両親が高齢になってくると、「親に死亡保険をかけることはできるのか?」と考える方もいるのではないでしょうか。親御さんが生命保険に未加入だったり、保険料の支払いが大変そうだったりすると、万が一のときのために子どもが代わりに保険をかけてあげたいと思うこともありますよね。
親に保険をかける目的は決して「保険金目当て」ではなく、残された家族の生活費や葬儀費用など万が一の際の経済的備えです。しかし、実際に子どもが親に死亡保険をかけることはできるのでしょうか? また、どんな方法があり、どんな点に注意すべきなのでしょうか?
本記事では、親に死亡保険(生命保険)をかけることができるかどうか、その仕組みや契約方法について解説します。さらに、保険金受取人による税金の違いや保険料・加入時の注意点など、親に生命保険をかける際に知っておきたい重要ポイントも詳しく紹介します。親の保険加入を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。
親に生命保険をかけることはできる?
結論から言うと、子どもが契約者となり親を被保険者とする形で、親に生命保険(死亡保険)をかけることは可能です。 保険契約では「契約者」「被保険者」「保険金受取人」の3つの役割がありますが、子どもが契約者(保険料を支払う人)となり、親を被保険者(保障の対象となる人)として契約すれば、親に万が一のことがあった場合に保険金を受け取れるよう備えることができます。
ただし、親に生命保険をかける際にはいくつか注意すべきポイントもあります。例えば、契約時には親の同意が必要であること、保険金受取人の設定によって税金の種類が変わること、親の年齢によっては保険料が高額になることなどです。また、子どもが支払う保険料は所得控除(生命保険料控除)の対象にもなります。以下で、親に生命保険をかける方法と、知っておきたいポイントを順に解説していきます。
子が契約者になり、親に生命保険をかけられる
子どもが契約者となって親に生命保険をかけることは、保険会社でも認められている一般的な契約形態です。親子はお互いに経済的利益(保険をかける必然性)のある関係とみなされるため、親を被保険者として子が生命保険契約を結ぶことが可能です。実際、親御さんが生命保険に入っていない場合や、親自身が保険料を支払うのが負担になっている場合に、子どもが代わりに保険料を負担して契約するケースもあります。
契約にあたっては、保険会社の所定の申込書で子どもを契約者、親を被保険者として記入します。親が健康で一定の加入年齢以内であれば、通常の生命保険(死亡保険)に申し込むことができます(年齢制限については後述)。契約には当然ながら親の同意と署名が必要で、健康状態を告知したり医師の診査を受けたりする点は、通常の保険契約と同じです。親に万が一のことがあった際には、契約時に定めた受取人に死亡保険金が支払われます。
なお、親を被保険者とする生命保険契約では、契約者である子どもが保険料を支払うことになります。保険料の支払い方法は、子ども名義の口座振替やクレジットカード払いなどで行うことが可能です。親のために子どもが保険料を負担しておけば、親御さん自身の家計の負担を軽減しつつ、万が一の場合に備えることができます。
保険料は生命保険料控除の対象になる
親の生命保険料を子どもが支払う場合、その保険料は生命保険料控除として子どもの所得から差し引くことができます。生命保険料控除とは、年間に支払った生命保険の保険料の一定額を所得控除できる仕組みで、年末調整や確定申告で申告すると所得税・住民税の負担が軽減されます。
契約者が子どもであれば、毎年秋頃に保険会社から送られてくる「生命保険料控除証明書」も子ども名義で発行されます。その証明書を用いて会社員の方は年末調整で、個人事業主の方は確定申告で控除の申請をすることが可能です。子どもが親の保険料を負担する最大のメリットの一つが、この税金面での優遇と言えるでしょう。支払った保険料に応じて税金の一部が戻ってくる(正確には所得から差し引かれる)ため、実質的な支出負担を軽減できます。
