子どもの将来の教育資金を計画的に準備する方法として、多くの家庭で検討される「学資保険」。その保険料の支払い方法には、毎月コツコツ支払う「月払い」のほかに、まとまった金額を一度に支払う「一括払い」という選択肢があります。
「一括で支払うと保険料が安くなるらしいけど、本当に得なの?」「まとまったお金を払うのは少し不安…」
このように、学資保険の一括払いを検討しつつもメリットやデメリットが分からず迷っている方も多いのではないでしょうか。
この記事では「学資保険の一括払い」を検討している方に向けて、一括払いの仕組みからメリット・デメリット、そして「本当に一括払いが得なのか」を具体的なシミュレーションを交えて徹底解説します。
この記事を読めば、ご自身の家庭にとって一括払いが最適な選択肢なのか、自信を持って判断できるようになるでしょう。
学資保険の一括払いとはどんな払込方法?
まず、学資保険の一括払いがどのような支払い方法なのか、基本的な部分から理解を深めていきましょう。他の支払い方法との違いを知ることで、一括払いの特徴がより明確になります。
学資保険の保険料の支払い方法の種類
学資保険の保険料の支払い方法(払込方法)には、いくつかの種類があります。そして一般的に、保険料をまとめて支払ったほうが支払う保険料の総額は安くなる傾向にあります。
- 月払い:毎月、保険料を支払う最も一般的な方法。1回あたりの負担は少ないですが、総支払額は他の方法より高くなります。
- 半年払い:半年に一度、6カ月分の保険料をまとめて支払う方法。月払いより総支払額が少し安くなります。
- 年払い:年に一度、12カ月分の保険料をまとめて支払う方法。月払いや半年払いよりも総支払額は安くなります。
- 全期前納払い:保険期間の全期間分の保険料を、契約時に保険会社に「預ける」方法。保険会社は預かったお金を毎年、保険料に充当していきます。
- 一括払い(一時払い):保険期間の全期間分の保険料を、契約時に「全額支払ってしまう」方法。保険会社に預ける全期前納払いとは異なり、支払いが完了します。
これらの支払い方法の中で、最も保険料の割引率が高く、総支払額が安くなるのが「一括払い(一時払い)」です。保険会社は、将来にわたって受け取るはずの保険料を先に受け取ることで、その資金を長期間運用できます。その運用益の一部が契約者に還元されるため、保険料が割り引かれるのです。
一括払い(一時払い)と全期前納払いの違い
「一括払い」と「全期前納払い」はどちらも契約時にまとまったお金を用意する点で似ていますが、その性質は大きく異なります。この違いを理解しておくことが、非常に重要です。
項目 | 一括払い(一時払い) | 全期前納払い |
お金の性質 | 保険料として全額支払いが完了 | 保険料を保険会社に預けている状態 |
保険料の充当 | 契約時に全額充当済み | 毎年(または毎月)預けたお金から保険料が充当される |
契約者死亡時 | 払込免除の対象外(既に払い終わっているため) | 払込免除の対象。未払込期間の保険料は支払いが免除され、預けたお金(未経過保険料)は返還される。 |
生命保険料控除 | 支払った初年度のみ対象 | 毎年、その年に充当された保険料額が控除の対象 |
解約時 | 解約返戻金が支払われる(元本割れの可能性あり) | 解約返戻金+預けたお金(未経過保険料)が返還される |
最も大きな違いは、「一括払い」は契約時にすべての保険料を支払い終えてしまうのに対し、「全期前納払い」はあくまで保険料を保険会社に預けているだけで、支払いは毎年継続していると見なされる点です。
この違いが、後述するデメリット(保険料払込免除特約や生命保険料控除)に大きく関わってきます。単純に「まとまったお金を最初に払う」という点だけで判断せず、この仕組みの違いをしっかりと理解しておきましょう。
学資保険を一括払いするメリット
では、学資保険の保険料を一括払いすることには、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、主な2つのメリットを解説します。
保険料が安くなり返戻率が高くなる
一括払いの最大のメリットは、保険料の総額が他の支払い方法に比べて大幅に割り引かれることです。
前述の通り、保険会社は長期間分の保険料をまとめて受け取ることで、効率的な資金運用が可能になります。その運用益が契約者に還元されるため、月払いや年払いよりも支払う保険料総額が安くなるのです。
支払う保険料が安くなるということは、受け取る満期学資金が同じであれば「返戻率(へんれいりつ)」が高くなることを意味します。返戻率とは、支払った保険料総額に対して将来受け取れる満期学資金や祝い金の総額がどれくらいの割合になるかを示す数値です。
返戻率(%) = 受け取る学資金の総額 ÷ 支払う保険料の総額 × 100
例えば、総額200万円の学資金を受け取るプランで考えてみましょう。
- 月払いの場合:支払う保険料の総額が205万円だとすると、返戻率は約97.5%
- 一括払いの場合:支払う保険料の総額が190万円に割引されると、返戻率は約105.2%
このように一括払いを選択するだけで返戻率が大きく向上し、貯蓄性が高まります。現在の低金利下では、月払いでは元本割れ(返戻率100%未満)する学資保険も少なくありません。そのような状況の中で、一括払いは返戻率100%超えを目指せる有効な手段と言えるでしょう。
