はじめに 「のし」が必要な理由
1-1.そもそも「のし」とは何か?
結婚内祝いの準備をしていると、「のしはどうしたらいいんだろう?」と疑問に思う方が少なくありません。「のし」とは、伝統的にはお祝い事の贈答品に付ける飾り紙(のし紙)に描かれている「熨斗(のし鮑〈あわび〉)」の意匠と、水引(みずひき)を指すものです。
日本には古くから「のし鮑」を添えて贈り物をする習慣があり、鮑は昔から縁起物として重宝されていました。現代では紙に描かれた「のしマーク」として定着していますが、これは「おめでたい席の正式な贈り物である」ことを示すシンボルのような役割を果たしています。
1-2.結婚内祝いと「のし」の関係
結婚内祝いは、結婚祝いをいただいた方へのお礼や感謝を伝えるために贈るもの。したがって、結婚という人生の一大イベントに対して“きちんとした形”でお返しをする意味でも、「のし」を付けて贈るのが一般的です。
「のしを付ける=フォーマルな贈答品である」という認識が根づいていますので、カジュアルな包装やラッピングを好む方であっても、結婚内祝いの場面ではしっかりと「のし紙」を選び、表書きや名前書きなどのマナーに則った形でお渡しすると間違いがありません。
特に、目上の方や親族への結婚内祝いには必須とも言えるマナーです。もし「オシャレなラッピングにこだわりたい」という場合は「内のし」にするなど、後述する方法で工夫が可能です。
2.「のし紙」とは? 水引の種類と選び方
2-1.のし紙の構造
のし紙は主に、上部に「のしマークと水引」、中央~下部に「表書きや贈り主の名前」を書くための余白がある紙のことです。これを贈り物にかけることで、「これは正式なお祝い品です」という意思表示になるわけです。
- のしマーク(のし鮑)
紙の右上あたりに印刷された簡易的な飾り。昔は本物の干した鮑を包んだものを付けたといわれますが、現在は印刷で代用するのが一般的です。 - 水引(みずひき)
紙縒り(こより)を結んで作られる飾り紐で、結び方や色によって意味合いが異なります。結婚内祝いの場合は主に「紅白の結び切り」が用いられます。
2-2.結婚内祝いは「紅白の結び切り」が原則
お祝い事全般で用いる水引には、主に「蝶結び(花結び)」と「結び切り」という二大ジャンルがあります。
- 蝶結び(花結び)
何度でも解いて結び直せることから、出産や入学など「繰り返しあっても嬉しい」お祝いに使います。 - 結び切り
いったん結んだらほどけない形で、二度繰り返してほしくない(例:快気祝い、弔事など)の場面で用いられます。結婚も一度きりが良いとされるため、「結び切り」の水引が適切です。
結婚祝いに「蝶結び」を用いると、「何度も結婚を繰り返す」という印象にもなりかねないため避けるのが一般的。加えて、結婚は華やかな場であるため、紅白(もしくは金銀)の結び切りがふさわしいとされています。
2-3.水引の本数と色合い
- 本数: 水引の本数は5本または10本(5本×2セット)など奇数を基本にしますが、近年の印刷のし紙では見た目が10本に見えるものなどバリエーションがあります。結婚の場合は一般的に「紅白5本結び切り」、または「紅白10本結び切り」がよく使われます。
- 色合い: 結婚の場面では紅白が定番ですが、関西地方など一部の地域では金銀の結び切りが用いられる場合も。地域や家によって異なる習慣があるので、両親や年配の方に確認できるなら相談しておくと安心です。
3.表書きの基本:何を書く? どう書く?
