【医師監修】先天性風疹症候群(CRS)の症状や原因、感染経路、治療法
先天性風疹症候群(CRS)は、妊娠中のママが風疹ウイルスに感染し、おなかの赤ちゃんも風疹ウイルスに感染することで、難聴や心奇形など重大な病気を持って生まれてくるものです。先天性風疹症候群は、妊娠前のワクチン接種が唯一の有効な予防法であるため、妊娠する前にワクチンの接種を済ませておくことが望ましいです。ここでは、先天性風疹症候群の症状や原因、治療法などについてご紹介します。
先天性風疹症候群とは(原因・症状)
先天性風疹症候群は、おなかの赤ちゃんが胎盤を通して風疹ウイルスに感染し、合併症を引き起こすものです。三大合併症は難聴、心奇形(動脈管開存症など)、白内障です。
そのほかにも、網膜症、血小板減少、発育遅滞、精神発達遅滞などを引き起こすこともあります。妊娠中のママに現れる症状は、発熱や耳の後ろのリンパ節の腫れ、発疹などですが、約25%は症状が現れません。
先天性風疹症候群発症までの経緯・感染経路
風疹ウイルスの感染経路はくしゃみや咳などと一緒にウイルスが飛んで、それを吸い込んだりすることで感染する飛沫感染です。妊娠中のママが風疹ウイルスに感染すると、胎盤を通じておなかの赤ちゃんも風疹ウイルスに感染することがあります。
おなかの赤ちゃんの器官が作られる妊娠12週未満に、ママが風疹ウイルスに感染すると、80~90%の高確率でおなかの赤ちゃんにも感染します。そのうちの90%以上に先天性風疹症候群の症状をもたらすとされ、この時期に感染してしまうと、目、心臓、耳のすべてに症状を持つことが多いです。
妊娠18週以降になると、おなかの赤ちゃんの風疹ウイルスの感染率は約40%となり、先天性風疹症候群の症状が現れる確率は低くなります。なお、妊娠中のママが症状に乏しい感染でも、おなかの赤ちゃんが風疹ウイルスに感染し、先天性風疹症候群を発症する可能性があります。
ママに風疹感染の可能性があるか知る方法
赤ちゃんが先天性風疹症候群を発症するリスクがあるかどうか判断するには、可能な限り妊婦健診の初診時に問診と血液検査による風疹HI抗体価評価をおこなうことが必要です。
問診では、発疹や発熱、耳の後ろのリンパ節の腫れなど、風疹の症状が出ていないかどうか、既に風疹になってしまっている人と濃厚な接触をしていないかどうかを確認します。
症状や風疹患者との接触がない場合には、HI抗体価評価のみおこない、症状が一つでも認められたり風疹患者と接触していたりする場合には、HI抗体価評価と風疹IgM抗体価評価を検査します。そして、1~2週間後に再びHI抗体価評価と風疹IgM抗体価評価をおこない、1回目の検査結果と比較して変化があるかを調べます。
HI抗体価検査は、風疹に対して抗体があるかどうかを見極めるひとつの指標となります。HI抗体価が8倍未満は免疫なし、8~16倍は免疫があっても不十分、32~128倍は免疫がある、256倍以上は最近の感染を考えます。
また風疹に感染したかどうかの指標となるIgM抗体は、発疹が出てから1週間でピークに達し、2~3カ月で低下するので、最近風疹に感染しているかを特定できます。
先天性風疹症候群の治療方法
先天性風疹症候群の有効な治療法はないといわれていますが、難聴は早い段階で補聴器の使用や言語訓練などをおこない、心奇形と白内障には手術をおこないます。難聴、白内障と心奇形の治療については次のとおりです。
●難聴
補聴器を使用して、耳が聞こえやすいように補助します。補聴器の効果があまりない場合には、1歳6カ月以降に人工内耳の手術を検討します。いずれの場合も、しっかりと言葉を聞いて話す練習を続けることが重要になります。
●心奇形(動脈管開存症)
おなかの赤ちゃんには、肺へつながる太い血管(肺動脈)から、心臓から体全体へ血液を送るための太い血管(大動脈)への抜け道である「動脈管」という血管があります。赤ちゃんが生まれ、肺で呼吸をするようになると、動脈管はおよそ2~3週までに自然に閉じます。
しかし、動脈管が自然に閉じないと、体全体へ流れる血液の一部が大動脈から肺動脈へと流れてしまい、心臓や肺に負担がかかることがあります。これを「動脈管開存症」といいます。治療としては、動脈管が閉じるよう促すためのお薬を用いる方法があります。また、このお薬が効かなかった場合には手術で動脈管を閉じます。
●白内障
先天性白内障は、大人になってから起こる白内障とは違い、早期に発見できるかが重要となります。治療が遅れてしまうと、高度の弱視になり、その状態から回復しなくなる恐れがあるからです。
両目とも白内障の場合は、生まれてから10週、片目だけの場合は生まれてから6週までに手術をおこなうほうが良いとされています。手術では、濁った水晶体と硝子体の全部を切除する方法が一般的におこなわれており、手術の後に無水晶体用眼鏡やコンタクトレンズによって矯正します。
先天性風疹症候群の予防方法
先天性風疹症候群の予防法は、「妊娠中に風疹に感染しないこと」です。
妊娠前に風疹抗体価を測定し、風疹ウイルスに対する免疫がない場合には、風疹ワクチンを接種しましょう。予防接種の記録や記憶がない場合も同様に、風疹抗体価を検査し、予防接種をしましょう。また、上にお子さんがいらっしゃる場合は1歳になったらMR(麻疹・風疹混合)ワクチンを接種しておきましょう。
現在、多くの自治体では先天性風疹症候群の予防のために、主として妊娠を希望する女性を対象に、風疹の抗体検査を無料で実施したり、風疹のワクチン接種の助成をおこなったりしています。さらに、風疹抗体価が低い女性と同居している方も対象に、風疹抗体検査の助成をおこなっている自治体もあります。妊娠を希望されている方は、住んでいる地域の保健所に確認してみるとよいでしょう。
しかし、風疹ワクチンは生ワクチンなので妊娠中に接種することができません。風疹抗体価が低いママは、風疹に感染しないよう十分に注意する必要があります。風疹は感染力が強く、インフルエンザの2~4倍といわれています。風疹は、咳やくしゃみなどで感染する飛沫感染なので、マスクや手洗いでの予防をしていきましょう。
まとめ
おなかの赤ちゃんが風疹ウイルスに感染すると、先天性風疹症候群になるおそれがあります。先天性風疹症候群自体には、有効な治療法がなく、難聴をはじめ重大な病気を引き起こすことがあるため、妊娠中は風疹ウイルスに感染しないよう対策が必要です。妊娠前にできるだけ風疹ワクチンの接種を受けておき、風疹患者との接触を避けましょう。もし、発熱やリンパ節の腫れなどの症状がみられた場合は、すぐに医師に相談することが大切です。
参考
・日本小児眼科学会:http://www.japo-web.jp/info_ippan_page.php?id=page09
・日本小児外科学会:http://www.jsps.gr.jp/general/disease/cv/PDA.html
◆風疹に関連するQ&A