確実に教育資金を準備できる
2つ目のメリットは、教育資金を確実に準備できるという安心感です。
月払いや年払いの場合、保険料の払込期間は10年〜18年と長期にわたります。その間に、家計の状況が変化し、保険料の支払いが困難になる可能性もゼロではありません。万が一、途中で保険料が払えなくなり解約せざるを得ない場合、支払った保険料よりも少ない金額しか戻ってこない「元本割れ」のリスクが高まります。
しかし一括払いであれば、契約時にすべての保険料を支払い終えているため、その後の家計状況の変化に左右される心配がありません。「途中で払えなくなるかも」という不安から解放され、子どもの進学時期に合わせて確実に学資金を受け取れる点は、精神的にも大きなメリットです。
将来の収入変動が読みにくい自営業の方や、一度に手続きを済ませてしまいたい方にとっても、一括払いは魅力的な選択肢となるでしょう。
学資保険を一括払いするデメリット
魅力的なメリットがある一方で、一括払いには慎重に検討すべきデメリットも存在します。メリットだけでなく、デメリットもしっかりと理解した上で判断することが重要です。
加入時にまとまった金額が必要になる
当然ですが、一括払いをするためには契約時に保険料の全額を支払えるだけのまとまった貯蓄が必要です。
学資保険で準備する金額は、200万円〜300万円が一般的です。一括払いの場合、割引が適用されるとはいえ、それに近い180万円〜280万円程度の資金を一度に支払うことになります。
子どもの誕生前後は、出産費用やベビー用品の購入など何かと物入りな時期です。そのようなタイミングで手元の貯蓄の大部分を学資保険に充ててしまうと、急な病気やケガ、失業といった不測の事態に対応できなくなる可能性があります。
一括払いを選択する場合は、支払った後も生活防衛資金(一般的に生活費の半年〜1年分)が十分に手元に残るかを必ず確認しましょう。資金に余裕がない場合は、無理をせず月払いや年払い、あるいは頭金として一部を支払い、残りを月払いにするといった方法も検討してみてください。
契約者の死亡時の特約が使えない
これは、一括払いにおける最も重要なデメリットと言っても過言ではありません。
多くの学資保険には、「保険料払込免除特約」が付いています。これは、契約者(主に親)が死亡または高度障害状態になった場合に、それ以降の保険料の支払いが免除され、保障(満期学資金)は予定通り受け取れるという特約です。万が一のことがあっても、子どもの教育資金を確保できる、保険ならではの重要な機能です。
しかし、一括払い(一時払い)の場合、契約時にすでにすべての保険料を支払い終えているため、この「保険料払込免除特約」の恩恵を受けることができません。契約後すぐに契約者が亡くなったとしても、支払った保険料が返ってくるわけではないのです。
一方、前述の「全期前納払い」はまだ支払いが完了していない(預けているだけ)と見なされるため、保険料払込免除特約の対象となります。万が一の際には、以降の保険料支払いが免除され、さらにまだ充当されていない前納保険料が返還されます。
「万が一の際の保障を手厚くしたい」と考える家庭にとっては、一括払いは不向きな選択肢と言えるでしょう。
解約しても保険料が全額返還されない可能性がある
「一括で払ったのだから、もし解約したら全額戻ってくるのでは?」と考える人もいますが、そうとは限りません。
学資保険を途中で解約した場合に戻ってくるお金を「解約返戻金」と言います。一括払いの場合でも、特に契約から早い段階で解約すると、支払った保険料の総額よりも解約返戻金の額が少なくなる「元本割れ」を起こす可能性は否定できません。
保険会社は、契約の維持や運用にかかる費用を保険料から差し引いています。そのため、早期に解約されるとそれらの費用を回収できず、支払った全額を返すことができないのです。
もちろん、これは月払いや年払いでも同様ですが、一括払いは一度に大きな金額を投じているため、元本割れした場合の損失額も大きくなります。契約する際は、「満期まで絶対に解約しない」という強い意志と、それが可能な資金計画が必要です。
生命保険料控除が一度しか利用できない
生命保険料を支払っていると、年末調整や確定申告で「生命保険料控除」という制度を利用でき、所得税や住民税が軽減されます。
月払いや年払いの場合、保険料を支払っている期間中(例えば18年間)、毎年この控除を受けることができます。
しかし一括払いの場合は、保険料を支払った初年度しか生命保険料控除を利用できません。2年目以降は支払う保険料がないため、控除の対象外となってしまいます。
1年あたりの控除額には上限がありますが、それが10年、15年と続けば、トータルの節税額は数十万円になることもあります。一括払いにすることで、この長期的な節税メリットを失ってしまうのです。この点は、後ほどのシミュレーションで詳しく解説します。
なお、「全期前納払い」の場合は毎年保険料が充当されるため、毎年控除の対象となります。税金の面でも、一括払いと全期前納払いには大きな違いがあることを覚えておきましょう。
学資保険の一括払いがおすすめの家庭とは