なお、契約者が親御さん本人である場合には、控除証明書は親御さんの名義となります。この場合、たとえ子どもがお金を出して保険料を支払っていても、子ども自身は生命保険料控除を受けることができない点に注意が必要です。親に保険をかける際は、契約者を子ども名義にすることで、このような控除の恩恵を受けられるようにしておきましょう。
受取人は契約者やそれ以外の親族を指定できる
生命保険の保険金受取人には、契約者本人(子ども)だけでなく、それ以外の親族を指定することもできます。一般に、被保険者と経済的な利害関係がある親族であれば受取人に指定することが可能です。親に死亡保険をかける場合、典型的には以下のようなケースが考えられます。
- 子どもを受取人にするケース: 親が亡くなったとき、葬儀費用やお墓の準備費用などを子ども(契約者)が負担することを想定している場合です。この場合、死亡保険金を子ども自身が受け取れるよう受取人に指定しておけば、保険金でそれらの費用をまかなうことができます。
- 配偶者(もう一方の親)を受取人にするケース: 例えば父親に保険をかけている場合で、父親が亡くなった後に残される母親の生活資金に充てることを想定するケースです。受取人を母親にしておけば、まとまった死亡保険金を母親が受け取ることで、今後の生活費や介護費用の助けにすることができます。
このように、死亡保険金の受取人は家庭の状況や保険金の使いみちを考えて設定することが重要です。誰を受取人にするかによって、後で述べる税金の種類が変わる点にも注意が必要です。契約者・被保険者・受取人の関係性によって相続税・所得税・贈与税のいずれかが課税されるため、税負担も考慮して受取人を決めることをおすすめします(詳細は次の章で解説します)。
親に生命保険をかけるときの4つの注意点
親に生命保険をかける契約では、いくつか気をつけておきたいポイントがあります。ここでは、特に重要な注意点を4つ取り上げて解説します。
内緒で親に死亡保険をかけることはできない
まず、親に内緒で勝手に生命保険を契約することはできません。 生命保険の契約には被保険者本人(ここでは親)の同意と署名が必要であり、親御さんに黙って子どもだけで契約を結ぶことは認められていません。仮に親の了解を得ずに契約を結んでも、後に発覚した場合には契約自体が無効となったり、保険金が支払われなかったりする可能性があります。
保険会社は、被保険者が自分にかけられた保険の内容を理解し同意していることを確認します。これは、道義的危険(モラルリスク)を防ぐための重要なルールです。例えば、被保険者本人が知らない間に保険に加入することができるとと、不正に保険金を受け取ろうとする事件につながりかねません。そのため、生命保険契約では契約者と被保険者が別人の場合でも、必ず被保険者本人の署名や同意書が必要となっています。
親に死亡保険をかけたい場合は、正直にその意図を親御さんに伝え、理解を得た上で手続きを進めましょう。親御さんが高齢で判断能力が心配な場合は後述する引受基準緩和型の保険のように告知(健康状態の申告)を簡略化できる商品もありますが、いずれにせよ契約の意思確認は避けて通れません。そのため、きちんと話し合ってから保険に加入することが大切です。
保険金の税金は受取人によって違う
親に生命保険をかけて死亡保険金を受け取る際、その保険金に課される税金の種類は契約者と受取人の関係によって異なります。 主に「相続税」「所得税(※一時所得)」「贈与税」のいずれかとなり、どの税金がかかるかで最終的な手取り額が変わってきます。ここで、主なケースと税金の種類を確認してみましょう。
- 契約者が子ども、受取人も子ども(被保険者=親)の場合:受け取った死亡保険金は「一時所得」として所得税・住民税の課税対象です。自分で支払った保険料に対する給付金を受け取る形となるため、利益部分に対して所得税が課されます。一時所得には50万円の特別控除があり、さらに所得計算上その1/2のみが課税対象となるため、他の税金に比べて負担が比較的軽くなる傾向があります。
