子どもの教育資金を計画的に準備できる学資保険。保険料を支払い、将来的に祝金や満期保険金を受け取ることで、進学時の経済的負担を軽減できる心強い味方です。しかし、学資保険に加入したり給付金を受け取ったりした際に「確定申告は必要なの?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
実は、学資保険と確定申告の関係は状況によって異なります。生命保険料控除を受けたい場合、給付金を受け取った場合、契約形態によっても申告の必要性は変わるので、事前に把握しておくのがおすすめです。本記事では、学資保険に関する確定申告について必要なケースと不要なケース、申告方法まで詳しく解説していきます。
学資保険に確定申告が必要なケースと不必要なケース
学資保険に関して確定申告するのかどうかは、ケースによって異なります。大きく分けると、「生命保険料控除を受けたいとき」「祝金や満期保険金などの給付金を受け取ったとき」「満期保険金を据え置きしているとき」「途中解約をしたとき」の4つのケースがあります。教育資金の準備として多くの家庭で活用されている学資保険は、税金面での取り扱いを正しく理解することでより効果的に活用できる制度です。以下、それぞれのケースについて詳しく見ていきましょう。
生命保険料控除を受けたいとき
生命保険料控除とは、毎年支払っている保険料の一定額を所得から控除できる制度です。学資保険の保険料も控除対象となるため、所得税や住民税の負担を軽減できます。この控除を受けるためには、年末調整または確定申告での申告が必要です。
生命保険料控除は、納税者の税負担を軽減する重要な制度の一つです。学資保険は一般生命保険料控除の対象となり、年間の支払保険料に応じて一定額を所得から控除できます。この控除により、実質的な保険料負担を軽減できるメリットがあります。
確定申告が不必要なケース
会社員や公務員の方で勤務先で年末調整を受けている場合は、確定申告は不要です。年末調整の際に「生命保険料控除証明書」を提出することで、控除を受けられます。また、専業主婦の方で収入がない場合も、そもそも所得税がかからないため確定申告は必要ありません。
年末調整は、会社が従業員に代わって税金の精算を行う制度です。10月頃に保険会社から送られてくる「生命保険料控除証明書」を会社の年末調整書類と一緒に提出すれば、自動的に控除が適用されます。これにより、12月の給与で税金の還付を受けることができます。
確定申告が必要なケース
フリーランスや個人事業主の方は年末調整がないため、確定申告で生命保険料控除を申告する必要があります。また、会社員でも年末調整で控除証明書を提出し忘れた場合や、年収2,000万円を超える方は確定申告が必要です。
さらに、複数の会社から給与を受け取っている方や副業収入がある方も、確定申告が必要になる場合があります。医療費控除や住宅ローン控除など他の控除と併せて申告することで、より大きな節税効果を得られる可能性もあります。
祝金や満期保険金などの給付金を受け取ったとき
学資保険から祝金や満期保険金を受け取った場合、その金額によっては確定申告が必要になることがあります。確定申告が必要になるかは、受け取った金額と支払った保険料の差額によって決まります。
学資保険の給付金は、小学校・中学校・高校入学時に受け取る祝金と、満期時に受け取る満期保険金の2種類です。これらの給付金は保険会社によって名称や支給時期が異なりますが、税務上の取り扱いは基本的に同じです。
確定申告が不必要なケース
受け取った還付金、生存保険金、配当金、返戻金などの合計額から支払った保険料を差し引いた金額(利益)が50万円以下の場合は、確定申告は不要です。また、住民税についても、利益が50万円以下であれば申告の必要はありません。
例えば、18年間で総額180万円の保険料を支払い、満期保険金として200万円を受け取った場合、利益は20万円となります。この場合、50万円以下なので確定申告は不要です。多くの学資保険は元本に対して10~20%程度の返戻率となっているため、確定申告が不要なケースが多いのが実情です。
確定申告が必要なケース
受け取った給付金から支払った保険料を差し引いた利益が50万円を超える場合は、一時所得として確定申告が必要です。また、契約者と受取人が異なる場合は贈与税の対象となり、110万円を超える場合は贈与税の申告が必要になります。