メリット・デメリットを踏まえた上で、どのような家庭が一括払いに向いているのか、また向いていないのかを整理してみましょう。
一括払いが向いている家庭
- 手元の資金に十分な余裕がある家庭
- 保険料を支払った後も、生活防衛資金や他のライフイベント(住宅購入など)のための資金が確保できていることが大前提です。
- 祖父母などから教育資金としてまとまった援助を受けた家庭
- 贈与された資金の使い道として、確実に教育資金に充てることができます。ただし、贈与税については後述の注意点を必ず確認してください。
- 返戻率を最大限に高めたい家庭
- とにかく貯蓄性を重視し、1円でも多く増やしたいと考えている場合、一括払いは最も効率的な方法です。
- 保険料払込免除特約を重視しない家庭
- すでに他の生命保険で十分な死亡保障を確保しており、学資保険にまで保障機能を求めない場合に適しています。
- 今後の収入変動リスクに備えたい自営業者などの家庭
- 収入が不安定になる可能性があるため、払えるうちに支払いを完了させておきたいというニーズに合致します。
一括払いに向いていない家庭
- 手元の貯蓄に余裕がない家庭
- 無理して一括払いをすると、家計が破綻するリスクがあります。月払いや年払いでの計画的な積み立てが堅実です。
- 契約者の万が一の保障を重視する家庭
- 「保険料払込免除特約」を有効に活用したい場合は、一括払いではなく月払いや年払い、あるいは全期前納払いを選ぶのが賢明です。
- 毎年の生命保険料控除による節税効果を重視する家庭
- 長期的に税金の負担を軽くしたい場合は、毎年控除を受けられる月払いや年払いの方がメリットが大きくなります。
- 近い将来、大きな支出の予定がある家庭
- 住宅購入の頭金や車の買い替えなど、数年以内にまとまったお金が必要になる可能性がある場合、手元資金を固定してしまう一括払いは避けた方が賢明です。
学資保険の一括払いは本当にお得?金額シミュレーション
「保険料の割引」と「税金のデメリット」、結局どちらの影響が大きくて、一括払いは本当にお得なのでしょうか?
ここで、具体的なモデルケースを使って、月払いと一括払いのどちらが最終的に手元に残るお金が多くなるのかをシミュレーションしてみましょう。
【シミュレーション条件】
- 保険商品:一般的な貯蓄型学資保険(特定の保険会社の商品ではありません)
- 契約者:30歳男性
- 被保険者(子ども):0歳
- 満期学資金:18歳満期で200万円
- 保険料払込期間:18年
- 契約者の所得税率:10%
- 契約者の住民税率:10%(一律)
【シミュレーション結果】
項目 | ① 月払いの場合 | ② 一括払い(一時払い)の場合 | 差額(② – ①) |
月々の保険料 | 9,500円 | – | – |
年間の保険料 | 114,000円 | – | – |
支払う保険料の総額 | 2,052,000円 | 1,900,000円 | -152,000円 (一括払いが得) |
返戻率 | 97.5% | 105.3% | +7.8% |
生命保険料控除(年間) | |||
所得税の控除額 | 40,000円 | 40,000円(初年度のみ) | – |
住民税の控除額 | 28,000円 | 28,000円(初年度のみ) | – |
年間の節税額 | (4万円×10%) + (2.8万円×10%) = 6,800円 | (4万円×10%) + (2.8万円×10%) = 6,800円(初年度のみ) | – |
控除期間 | 18年間 | 1年間 | -17年 |
節税額の総額 | 6,800円 × 18年 = 122,400円 | 6,800円 × 1年 = 6,800円 | -115,600円 (月払いが得) |
【最終的なお得額の比較】 | |||
支払保険料の差額 | – | – | 152,000円(一括払いのメリット) |
総節税額の差額 | – | – | 115,600円(月払いのメリット) |
実質的な差額 | – | – | 152,000円 – 115,600円 = 36,400円 |
【シミュレーションの結論】
このケースでは、支払う保険料の割引額(152,000円)が、失われる節税メリット(115,600円)を上回りました。その結果、トータルで見ると一括払いの方が約36,400円お得という結果になりました。
ただし、これはあくまで一例です。
この結果は、以下の要因によって大きく変動します。
- 保険商品の割引率:一括払いの割引率が低い商品の場合、結果が逆転することもあります。
- 契約者の所得税率:所得税率が高い(収入が多い)人ほど、生命保険料控除による節税額が大きくなります。例えば所得税率が20%の人の場合、月払いの総節税額は(8,000円+2,800円)×18年=194,400円となり、一括払いとの差額は187,600円に拡大。この場合、支払保険料の割引額(152,000円)を上回り、月払いの方がお得になります。
つまり、「一括払いが金銭的に得かどうか」は、保険商品の内容と契約者自身の所得によって変わるというのが答えです。単純に「一括払いは返戻率が高いからお得」と決めつけず、ご自身の状況に合わせたシミュレーションを行うことが重要です。
孫の学資保険を一括払いすると贈与税がかかる?