- 契約者が子ども、受取人が子ども以外の親族(例:親の配偶者や別の子)の場合:受け取った死亡保険金は「贈与税」の課税対象です。この場合、保険料を負担した契約者(子ども)から受取人へ保険金という形で贈与があったとみなされます。贈与税は年間110万円の基礎控除を超える部分に高い税率が課されるため、課税額が大きくなりやすい点に注意しましょう。
- 契約者が親(被保険者も親)、受取人が子どもの場合:受け取った死亡保険金は「相続税」の課税対象です。死亡保険金は「みなし相続財産」として扱われ、法定相続人一人あたり500万円まで非課税になる特例があります。ただし相続税は他の遺産と合算して計算されるため、保険金額によっては相続税の負担も発生します。
一般的に贈与税が最も負担が重く、次いで相続税、所得税(一時所得)が軽いとされます。同じ保険金額でも、誰を受取人にするかで手取り額が変わるため、契約時に税金面も考慮して設計することが大切です。特に子どもが親に保険をかける場合は、契約者である子ども自身を受取人に指定することで贈与税を回避できます。 税負担を抑えるため、基本的には子どもを受取人にすることを検討しましょう。
高齢の親の死亡保険料は高額になる
生命保険の保険料は、被保険者の年齢が上がるほど高額になります。親の年齢が高い場合、同じ保証内容でも若い頃に比べて月々の支払い保険料が何倍にも跳ね上がることが多いです。。例えば、あるシミュレーションでは60歳の親が死亡保険金1,000万円の終身保険に加入した場合、月々の保険料が4万円前後になりました。一方で30歳の人が同じ条件で加入すると、月々1.5万~2万円程度で済むこともあります。このように、30歳と60歳では保険料に約2~3倍もの差が生じることも珍しくありません。
さらに70代以上ともなると、加入できる死亡保険の選択肢自体が限られてきます。多くの保険商品では加入年齢の上限が設定されており、70歳を超えると新規加入できない場合もあります。仮に加入できたとしても、保険料が非常に高額になったり、持病があると通常の保険には入れず引受基準緩和型(持病があっても入れる代わりに保険料が割高な保険)を選ぶ必要が出てきたりもするでしょう。
上記のように親が高齢になってから死亡保険をかけようとすると、保険料負担が大きくなりすぎる恐れがあります。高い保険料を長年支払い続けると、受け取る保険金と払込保険料の総額が同じくらいになってしまい、「あまり得をしなかった」という結果にもなりかねません。親に保険をかけることを検討している場合は、できるだけ早めに加入手続きを行い、若いうちから保障を準備しておくことが大切です。そうすることで、保険料を抑えつつ、無理のない範囲で親の保障を確保できるでしょう。
そもそも加入できないこともある
親御さんの年齢や健康状態によっては、そもそも生命保険に加入できない場合もあります。生命保険の商品ごとに新規加入できる年齢の上限が決まっており、例えば終身保険では概ね80歳まで、定期保険では70歳前後までといった制限が一般的です。親がその上限年齢を超えている場合、残念ながら通常の死亡保険には加入できません。また、過去に大きな病気を患っていたり現在治療中の病気があったりすると、健康告知の審査で引っかかり契約を断られるケースもあります。
高齢者向けには持病があっても入りやすい引受基準緩和型や、極端な場合は無選択型(医師の診査や告知なしで入れる代わりに保険金額が低めの保険)といった商品も販売されています。しかしこれらは通常の保険に比べて保険料が割高であったり、保障額に上限があったりします。そのため、どうしても通常の生命保険に入れない場合の最後の手段と考え、利用するか検討するとよいでしょう。
いずれにせよ、親に死亡保険をかけたいと思ったときに年齢や健康状態が原因で加入を断念せざるを得ないケースは十分起こり得ます。前述の通り、早めに検討し、加入できるうちに手続きを済ませておくことが重要です。
親にかける死亡保険の選び方