複数の学資保険に加入している場合や、同じ年に複数の給付金を受け取った場合は、それらを合算して計算する必要があります。また、他の一時所得(懸賞金、競馬の払戻金など)がある場合も合算されるため、注意が必要です。
満期保険金を据え置きしているとき
据え置きとは、満期保険金を受け取らずに保険会社に預けておく仕組みです。据え置き期間中は保険会社が運用し、利息が付きます。
据え置き制度は、すぐに教育資金が必要でない場合に活用できる便利な制度です。一般的に、据え置き期間中は市場金利よりも高い利率で運用されることが多く、定期預金代わりに利用する方もいます。ただし、据え置き期間には上限があり、保険会社によって5年や10年などと定められています。
確定申告が不必要なケース
祝金を据え置きしているだけで実際に受け取っていない場合は、その年の確定申告は不要です。据え置き中の利息についても、受け取るまでは申告の必要はありません。
税据え置き期間中はいつでも引き出すことができますが、引き出すまでは税金はかかりません。
確定申告が必要なケース
満期保険金を一括で受け取る場合、支払った金額から増えた部分が50万円以上だった際には満期時に一時所得として確定申告が必要になります。また、利息部分については、20万円を超える場合は雑所得として申告が必要です。
例えば、200万円の満期保険金を5年間据え置きし、利息が25万円付いて225万円を受け取った場合、元本200万円は払込保険料から増えた分を一時所得として、利息25万円は雑所得として、それぞれ計算する必要があります。このように、据え置きを利用した場合は税金の計算が複雑になることがあるため、注意が必要です。
途中解約をしたとき
学資保険を途中解約すると、解約返戻金を受け取ることができます。ただし、支払った保険料より少ない金額になることが多いです。
学資保険の途中解約は、家計の急変や他の投資商品への乗り換えなど、様々な理由で行われます。しかし、学資保険は長期契約を前提とした商品のため、早期解約では大きな損失が発生することがほとんどです。
確定申告が不必要なケース
解約による払い戻し金が、支払った保険料の総額を下回る場合(元本割れ)は、利益が発生していないため確定申告は不要です。学資保険の途中解約では、ほとんどのケースで元本割れするため、確定申告が不要なことが多いです。
特に契約から5年以内の解約では、解約返戻金が支払保険料の50~70%程度になることが多い傾向にあります。例えば、3年間で60万円の保険料を支払い、解約返戻金が40万円だった場合、20万円の損失となるため、確定申告の必要はありません。
確定申告が必要なケース
まれに、解約返戻金が支払った保険料を上回る場合があります。この場合、差額が50万円を超えると一時所得として確定申告が必要です。
このようなケースは、契約から相当期間が経過し、返戻率が100%を超えた後に解約した場合などに発生します。また、配当金が多く付いている契約や予定利率の高い古い契約などでは、解約返戻金が支払保険料を上回ることがあります。
必要なのに学資保険の確定申告しなかったらどうなる?
給付金を受け取ったにもかかわらず、確定申告しないとどうなるのでしょうか。実は、保険会社は一定額以上の保険金を支払った場合、税務署に「支払調書」を提出しています。そのため、確定申告が必要な金額を受け取っているのに申告していないと、税務署にばれる可能性が高いです。
保険会社が税務署に提出する支払調書は、一時金で100万円超、年金で20万円超の支払いがあった場合に提出されます。この情報は税務署のデータベースに蓄積され、納税者の申告内容と照合されます。
確定申告を忘れた場合や意図的に申告しなかった場合は、本来納めるべき税金に加えて「無申告加算税」や「延滞税」などのペナルティが課される可能性もゼロではありません。無申告加算税は、納付すべき税額に対して50万円までは15%、50万円を超える部分は20%が加算されます。
さらに、延滞税は納期限の翌日から納付日までの期間に応じて計算され、年利最大14.6%もの高率で課されることがあります。例えば、本来30万円の税金を納めるべきだった場合、1年後に発覚すると、無申告加算税4.5万円、延滞税約4万円が加算され、合計約8.5万円を納めることになるのです。