3-1.「内祝」or「寿」? 表書きの選び方
のし紙の上段(水引の上)に書かれる言葉を「表書き」と呼びます。これは「何のお祝いなのか、何を目的に贈っているのか」を示すものです。結婚内祝いの場合、一般的には以下のいずれかを使用します。
- 内祝
元来、「内祝い」は“家の内側のお祝いごとを分かち合う”という意味を持つ言葉。現在では「お祝いに対するお返し」として使われるケースが多いですが、のし紙の表書きではシンプルに「内祝」と記すのが定番です。 - 寿
結婚式の引き出物などにもよく使われる言葉。「内祝」よりも華やかで祝い事らしい響きがあるため、カジュアルに「寿」と表書きするカップルもいます。
どちらを選んでもマナー違反ではありませんが、結婚のお祝いへの返礼であることをより明確に示したいなら「内祝」がオーソドックスです。一方、伝統的な結婚式などでは「寿」の表記も広く受け入れられています。地域や家の慣習に合わせるか、自分たちの好みで決めても問題ありません。
3-2.注意したい表記の例
- 「御祝」や「御礼」
よく市販ののし袋に印刷されている「御祝」は、結婚祝いを贈るときに使う表書きです。結婚内祝いの場合は、あくまで“お返し”なので「御祝」とはしません。また「御礼」も目上に使いやすい言葉ですが、結婚内祝いに限って言えば、やはり「内祝」か「寿」を選ぶのが一般的です。 - 英語表記
海外の方へ結婚内祝いを送るときなどに英語を使う場合もありますが、のし紙自体は日本式であれば、表書きも日本語がベター。どうしても英語にしたい場合は「Wedding Gift」「Wedding Return Gift」などと書く例もありますが、日本在住の方なら日本語のほうが分かりやすいでしょう。
4.名前(贈り主)の書き方:新郎新婦の連名が基本
4-1.のし紙の下段に書くのは「誰の名前」?
結婚内祝いののし紙では、水引の下部中央に「贈り主の名前」を記します。ここで多くの方が迷うのが、「新姓のみ? 旧姓も入れる? 連名はどうする?」といった問題です。
- 原則として新姓で
結婚後の苗字(姓)が変わった場合、内祝いを贈るタイミングでは新姓を使うのが正式なマナーです。旧姓しか知らない相手に対しては、メッセージカードなどで「旧姓:○○」と補足すればよいでしょう。 - 新郎新婦の連名
一般的には「苗字+新郎のフルネーム+新婦のファーストネーム」という形、あるいは「新姓(苗字)を一度だけ書き、新郎・新婦の下の名前を並べる」形が多いです。
例)「山田 太郎 ・ 花子」 など。
4-2.連名の書き方のバリエーション
- 新郎フルネーム+新婦ファーストネーム
例:「山田 太郎 花子」
新郎の名前を先に書き、新婦の名前をやや小さめ・少し下げて書くスタイル。 - 新姓+新郎新婦の名前を並列
例:「山田 太郎・花子」
苗字は一度だけ書き、新郎新婦の名前を続ける。二人を対等に扱いたい場合に選ばれることが多い。 - 新郎新婦ともフルネームを並べる
例:「山田 太郎 山田 花子」
これも誤りではありませんが、文字数が多いためバランスが崩れないよう注意。
4-3.旧姓を併記したい場合
職場の上司や同僚など、旧姓しか知らない方に内祝いを贈るケースでは「のし紙に旧姓を入れないと、誰からの贈り物かわからないのでは?」と心配になるかもしれません。しかし、結婚内祝いの正式なマナーとしては、のし紙には結婚後の新姓だけ書くのが基本です。
どうしても旧姓を伝えたい場合は、同封するメッセージカードで「旧姓:○○」と説明するとスマート。相手に混乱を与えないよう配慮しておきましょう。
5.内のし・外のしとは? かけ方の違いと使い分け
5-1.内のしと外のしの違い
- 内のし
品物に直接のし紙を掛け、その上から包装紙で包む。外から見えない形になるため、控えめで上品な印象を与える。「贈り物です!」と主張しすぎないので、結婚内祝いなどで配送する場合によく選ばれます。 - 外のし
品物を包装紙で包んだ上からのし紙を掛ける。受け取る相手がひと目で「のし付きの贈り物」と分かるため、手渡しの場面などで用いられることが多い。
5-2.結婚内祝いではどちらが主流?