親御さんにかける死亡保険を選ぶ際は、以下のポイントを考慮するとよいでしょう。
- 保険をかける目的を明確にする: まずは、なぜ親に死亡保険をかけたいのか目的を整理しましょう。残された配偶者(もう片方の親)の生活費を確保したいのか、葬儀やお墓の費用を準備したいのか、それとも相続対策として一定の現金を残したいのかなど、目的によって適切な保険の種類や金額が変わってきます。
- 必要な保険金額を見積もる: 目的に応じて、どの程度の死亡保険金が必要か試算することも重要です。例えば、葬儀やお墓の費用が目的であれば数百万円程度が目安になります。一方、残された親の生活費保障が目的なら、住宅ローンの有無や遺族年金なども考慮したうえで、数千万円規模の保障が必要な場合もあります。ただし保険金額を上げれば保険料も高額になるため、無理のない範囲で設定することが大切です。
- 保険の種類・期間を検討する: 保険には、一生涯保障が続く終身保険と、一定期間のみ保障する定期保険があります。親の年齢や目的によって適した種類を選びましょう。高齢の親で確実に葬儀代を残したいなら解約返戻金のある終身保険が向いていますし、一定期間だけ大きな保障が欲しい場合は保険料の安い定期保険も選択肢になります。なお、終身保険の場合は保険期間は一生涯ですが、保険料の払込期間は終身払いだけでなく一定期間で払い込むタイプ(例:10年払込や60歳払込終了など)も選べるので、子どもの支払い能力に応じて選ぶとよいでしょう。
- 親の年齢・健康状態に合った商品を選ぶ: 親御さんの現在の年齢や健康状態も商品選びの重要な要素です。前述のように年齢や健康状態によって加入制限があるため、親が加入可能な保険商品に絞って比較検討しましょう。比較的健康であれば一般的な生命保険、持病があって心配な場合は引受基準緩和型といった持病のある方向けの保険のように、状況に合わせて検討する必要があります。また、複数の保険会社の商品を比較し、保険料や保障内容、加入条件を見比べて最適なプランを選ぶことが大切です。
親にかけた死亡保険の受け取り方
実際に被保険者である親御さんが亡くなられた場合、速やかに保険金の請求手続きを行いましょう。基本的な流れは以下の通りです。
- 保険会社へ連絡する: まず契約している保険会社の窓口に連絡し、被保険者(親)が死亡したことを伝えます。契約者や証券番号、死亡日時などを確認されるので、保険証券や契約内容がわかるものを手元に用意して連絡するとスムーズです。その後、保険会社から今後の手続き案内や請求に必要な書類一式が送られてきます。
- 必要書類を準備する: 保険金請求にあたっては、指定の請求書類とあわせていくつかの証明書類が必要です。通常は、死亡診断書(医師が発行する死亡の証明書)や死体検案書、契約時に受け取った保険証券(または証券番号がわかる書類)、受取人の本人確認書類(戸籍抄本や運転免許証、マイナンバーカードのコピーなど)が求められます。保険会社から送付されてきた請求書(保険金請求書)に記入し、これらの証明書類とともに提出できるよう準備しましょう。
- 保険金請求手続きを行う: 必要書類が揃ったら、保険会社所定の方法で請求手続きを行います。書類一式を郵送するか、担当の保険代理店や窓口に提出するのが一般的です。書類に不備がなければ、保険会社での審査・確認が行われます。場合によっては、保険会社から状況の確認や追加の質問があるので、求められた際には速やかに対応しましょう。
- 保険金を受け取る: 保険会社による支払手続きの完了後、指定した受取人の銀行口座に死亡保険金が振り込まれます。支払いまでの期間は、書類提出から通常数日~数週間程度です。亡くなってから3年請求しないままでいると時効(請求権の消滅)になってしまうため、必要書類が揃い次第できるだけ早めに手続きを行うことをおすすめします。
保険金を受け取った後は受け取ったお金の使い道(生活費に充てる、葬儀費用として使うなど)を確認し、適切に活用しましょう。また、相続税の申告や世帯主の変更など必要な手続きがあれば忘れずに行ってください。