また、悪質な脱税と判断された場合は、さらに重い「重加算税」が課されるケースもあります。重加算税は、本税の35~40%という極めて高い税率で課されます。確定申告が必要かどうか不明な場合は、税務署や税理士に相談するようにしましょう。
学資保険の税金の種類と計算方法
学資保険に関する税金は、保険料負担者と受取人の関係によって異なります。主な税金の種類は以下の通りです。
保険料負担者 | 受取人 | 税金の種類 | 金額の基準 |
父 | 父 | 所得税(一時所得) | 利益50万円超 |
父 | 母・子 | 贈与税 | 110万円超 |
父 | 父(年金形式) | 所得税(雑所得) | 20万円超 |
この表からわかるように、税金の種類は契約形態によって大きく異なります。一般的には、契約者と受取人を同一にすることで、税負担を軽減できることが多いです。
一時所得の計算方法
一時所得は、受け取った保険金から支払った保険料と特別控除額50万円を差し引いて計算します。さらに、課税対象となるのはその半分の金額です。
計算式:(受取金額 – 支払保険料 – 50万円)× 1/2 = 課税対象額
一時所得の特徴は、2分の1課税という優遇措置があることです。これにより、実際の税負担は大幅に軽減されます。また、基礎控除額48万円も適用されるため、他に所得がない場合は、さらに税負担が軽くなります。
100万円受け取った場合のシミュレーション
- 受取金額:100万円
- 支払保険料:70万円
- 一時所得:100万円 – 70万円 – 50万円 = -20万円(マイナスのため課税なし)
- 税額:0円
このケースでは利益が30万円しかないため、特別控除50万円を差し引くとマイナスとなり、税金はかかりません。
200万円受け取った場合のシミュレーション
- 受取金額:200万円
- 支払保険料:120万円
- 一時所得:200万円 – 120万円 – 50万円 = 30万円
- 課税対象額:30万円 × 1/2 = 15万円
- 税額(所得税率10%の場合):15万円 × 10% = 1.5万円
300万円受け取った場合のシミュレーション
- 受取金額:300万円
- 支払保険料:180万円
- 一時所得:300万円 – 180万円 – 50万円 = 70万円
- 課税対象額:70万円 × 1/2 = 35万円
- 税額(所得税率20%の場合):35万円 × 20% = 7万円
この課税対象額に、その人の所得税率を掛けて実際の税額が決まります。基礎控除額は48万円ですが、他の所得と合算して計算されるため、給与所得などがある場合は注意が必要です。所得税率は課税所得に応じて、5%から45%まで段階的に上がります。
雑所得の計算方法
年金形式で学資金を受け取る場合は、雑所得となります。計算式は以下の通りです。
計算式:その年に受け取った年金額 – 必要経費(その年に受け取った年金額 × 支払保険料総額 ÷ 受取学資金総額)
雑所得は一時所得と異なり、2分の1課税の適用がありません。また、特別控除もないため、税負担が重くなる傾向があります。ただし、必要経費として支払保険料の一部を差し引けるため、実際の利益部分のみが課税対象となります。
例えば、支払保険料総額180万円、年金受取総額200万円(年40万円×5年)の場合:
- 1年目の雑所得:40万円 – (40万円 × 180万円 ÷ 200万円)= 4万円
- 必要経費:36万円
- 課税対象額:4万円
このように、年金形式で受け取る場合は、毎年少額ずつ課税されることになります。トータルの税負担を考えると、一時金で受け取る方が有利な場合が多いです。
贈与税の計算方法
契約者(保険料負担者)と受取人が異なる場合は、贈与税の対象となります。例えば、父が契約者で子が受取人の場合がこのケースに当てはまります。
計算式:(受取金額 – 基礎控除110万円)× 税率 – 控除額
贈与税は累進課税で、金額が大きくなればなるほど税率も高くなります。110万円以下の場合は非課税となるため、申告は不要です。贈与税の税率は、一般贈与財産の場合、200万円以下で10%、300万円以下で15%、400万円以下で20%と段階的に上がり、最高税率は55%にもなります。
例えば、子が200万円の満期保険金を受け取った場合:
- 課税価格:200万円 – 110万円 = 90万円
- 税額:90万円 × 10% = 9万円