結婚内祝いを配送する場合は、「内のし」で送るのが一般的です。特にギフトショップや百貨店に注文する際は、「結婚内祝いなので内のしでお願いします」と伝えればスムーズに対応してもらえます。
一方、「直接会って手渡しする相手」には外のしを選ぶのもあり。のし紙が外側に付いていると、その場で「ちゃんとした贈り物ですよ」とアピールできるため、マナー的にも問題ありません。地域や家の習慣によっては外のしを好むケースもあるので、ご両親や親戚に確認すると確実です。
5-3.迷ったらどうする?
「内のしと外のし、どっちが正解?」と迷う方も多いですが、どちらもマナー違反ではありません。結婚内祝いの場合、多くが配送になるので、結果的には内のしが選ばれることが多い、というだけです。相手の住む地域や状況に応じて、柔軟に選びましょう。
6.結婚内祝いの“のし”に関するよくある疑問Q&A
Q1.結婚内祝いで「のし無し」は絶対ダメ?
A.基本的に「のし無し」は避けるのが無難です。カジュアルなプレゼントなどではのしを付けないこともありますが、結婚内祝いは正式なお返しと考えられているため、きちんとのし紙を掛けた状態でお渡ししましょう。もしラッピングデザインを優先させたい場合でも「内のし」にすれば、包装の外観を損なわずにマナーを守れます。
Q2.海外在住の方に贈る場合ものしは必要?
A.日本式のマナーでは必要とされますが、海外の文化圏では「のし」の概念が理解されにくい場合もあります。日本在住の外国人なら、結婚内祝いとしての形を整える意味でのし紙を付けても良いでしょう。海外に住む方へ郵送する際は、包装材の重量や通関の問題もあるため、のしにこだわらずカードやリボンに切り替える方もいます。相手との関係性や国の習慣を考慮し、臨機応変に対応しましょう。
Q3.結婚の前後で「入籍日」や「挙式日」が異なるとき、のし紙に日付を入れる?
A.のし紙の表書きに日付を入れる必要はありません。 一部の引き出物や記念品で名入れ・日付入りが行われることはありますが、結婚内祝いの一般的なのし紙には日付は書きません。日付をどうしても入れたい場合は、のし紙ではなくメッセージカードや写真入りカードに「◯月◯日に挙式を無事に執り行いました」などと記載する方が自然です。
Q4.結婚内祝いを両親が代わりに贈る場合、のしの名前は両親?
A.原則として、「実際に結婚する本人(新郎新婦)の名前」を記載する**のが正式です。両親が手配や発送を代行する場合でも、のし紙に書く名義は新郎新婦連名が基本。贈り先が親戚や知人であれば、「○○家から贈ります」というニュアンスで両親の姓が出ることもあるかもしれませんが、一般的なマナーとしては新郎新婦名です。
Q5.のし紙の文字は手書きが必須? 印刷じゃダメ?
