子です。朝起きられなくなり、学校に行けなくなるお子さんも多い「起立性調節障害」について、今回はお話したいと思います。
朝起きられないことは、大人からすると「怠け」とか「さぼり」に見えて、理解されないことが多いです。きちんと大人の理解がある子ほど順調に治る可能性が高いので、まずはこういう病気があることを多くの親御さんに知っていただき、しっかり理解してほしいなと思います。
小学生にも起こる「起立性調節障害」とは?
「起立性調節障害」は略して「OD(Orthostatic dysregulation)」と言われ、思春期特有の病気の一つです。思春期のお子さんはそのホルモンバランスから、夜遅くまで起きて朝起きにくい状況になります。それに加えて自律神経の異常で、立っていることが難しい、起き上がると脳の血流不足で頭痛やめまいがしたりしてしまいます。
そのため「朝なかなか起きられない」、「目が覚めても頭痛や腹痛がして寝床から出られない」、「起きてから時間が経たないと食事が出来ない」、「午前中は気分が優れず、午後になると元気が出てきて、夜なかなか眠れない」といった症状により、ひどいと不登校になってしまったりします。
小学生の約5%、中学生の約10%にODを認めるともいわれており、不登校の3~4割がODを併存していると考えられています。圧倒的に中学生に多い病気ですが、小学校高学年くらいからODの症状がある子もいます。
よくある症状は?
起立性調節障害は、男の子よりも女の子のほうが少し多いと言われています。朝起きられない、頭痛がする、吐き気がする、めまいがする、腹痛があるなどの症状がありますが、なかでも「親が起こそうとすると暴言を言ったり、人が変わったようになる、そしてその時の記憶がまったくない」、「午前中と夜で人格が変わったように違う」などと表現される患者さんが多いです。
また、起きることができても頭がぼーっとして頭が働かないことが多いようで、勉強などもまったく身が入らない患者さんが多くいらっしゃいます。そのため起きていても、なかなか体を動かしたり勉強することなどが困難になります。
親からすると「せっかく起きたのに学校に行かない」、「午後になってラクになったように見えるのに勉強すらしない」ように見えてしまいます。
生活習慣の改善と、周囲の理解が大切です
起立性調節障害の治療としてはまず、生活習慣の改善をおこないます。起立性調節障害のお子さんは血液量が少ないので、血液量を増やすために水分と塩分を多めに摂るようにする、無理ない範囲で運動するなどを心がけます。それでも体調が優れない時は投薬治療などを行います。今の時点で医学的には、サプリメントなどは明らかな効果はないと言われています。
その上で大事なのは、親をはじめとする周囲の理解です。心理的ストレスも病状に大きく関わってくるため、怠けやさぼりと思って接していると、病状の回復に影響がでることも考えられます。
不登校になりやすいこの病気。「本人がつらくて行けないんだ、怠けていて行けないんじゃないんだ」ということを周囲がきちんと理解して接してあげることがとても大切です。
診療している実感として、体調が良くなってから実際に登校できるようになるまで、少し時間がかかる印象があります。その間、親御さんとしてはもどかしい気持ちになると思いますが、そんな時こそ寄り添ってあげてほしいなと思っています。
正しい診断と正しい対処でストレスの少ない療養生活を!
この2、3年で起立性調節障害は多くの人に認知されるようになりました。理解が進むのはとても良いことですが、起立性調節障害の症状はほかの病気が隠れていることもあります。症状で起立性調節障害とすぐ判断するのではなく、きちんと他の病気も考慮に入れて診断していくことが大切です。
起立性調節障害は、すぐに良くなる病気ではありません。親御さんや周りの人たちは、苦しんでいるお子さんを理解し、まずは寄り添ってあげてください。しっかり治療を行って、より早く回復する手助けができると良いですね。