このように贈与税は他の税金と比べて税負担が重くなることが多いため、契約形態には注意が必要です。
学資保険の確定申告のやり方と注意点
学資保険に関する確定申告は、申告する内容によって書き方や必要書類が異なります。ここでは、それぞれの申告方法と手続きについて、記入例を交えながら詳しく解説していきます。申告方法を正しく理解することで、スムーズに手続きを進めることができるでしょう。
生命保険料控除を利用する場合
生命保険料控除を受けるために必要な書類は、以下の通りです。
- 確定申告書
- 生命保険料控除証明書(保険会社から送付されるもの)
- 源泉徴収票(会社員の場合)
- マイナンバーカードや運転免許証などの本人確認書類
確定申告書の記入では、第一表・第二表の「生命保険料控除」欄に金額を記入します。控除証明書に記載されている年間支払保険料を転記し、控除額を計算しましょう。
注意点として、加入時期によって新制度と旧制度の違いがあります。
- 新制度(2012年1月1日以降の契約):最高控除額4万円
- 旧制度(2011年12月31日以前の契約):最高控除額5万円
両方の契約がある場合は、それぞれ計算して合計しますが、最高控除額は4万円となります。新旧両方の契約がある場合は、有利な方を選択することも可能です。例えば、旧制度の保険料が10万円以上ある場合は、旧制度のみで5万円の控除を受けた方が有利です。
一時所得を申告する場合
一時所得の申告に必要な書類:
- 確定申告書
- 保険金等の支払通知書
- 保険料の支払証明書類
- 源泉徴収票(会社員の場合)
確定申告書では、第二表の「雑所得・一時所得等」欄に記入します。収入金額から必要経費(支払保険料)を差し引いた金額を記載し、特別控除50万円を適用します。
具体的な記入方法は、まず収入金額の欄に受け取った保険金の総額を記入し、必要経費の欄に支払った保険料の総額を記入します。その差額から50万円を控除し、さらに2分の1を掛けた金額が課税対象となります。この金額を第一表の一時所得の欄に転記します。
雑所得を申告する場合
雑所得の申告に必要な書類:
- 確定申告書
- 年金支払証明書
- 保険料の支払証明書類
雑所得は第二表の「雑所得」欄に、公的年金等以外の雑所得として記入します。収入金額と必要経費を正確に計算して記載することが重要です。年金形式で受け取る場合は、毎年申告が必要になるため、支払証明書類は大切に保管しておきましょう。
必要経費の計算では、その年に受け取った年金額に対応する保険料相当額を算出します。この計算を誤ると税額が大きく変わってしまうため、慎重に計算する必要があります。
贈与税を申告する場合
贈与税の申告は、所得税の確定申告とは別に行います。
贈与税の申告に必要な書類:
- 贈与税申告書
- 保険金等の支払通知書
- 戸籍謄本等(受贈者と贈与者の関係を証明するもの)
贈与税の申告期限は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までです。申告書には、贈与者の氏名、住所、贈与を受けた財産の明細などを記入します。
贈与税の申告書は、税務署で入手できるほか、国税庁のホームページからダウンロードすることも可能です。記入に際しては、贈与者と受贈者の関係を明確にし、贈与を受けた財産の評価額を正確に記載する必要があります。
まとめ
学資保険の確定申告は、状況によって必要性が異なります。生命保険料控除を受けたい場合は、会社員なら年末調整で、個人事業主なら確定申告で申告が必要です。給付金を受け取った場合は、利益が50万円を超えると一時所得として申告が必要になります。
また、契約者と受取人が異なる場合は贈与税の対象となり、110万円を超える場合は申告が必要です。確定申告を忘れるとペナルティが課される可能性があるため、必要な場合は必ず期限内に申告しましょう。
学資保険は子どもの教育資金を準備する大切な手段です。税制を正しく理解し、適切に申告することでより効果的に活用できます。特に、契約形態によって税負担が大きく変わるため、加入時から税金を考慮しておくことが重要です。
最後に、税制は頻繁に改正されることがあります。そのため、不明な点がある場合は税務署や税理士に相談することをおすすめします。専門家のアドバイスを受けることで、適切な申告を行い、無用なトラブルを避けることができるでしょう。