A.印刷でも問題ありません。 近年は百貨店やギフトショップで注文するとき、表書きや名前を印刷してくれるサービスが主流です。手書きにこだわりたい場合は筆ペンなどで丁寧に書いても良いですが、文字に自信がないなら印刷の方がバランス良く仕上がります。
7.結婚内祝いの“のし”を付けるときの実践ポイント
7-1.ショップや百貨店で依頼するとき
結婚内祝いの品物を百貨店やオンラインギフトショップで購入する場合、多くが「のしの種類」「名入れ方法」を選択できる仕組みになっています。
- のしの種類: 「結び切り/紅白」「表書き:内祝 or 寿」「内のし or 外のし」などを指定
- 名前印刷: 新郎新婦の連名にする場合はどのように表記したいか(例:山田 太郎 花子 など)を細かく伝える
店舗によっては結婚内祝い用のテンプレートが用意されているので、店員さんやサイトのフォームに沿って手続きすれば安心です。もし分からない点があれば、遠慮なく質問してみましょう。
7-2.自宅で包装する場合
自分で包装紙を買ってラッピングし、のし紙を掛けるケースもあるかと思います。
- のし紙のサイズ: 品物の大きさに合ったのし紙を選ぶ。大きすぎたり小さすぎたりすると見栄えが悪い。
- 文字の書き方: 筆ペンを使い、毛筆調のしっかりした文字で書くとフォーマル感が出る。黒インクのボールペンでも構わないが、慶事に薄墨は使わないよう注意。
- のし紙を掛ける向き: 水引の中央を贈り物の正面(手前)に合わせてまっすぐ掛ける。複数の品をまとめて包むなら、一つ一つにのし紙を掛けるより、外箱にまとめて掛ける方法もある。
7-3.手渡しと配送でやや違う
- 手渡しの場合: 外のしでもOK。相手に直接渡す際、のし紙が見えていた方が「きちんとした贈り物」だと伝わりやすい。
- 配送の場合: 内のしが一般的。配送中にのし紙が破れたり汚れたりするのを防げるし、控えめな印象も与えられる。送付後に「お礼の品をお送りしましたのでご確認ください」と連絡を入れるとさらに丁寧。
8.“のし”以外に気をつけたいポイント
8-1.メッセージカードやお礼状を添える
のし紙は形式上のマナーを満たすものですが、やはり結婚内祝いを受け取る側としては「お礼の気持ち」を直接感じられるメッセージがあると嬉しいもの。短い文章でも構わないので、
「このたびは温かいお祝いをいただき、心より感謝しています。ささやかですが内祝いの品をお贈りいたしました。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。」
といったメッセージを添えると好印象。相手との関係性に合わせて文体を柔らかくしてもOKです。
8-2.贈るタイミングや金額相場
- タイミング: 結婚式を挙げた場合は、式後1ヶ月以内を目安に。挙式をしない場合でも、お祝いを頂いてから1ヶ月以内くらいを目標に準備する。
- 金額相場: いわゆる「半返し」が基本で、頂いたお祝いの半額程度を目安とする。親族や上司などから高額なお祝いを貰った場合は3分の1程度にするなど、相手とのバランスを考えると良い。
8-3.地域性や家ごとの慣習
結婚内祝いには地域や家の習慣が色濃く反映されることがあります。例えば、ある地域では外のしが一般的だったり、水引の色や本数にこだわりがあったり…。最終的には両親や身近な長辈に相談して合わせるのが確実です。迷ったら、相手側の慣習に寄せておけば失礼にはなりません。
まとめ 「のし」を正しく掛けて気持ちを伝える
結婚内祝いにおける「のし」は、単なる飾りではなく、「あなたからのお祝いに対して、正式なお返しをします」という感謝と礼儀を示す大切な要素です。とくに結婚は人生の一大イベントですから、これを機に改めて日本の伝統的なマナーに触れてみるのも良い機会ではないでしょうか。
- 基本の水引は紅白の結び切り
一度きりの結婚を象徴する結び切りが定番。蝶結びはNG。 - 表書きは「内祝」か「寿」
内祝いの原義を強調したいなら「内祝」、華やかさを出したいなら「寿」でもOK。 - 名前書きは新郎新婦の連名
のし紙の下段に、結婚後の姓を使用。旧姓を併記したいならメッセージカードで。 - 内のし・外のしを使い分け
配送なら内のし、手渡しなら外のしが一般的。 - メッセージを添えてさらに好印象
のし紙はあくまでも形式。相手に対する感謝の気持ちは手紙やメッセージカードでしっかり伝える。
相手が受け取った瞬間、「丁寧に準備してくれたんだな」と感じられるよう、のし紙や包装に少し気を配るだけで、結婚内祝いの印象はぐっと良くなります。ぜひ本記事を参考にして、あなたらしい感謝の気持ちを、マナーに沿った美しい形でお届けしてください。
結婚内祝いは、今後の長いお付き合いの第一歩でもあります。しっかりとした準備と心のこもったメッセージで、「これからもよろしくお願いします」という気持ちを伝えましょう。正しいのしの掛け方と基本的なマナーを守った内祝いは、受け取った方にも喜んでもらえるはずです。どうぞ素敵な門出を迎えてください。