子どもの教育資金として、祖父母が孫のために学資保険の保険料を援助してくれるケースも少なくありません。その際に「一括払い」を選択する場合、注意したいのが「贈与税」です。
結論から言うと、契約の仕方によっては、高額な贈与税がかかる可能性があります。
税金の種類は、「契約者(保険料を支払う人)」「被保険者(保険の対象になる人=子ども・孫)」「受取人(学資金を受け取る人)」が誰であるかによって決まります。
【贈与税がかかる可能性が高いケース】
最も注意が必要なのが、祖父母が契約者となり、保険料を一括で支払い、満期学資金の受取人を親または孫にするケースです。
- 契約者:祖父
- 被保険者:孫
- 受取人:親または孫
この場合、満期学資金を受け取るタイミングで、「祖父から親(または孫)へのお金の贈与」とみなされ、受け取った満期学資金の全額(例えば200万円)が贈与税の課税対象となる可能性があります。
贈与税には年間110万円の基礎控除がありますが、満期金がそれを超える場合や同じ年に他の贈与を受けていた場合には、贈与税を支払う必要が出てきます。
贈与税を回避するための契約形態
祖父母からの資金援助で学資保険に加入する場合、贈与税を回避するためには以下の契約形態が一般的です。
- 契約者:親
- 被保険者:子ども
- 受取人:親
この形であれば、あくまで親が契約して親が受け取るため、贈与税は発生しません。
祖父母からの援助は、「親に対して行われたもの」として扱います。祖父母から親への資金援助は、年間110万円の暦年贈与の範囲内であれば贈与税はかかりません。その援助されたお金を使って、親が自分名義で学資保険の保険料を一括払いする、という流れが最もシンプルで安全です。
祖父母からの援助を受ける際は税金の問題も関わってくるため、安易に契約を進めるのではなく、ファイナンシャルプランナーや税理士などの専門家に相談することも検討しましょう。
まとめ:学資保険の一括払いは、メリット・デメリットを天秤にかけて慎重に判断を
今回は、学資保険の一括払いについて、その仕組みからメリット・デメリット、そして本当に得なのかについて詳しく解説しました。
【学資保険一括払いのポイント】
- メリット
- 支払う保険料総額が安くなり、返戻率が大幅にアップする。
- 支払いを一度で終えるため、将来の家計変動リスクがなく、確実に教育資金を準備できる。
- デメリット
- 契約時にまとまった資金が必要。
- 契約者が死亡しても保険料が免除される「保険料払込免除特約」が適用されない。
- 生命保険料控除が初年度しか使えず、長期的な節税メリットを失う。
シミュレーションの結果からも分かるように、「一括払いが絶対にお得」とは一概には言えません。金銭的な損得は、保険商品の割引率や契約者の所得によって変わります。
最も重要なのは、金額の損得勘定だけで判断しないことです。特に「保険料払込免除特約」が使えなくなるという保障面のデメリットは、一括払いの割引額という金銭的メリットと比較してどちらを重視するかを家庭でよく話し合う必要があります。
ご自身の家庭の貯蓄状況や将来のライフプラン、そして保険に何を求めるのかを総合的に考え、一括払いが本当に最適な選択肢なのかを慎重に見極めてください。
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学資保険は、ソニー生命、日本生命、明治安田生命など、さまざまな保険会社から特徴の異なる商品が販売されています。返戻率の高いもの、保障が手厚いものなど、ご自身のニーズに合った学資保険を見つけることが大切です。
どの学資保険を選べば良いか迷ったら、複数の商品を比較検討してみることをおすすめします。